「おおきいの、見るです。こんな ぺたんこの石ー」
ベンチに腰掛けた俺の足元で、サイトが自分の顔と変わらないほどの大きさの石を掲げて見せた。
受け取ってみると確かに薄く平たい。別に珍しいものでもないんだろうけど、こういうのって何となく楽しい。
「ほんとだ、面白いね。すべすべだし」
「もっと探すですー」
うきうきした声で言って、サイトはまた姿を消した。
サイトの『冒険』騒動があった後、俺の日常は少しだけ変化した。
マスターと一緒にお昼を食べて、サイトが昼寝してる間マスターを見ているのは変わらない。その後、サイトが目を覚ました後。今までだったら家に帰ってたんだけど、少し寄り道をする事になった。
立ち寄るのは、人のいない公園とか。マスターと相談した結果、『目の届く範囲での冒険』をさせようって事になったんだ。
そんな訳で、今は図書館に付設された裏庭にいる。並木と花壇、ベンチが少しある程度で、隣に遊具の揃った運動公園がある為か、滅多に人は来ない場所だ。
俺はベンチで本を眺めたりしつつ、時々サイトの相手をする。サイトもこの間の『冒険』で懲りているらしく、勝手に遠くまで行ったりはしない。俺の目の届く範囲で駆け回り、それだけでも結構楽しんでる。
「うにゃあぁ!? おっ、おおきいの、変な虫出たー!」
……こんな具合にね。
声を頼りにサイトのところまで足を運んで、何がいたのか覗いてみる。
「変な、って……あぁそうか、サイトから見たら結構大きいから? だんご虫だよ、絵本で見たろ?」
「だんごむし……まーるくなるのです?」
「それそれ。ほら、こうしてつつくと」
「わー! おもしろいですー!」
俺が指先でつつくと、だんご虫はくるりと丸くなる。サイトはそれに大喜びして、丸まったままのそれを両手で抱え上げてしまった。
奇声を発してビビってたくせに……現金なんだから。
しばらく経って、そろそろ帰ろうかと思い始めた頃。こちらへ向かってくる足音が聞こえて、俺はサイトに合図を送った。
人のいない場所を選んではいても、常に無人とはいかないのは想定内だ。俺はボーカロイドの聴力を余すところなく発揮していたし、人が来そうな時にはサイトに隠れるよう合図をすると、あらかじめ話し合ってあった。
さりげなく視線を向けると、足音の主は女の子のようだ。どうやら一人、連れはいないと見える。俺が目に入ったようで、ふと足を止めた。
かと思うと、いきなり瞳を輝かせて競歩の速度で歩み寄ってきた。
「KAITO!? ボーカロイドだよね、こんな近くにもいたんだ!」
頬を紅潮させて、興奮した口調で話しかけられる。とりあえず曖昧に笑って会釈してみた。
「っと、ごめんなさい。ミクとかリンは何度か見かけたんだけど、KAITO見たのって初めてで」
「あぁ、この辺りにはボーカロイド少ないみたいですね。俺もまだ逢った事ないです」
ミクちゃんリンちゃんは流石にシェアが違うからなぁ。それすら俺は見かけた事ないんだけど、これは俺の行動範囲が狭い所為だろう。
苦笑混じりに返しながら、どうしたものかと考える。サイトが見付かると厄介だから、できれば速やかに通り過ぎてほしいんだけど……まさかそんな事は言えないし。
と、密かに悩んでいた時――あってはならない声がした。
「うにゃあぁ!? おっ、おおきいのー!」
「っわーーー!?」
馬鹿、サイトっ! なんでこのタイミングでそんな奇声?!
「あ、いやあの今のはですね」
目の前の女の子に、何とか言い訳しようと試みる。ってこんなの、どう誤魔化せばいいんだ!
焦りまくる俺に構わず、彼女の瞳が再びキラリと輝いた。
「セイ、セツ! ビンゴっちゃった!?」
あらぬ方向へとかける、その声が喜色に弾んでいる。……何なんだ?
