ヴォカロ町に元からいるボーカロイド達は、全部で8人いる。



メイコ、カイト、ミク、リン、レン、ルカ、ネル、ハク―――――彼女らは目覚めてから15年、町の皆と彼女らのみで暮らしてきた。





だがしかし―――――15年が経ったある日。



一人のボーカロイド少女が、新たなヴォカロ町の仲間として加わった。





彼女の名は『グミ』。『Megpoid』の『GUMI』。





元はと言えば……彼女は『敵』であるはずだった存在。



だが運命の悪戯か、それとも必然か。



彼女はその闇に縛られかけた心を浄化されて目覚め、闇に染まった仲間や生みの親を裏切った。



今は町で楽しく暮らしながら、同胞たちを救うための生活をしている。





いつの日か、本当の『ヴォカロ町のボーカロイド』として生きられるようにするために。










アブラゼミが五月蠅い。ミンミンゼミも煩い。

ニイニイゼミは姿を消し始めた。ツクツクボウシはまだ出てこない。

五月蠅くないのは夕暮に泣くヒグラシぐらい。



そう、夏である。



この部屋、団扇はあるがその他諸々の冷房機器はない。だから一番涼しいのは冷蔵庫に顔を突っ込むことなのだが、それをやると食物の傷みが早くなるからたまーにしかできない。

で、主に団扇はどっぐちゃんが使っている。何せどっぐちゃんは、こんなんだが俺をルカさんたちに会わせてくれるとても大切な子だ。しかも暑さが大の苦手と来た。下手に邪険にはできないのだ。



というわけで。



私ただいま熱中症寸前で寝ております。

流石に反省したのか、団扇で煽いでくれるどっぐちゃん。因みに夏仕様でノースリーブのミニスカワンピを着ております。バーストモードゆるりーさんが来たらケダモノになりそうなかわいさですが、それをどっぐちゃんに言うとツンデレ発揮して団扇を目にブッ挿してきそうなのでやめておこう。


「Turndog……大丈夫……?」

「あー……だいじょーぶ……」


嘘です。

大丈夫なわけがない。どっぐちゃんほどじゃないが、俺だって暑さに弱い。

おまけに普段ほとんど熱中症なぞならんから熱中症の症状に耐性がついてないんだよ俺は。

つまりアタマすっげー痛いぜイェア! テンションもおかしいぜヘア!



と、その時である。


突然時空転移用PCが点灯し、光が放たれて人の形を作り始めた。

徐々に光が収まって、鮮やかな緑の髪がふわり、と揺れる。


「……お前は!」


こいつが自分から来るなんて珍しいな―――――





「やっほ、Turndog!」





―――――ヴォカロ町の新参アイドル、グミ。ルカさんの大親友ボーカロイドだ。流石親友だけあって呼びかけ方が一緒だな、ルカさんと。


「……ってあれ? どーしたのぶっ倒れて」

「はは……なさけねえことに……熱中症になっちまってな……っと」


もてなそうと起き上がってみるが、足元がおぼつかずグミにもたれかかってしまう。


「っと! ちょ、フラフラじゃない! おとなしく寝てなよ! 気ぃ使わなくていいからさ!」

「悪いな……よっと」


グミに支えてもらい布団に横たわる。ネルといいルカさんといい、ヴォカロ町の女は男より遥かに頼りになる。まぁこないだカイトは役に立ったけどさ。


「それにしても……いくら電子機器系冷房がないったって、団扇あるでしょ? それに水分だってとってるみたいだし、なんでまた?」

「いやその……団扇ずっとどっぐちゃんに貸しててだな……」

「……は?」


ギロ、とどっぐちゃんを睨むグミ。

そして一瞬で顔が真っ青になるどっぐちゃん。おおいいね涼しそうだね、でも手は止めないでくれ三途の川が見えてしまう。


そう。実はどっぐちゃん、グミがヴォカロ町のボーカロイドの中で誰よりも苦手なのだ。

というのも、グミはミク以上に真っ直ぐに言葉を放つ。即ち正論を叩き付けてくるのだ。

素直な表現の苦手などっぐちゃんにとって、これほど嫌なものはない。

おまけにグミはヴォカロ町メンバーの中で最も素直に俺に対する感謝だの尊敬だのを向けてくれている(俺に尊敬できるところがあるかどうかは置いとけ、いいな?)。恐らくは、かつて敵として登場した自分をヴォカロ町の仲間として迎え入れさせてくれたことに対する感謝とかなんだろう。

これがまた困ったことに、いつも俺の傍に居るどっぐちゃんに対する嫉妬に近いものを生み出してしまうのだ。おかげでちょくちょくグミはどっぐちゃんに辛く当たってしまう。



「……どっぐちゃん?」

「な……何よ!」


ちょっと抵抗してみるどっぐちゃん。……しかしグミの目つきは完全にド怒りモードな三白眼だ。


「何よじゃないでしょ!? 団扇独占なんて何やってんのよ!? Turndog死んだらどーするつもりよ!?」

「だ……だって! あたしあついの全然ダメだし、それにTurndogがいいって―――――」

「たとえそう言ったとしても!! あたしたちボーカロイドや、あんたみたいな精神体とプログラムの融合体みたいなのと違って、Turndogのほうが遥かに打たれ弱いんだからね!? 少しは気遣いなさい、このバカ!!!」


びしりと言い放った。いいぞもっとやr……なんでもないです。

しばらくすると、フルフルとどっぐちゃんが震えだした。

キレるか? そう思っていた途端――――――――――



「ふ……ふぇ……ふえああああああああああああああああん……!」



……泣きだした。

大声でボロボロ泣きだした。

これにはさすがにグミもうろたえたようだ。


「え、ちょ、何泣いてんのよ!?」

「だって……だってぇ……Turndogがいいって言ったから使ってたのにぃぃぃ……ふああああああん……」


大声で泣き続けるどっぐちゃん。まずいぞ、もしもこの声が『あの状態』の『あの娘』に聞かれたら―――――





《ドゴガァアアンッ!!!!》





こないだの203号室よろしくドアが吹っ飛ぶ。

何事かとみてみれば、虹色の輝きを放つ太刀を構えた、青緑の髪のポニテ少女が立っていた。

最悪の予感的中だ―――――『バーストモード』のゆるりーさんだ!!


