ある日の放課後、jamバンド…もといコンピューター愛好会の部室に数名が屯し何やら話し込む姿があった。
そこにはいつものバンドメンバー、弦巻マキ・鼓リズム・鼓カノン。
そして偶然その場に居合わせて宮舞モカに加え、さらに見慣れない人影が2つほど。
一人は姉リズムに似た体格の小さな女の子で、もう一人は長身の妹カノンと同じくらいな背丈の妙齢の女性だった。
姉の背が低く妹が大柄というと少し混乱するかもしれないが、この姉妹はそういうコンビなのでご了承願いたい。

しばらくマウスを操作していたリズムはみんなの方へ振り向くと、いつもの語尾を交えて喋り出す。
「これを見て欲しいニョロ。」
そう言って彼女が指差したのは、パソコンの画面に写し出されたWeb上のとあるページ…、
有志の書き込みによって作られるネット百科事典。
その記事には日本の某神社についての情報がまとめられていた。
さらにリズムはそのページにある一文へマウスカーソルを合わせ範囲選択する。
「役行者の兄弟子…?」
後ろで画面を見つめていたモカがその一文を読み上げる。
役行者(えんのぎょうじゃ)、それは古代日本において仏教を各地へ布教して回ったという伝説の修験者だった。
「なんや、ウチのご先祖様やないか。」
その名前を聞くなりツインドリルの髪をした小さい女の子が口を開く。
彼女の名は如月ついな。
役行者の遠い子孫の一人であり、鬼退治を生業にする方相氏の女の子である。
「これはまた、面白い所で目にしますね。」
ついなちゃんの隣にいた眼鏡を掛けた妙齢の女性が懐かしそうに呟く。
こちらの女性の名は後鬼、かつて役行者の弟子として仕えたという伝説の鬼であり、
現在は方相氏として未熟なついなのお目付け役として付き従う式神であった。
「この情報について、何か知っている事があれば教えて欲しいんだニョロ。」
リズムはそう言いながらマウスを操作し、別の検索ページを幾つか開いていく。
「役行者に関して私もそれなりに調べてみたけれど、
ネットや文献にはこの文章の元となったような情報は見つからなかったニョロ。
まぁ有象無象の書き込みで作る百科事典なんて、
アテにならない情報はいくらでもあるニョロけど…。」
インターネットにはソースの不明瞭な誰が書いたか分からない記事が幾つもある。
もしそれが神話や古い伝承についての情報である場合、素人がその真偽を判別するのはかなり難しいだろう。
例えば少し前にも、織田信長が黒人の侍を連れていたという話題がネットで騒ぎになったばかりだった。
そもそも言い伝えという物は、時代を経る毎に少しずつ変容していってしまうのが常なのかもしれない。
しかしその中には大昔の出来事が確かに残されているというのもまた事実。
リズムはそう考え、役行者について造詣の深い二人にコンタクトを取ったのであった。
といっても、今回はついなが妖怪退治の仕事でたまたま近所を訪れていただけなのだが。
「確かにこの方は私の師匠…役小角とも縁のあった人ですね。ですが、兄弟子かどうかまでは…。」
後鬼は少し困った顔でそう言った。
「前鬼やったらなんか知っとるんちゃうやろか?」
後ろに控えていたついなちゃんがそう声をかける。
前鬼というのは同じくついなの式神を勤める後鬼の夫だった。
「そうですね、彼ならお師匠の旅に同行する事も多かったですし。
私はどちらかと言えば、宿坊の管理を任されていましたので。」
そう言う後鬼は少しばかり申し訳なさそうにしていた。
「気になさらないで下さい、お姉ちゃんはいつもの好奇心で調べものをしているだけですから。」
カノンが少し恥ずかしくなりながら彼女への謝辞の意を示す。
「なんだか難しそうな話をしてるねぇ。」
そんな話に付いて行けていけないマキはこっそりモカにそう耳打ちした。
モカの方も返事に困って軽く愛想笑いをマキに返す。
そうしてリズムとついな・後鬼は、いくばくの間なにやら話込んでいた。

修験道の開祖と呼ばれる役小角とて、その前に誰かから仏教を学んでいた筈なのだ。
とするならば、それが件の人物の師匠と同一人物だったとしても決して不自然ではないだろう。
仏教は元々古代インドで生まれた釈迦の教え、
それが中国へと伝わり、日本へもやって来た。
となると、小角に仏教を教えたのは中国人の僧侶である可能性が高いだろうか?
確か歴史の授業では、朝鮮半島からの渡来人が日本へ仏教を伝えたと習ったような覚えもある。
いっそネットに書き込んだ人物から直接話を聞ければいいのだが…。
「全く面倒臭い話ニョロねぇ。」

ついなと後鬼が去った後、リズムは部室で物思いに耽る。
「ガガガ?」
黙りこくったリズムを心配するように、ロボタが話かけてきた。
「仕方ないニョロ、ほぼ当事者に聞いても分からないんじゃ。」
そう答えたリズムは、なんだか少しモヤモヤする気分を抱えながら、
部室の窓から遠くに沈む夕日を眺めていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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役行者の兄弟子?

鼓リズムを代理にした妄想日記みたいなものです。

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投稿日:2025/05/16 20:13:14

文字数:2,046文字

カテゴリ:小説

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