戸惑う俺の目が、カサリと草が揺れるのを見た。
いや、違う。揺れたんじゃない、掻き分けられたんだ。そこから姿を見せたのは、サイト。と、
「――え、えぇ?!」
「おおきいのっ! たねっこ出たですー!」
そう、どう見ても種KAITOだった。サイトより更に小さい、多分10cmくらいしかないような。それが、ふたり。
「マスター、やったよー! お仲間はっけーん!」
「本当に見付かっちゃいましたねぇ。やっぱりセイは凄いですね」
口々に話しながら、小さなふたり連れは女の子の元へ駆け寄る。彼女もしゃがんでふたりを迎え、てのひらの上に掬い上げた。
「ホントだよ、しかもホラ! なんとKAITOまで!」
「えっ、すごーい! ボーカロイドのひとだー!」
「わぁ、初めましてー」
「は、初めまして……?」
キラキラの瞳を3対も向けられて、思わず俺もぺこりと頭を下げた。
・
・
・
その晩、マスターに彼らの事を話すと、驚きよりも不満の色濃い叫びを上げられてしまった。
「えぇー!? 何それズルイ、私も会いたかったー!」
「そんなマスター、ずるいって言われても……ごめんなさい」
謝ると、マスターは目をぱっちりと見開いて一瞬固まった。それから声を上げて笑い、俺の胸に抱きついてくれる。
「あはは、謝る事じゃないでしょ。ごめんね、羨ましかっただけ」
眉尻を下げた、ちょっと情けないような顔。だけど瞳が笑んでいるから、俺もまなじりを下げた。
「マスターだって謝らなくていいです」
背中に腕を回して返せば、ふにゃりと顔をほころばせてくれた。
「それで、どんな子だったの?」
「えぇと、マスターさんは女の子でした。学生……高校生くらいだと思います」
マスターに話すために思い返して、ふと小さく笑いが漏れる。
「なんか、ちょっとマスターに感じが似てたかもしれません。楽しそうなところとか」
「あ、ハイテンション系なんだ? それはますます会いたかったなぁ」
「会えますよ、連絡先聞いてますから。向こうもマスターに会いたいって言ってました」
俺の言葉にマスターはまた目を丸くして、大輪の向日葵のように破顔した。
「流石はカイト、グッジョブだよっ!」
あぁもうマスター、大好きです。しあわせ。
俺はマスターに女の子のアドレスを伝え、マスターはチラリと時計を見て、早速メールを打ち始めた。マスターの仕事はお休みが週末とは限らないから、日程の調整が少し難しいかもなぁ。
それから、話の続きもした。ふたりもいてびっくりした種KAITOの事、サイトの奇声に慌てた話。これは余程可笑しかったらしく、マスターは思いっきり爆笑してた。
「ちょ、本当に焦ったんですよ」
「っぅ、うん、それは焦る……っはは、ごめん、」
「もう……」
不貞腐れる俺に、またマスターが笑う。馬鹿にされてるわけじゃないのは解ってるから、嫌じゃないけどさ。
「はー笑った……でもさ、」
やがて何とか笑いの発作が治まって、マスターは視線をドアへと向けた。ドアの向こう、サイトが寝ている俺の部屋の方へ。
「種KAITO仲間ができたのは良かったよね。友達になれそうな感じだった?」
俺を振り返るマスターの瞳は、優しく緩んだまま。俺も多分同じ瞳をして、微笑みながら大きく頷く。
「マスターさんと同じで、楽しそうな子達でしたよ。サイトも嬉しそうでしたし」
「そっか。ますます、早く会いたいなぁ」
優しい歌のようなマスターの声に、応えるように携帯が着信を知らせた。
早く会いたい、と思っているのは、きっとあの子も同じなんだろうな。
KAITOful☆days #15【KAITOの種】
第3部のスタートです。
「誕生編」「日常編」ときて、ここからは「邂逅編」、或いは「友達編」?
新たな種っ子&マスターの案は、かなり前からありました。何せ1話に戴いたコメントの返信で既に「増えそう」って書いてたしw その時にもう、ある程度の設定は降ってきてましたので…。
しかし今回では殆ど詳細不明のままですね。カイトが描写しないからw ラストに入れようかとも思ったけど長くなりそうなので、次回のお楽しみという事で。
今度の種っ子は何アイスの子でしょうか? お暇な方は予想してみてくださいw
ヒントはマスターが普通の学生さんって事と、ああいうノリの子だって事、種っ子ふたりともサイトより更に小さいって事。
などと書きつつ、これで当てる人が出たらその人をエスパー認定しますけどねw 配色すら描写してないし。あ、名前は出てる! これもヒントですね。
もしも当てる人が現れたら、リクエスト権くらいは進呈したいですね(いらないか;)
第3部スタート、と言いつつ、次から暫くは『KAos~』の更新になります。
予定通りに行けば、「#16」UPは11/13になるかな?
なので、アイス当ての締め切りは11/12ですね。もしも描けたらイラストも上げるので、そちらもヒントにしてください^^
(10/25追記)まさかのエスパー様が早々に現れてくださいました!
うっかり分かり辛い書きかたしてますが、種っ子ふたりはそれぞれ別のアイスの子です。なので2種類、予想してみてくださいね^^
* * * * *
【KAITOの種 本家様:http://piapro.jp/content/aa6z5yee9omge6m2】
* * * * *
↓ブログで各話やキャラ、設定なんかについて語り散らしてます
『kaitoful-bubble』 http://kaitoful-bubble.blog.so-net.ne.jp/
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