『……今し方どっぐちゃんの泣き声が聞こえたのですが……どっぐちゃんを泣かせたのはグミちゃんっ!!?』

「う……そうだけど……!?」

『たとえグミちゃんでもどっぐちゃんを泣かす者は容赦しない……地に平伏せえええええええええっ!!!!』

「あたし相手にそれを言うか……!! ならば受けて立ってやるっ!!!!」

『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイッッ!!!!!』

「うああああああああああああああああああん……」



……カオス。

頼む。頼むから……





「頼むから休ませてくれええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!!!」










―――――5分後―――――










『ほんっとうに……ごめんなさいっ!!』


どっぐちゃん、グミ、ゆるりーさん全員にとりあえず土下座してもらいました。因みに騒動を聞きつけたしるるさんも後ろでハリセンを持っております。うーん、シュール。


「……とりあえず、ゆるりーさんは状況よく見てくれ。『マナーモード』でできることが『バーストモード』でできないはずないでしょ? 気まぐれなだけで二重人格じゃないんだから……」

「はい……すみません……」

「どっぐちゃんは正論叩き付けられただけで泣かないの。実質どっぐちゃんが暑さにすこぶる弱いのはホントなんだし、俺が倒れた後も独占してたわけじゃないんだから……」

「うん……」

「……そしてグミ。正論は確かに正しい。だが正論を武器として振り回す奴は正しくない。そこんとこ、ちゃんと理解しておけよ」

「はい……」


はい、説教終了。頭痛い時は頭使わないほうがいいですね。


「……ふー……それじゃしるるさん、あとはお願いします」

「了解♪とりあえず3人ともこっち来て―――――」

「あ、グミだけは置いてって」

「ほえ? なんで?」

「……どうせ何か用事があったんだろ? わざわざお前だけで出向いてくるってことはよ」


グミオンリーで俺のところにやってくるなんてことは滅多にない。来るときはたいてい、ルカさんかミク辺りにくっ付いてくるのだ。

そんな彼女が一人でやってくるというのは、それなりの理由があってのことのはずだ。


「……ふぅ。バレバレみたい……ね」

「……ん。しるるさん、そーゆーことで」

「りょ~かいです!」


『(´・ω・`)』な顔をしているゆるりーさんとどっぐちゃんを引きずってしるるさんが出ていき、部屋の中には俺とグミだけが残った。

軋む頭を抑えつつ、グミのほうに顔を向ける。



『さ、話してみな。悩みでも何でもさ』

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町! Part7-1~グミちゃんの来訪~

(現時点での)ヴォカロ町最後のボーカロイド、来訪ですw
こんにちはTurndogです。

何かと本編では空気になることの多いグミちゃんですが、設定のおかげで結構悲劇の少女みたいなことになってるためもっと動かしてみたいんですよね。

あとゆるりーさんがどっぐちゃんのために暴走するのは仕様ですw
丁度良く刀貰ってたしいいかなーと。
と言ってもそろそろ落ち着かせようと思うけど。
(でもそうすると書けるネタがなくなっちゃうとか言えない←)

ちなみに書いてる時わりとマジで熱中症寸前でしたw
去年の今頃も勉強中に倒れた記憶があります。
受験生の皆、勉強に集中するのはいいけど水分もとろうね☆

閲覧数:176

投稿日:2013/08/14 16:39:07

文字数:3,729文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    どっぐちゃんかわいっ!
    泣いたら、めっちゃかわい!……こほん

    ゆるりーさんとどっぐちゃん
    あの後、当然……にこっ

    帰りにピノあげましたから、大丈夫です←なにが?

    2013/08/14 19:37:49

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      かわいいがどっぐちゃんなんだ(名言のつもりか?

      このヒトこわっ!!
      笑顔で地面割っちゃうタイプやこの人!!ww

      そんな手当で大丈夫か?
      大丈夫だ、問題ない((

      2013/08/14 21:25:05

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    多分、私は刀よりチョークを武器にしたほうが強いですよ←
    剣道はやってないし、チョークを投げるほうが戦いやすいので←

    でも私は団扇がないんですよ?
    そう考えると、ターンドッグさんは比較的涼しいほうですよ。

    熱中症大丈夫ですか?
    今年は凄く暑いですし、なりやすいので気をつけてくださいね。

    怒られた(´・ω・`)
    当たり前だけど、しるるさん怒ると怖いです(´・ω・`)
    ハリセン…?

    2013/08/14 17:51:57

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      でもぶっちゃけ『あのグミちゃん』に飛び道具で勝てる?ww
      見えないトマホークをぶっぱなすあの子に……w

      ……今度貸すね……w
      うん。

      半日ほど爆睡したら治りましたw
      こー言う時はネルに限る(え?

      なんだかんだで大人だしね……。
      ハリセンのほうがお説教ぽくない?w

      2013/08/14 21:23:33

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