「ねぇ、レン。お願いがあるんだけどさぁ・・・」
「・・・またですか」
「またです」
呆れ顔でレンが巫女服姿の蒼に聞くとコクリと蒼は頷いた。その様子を見てレンは諦めた様に ハァ、と溜息を付いた。
「何で俺がマスターの悪霊退治とかに付き合わなきゃならないんですか・・・」
「それはレンに霊感があるからだよ。それに結構清い気の持ち主だしね」
ニッコリと笑みを浮かべながら蒼は応える。そう、このレンには霊感がある様で実際見た事もある。まぁ、その時は相手が特殊だったのだが。
「後は、さ」
フ、と息を付いて先程とはまた違う表情を浮かべながら蒼は後ろを向く。其処にいるのはウキウキとした表情をしたリンだった。
「リンをまたあんな目に遭わせる訳にはいかないでしょ」
「・・・・・・・・・・・・そうです、けど・・・」
今度は二人で呆れた様に溜息をハァ、と付く。因みに言っておくが、このリンには霊感と言うモノが全く無い。気配を感じる事も、無い。けれど本人は自分だけ見れない、と言う事が如何も癪に障る様で蒼がこうして巫女服を着て陰陽家の仕事に出掛けようとすると「私もついてく!」と言って聞かないのだ。何度も、何度も、逸れこそしつこい位その事を説明してもリンは頑なにそれを跳ね除けて「ついてく!」と言って以下略。結局は蒼が折れて、そして危険な目に遭わない様に、とレンを連れて行くのが当たり前に成り掛けている。
「諦めてくれると良いんだけど・・・言っても聞かないからなぁ、あの子は」
「貴女はどこぞの子持ちの母親だ」
「ほっとけ」
「え、何それ」
「ほら、そろそろ行くよ。リンも、気を付けてよー」
蒼が呼びかけるとリンは嬉しそうに「ハーイ!」と元気良く応える。その返事を聞いてまたレンはハァ、と溜息を付いた。
今度の仕事場はもう人気の無い神社の様だった。行ってみるともう既に銀と金が式服姿で其処にいた。
「ごめんね、銀ちゃん、金ちゃん、待ったでしょ?」
『そんな事無いです』
蒼が謝罪の言葉を口にすると二人は声を揃えてそう言い、首を横に振るう。流石は双子、と言うべきか。
そんな二人の様子を見た後、蒼は懐から人型の紙を取り出し、フゥ、と息を吹きかける。そして蒼の式神―姿は「亞北ネル」そっくりの―が現れる。
「此処は、昔からある、由緒正しい神社だったみたいです」
「でも、戦争で、第二次世界大戦でここら一帯はすっかり焼け野原になってしまった様なんです」
「でも、この神社は奇跡的に空襲を逃れたそうです」
「けれど、戦争の為にこの神社に仕える人々はいなくなり、そして現在に至る、と言う事です」
金と銀が交互に此処の神社について説明をしてくれる。自分達が仕事をする場所の事を調べる事は基本中の基本だ。蒼はコクリ、と頷いてみせるとス、と目を閉じ、此処にいるモノの気配を探り始める。
その様子を少し離れた所で式神―式とリンと一緒に見ていたレンはその瞬間、
シュルリ
と、腕を何か細いモノが這うような感触を覚えた。そしてレンがそれを確認しようと腕をあげた時、レンよりも早く、式がその腕を掴んだ。
「あれ? 式ちゃん、レン、如何したの?」
一人(?)、何も感じていないリンは不思議そうに首を傾げて、そしてレンの腕をみて表情を凍らせた。
レンの腕には何かが這ったような跡がうっすらと残っていた。それは、まるで、まるで、
「蛇の、様ですね・・・」
目線をレンの腕に留めたまま、式が少し恐ろしげにそう呟いた。背筋がゾクリと震えた気がするのは気の所為だろうか。
「バン、ウン、タラク、キリク、アク!」
ふと蒼の声が耳に入る。
「主が五芒星を描くなんて・・・珍しいですね」
「ゴボウセイ・・・?」
首を傾げたリンとレンに式は説明をする。
「五芒星というのは、そうですね、リン様、レン様、星を描く時、どういう風に描かれますか?」
「如何いう風って・・・一筆書きで真ん中に逆五角形を描く様にして描くけど・・・それがどうかしたの?」
「それが五芒星、なのです。因みに先程、主が唱えられたのは五大明王の名です」
「へぇ、そうなんだ。今まで蒼ちゃんが唱えてたのは“九字”だっけ?」
「えぇ。九字はその行い自体に祓うチカラがありますので真似事の様に唱えるだけでも祓う事は出来るのですよ」
ニコリ、と式が微笑んだのも束の間、次の瞬間にはハッとその表情を凍らせ、バッと勢い良く蒼達の方を見た。そしてその瞳は大きく見開かれた。
「何て・・・大きい・・・! そしてこのチカラ・・・! あ、結界に罅が・・・! 結界が・・・壊れる!」
そう叫び、式が蒼の方へ駆け寄ろうと走り出した時、
パリィンッ!
澄んだ音が聞こえ、何かが破れた事が分かった。それを破ったのは、黒く、どす黒い煙を身に纏った、その身体からは滾々と負の気が流れ出ている、目からは血の涙を流した、リンとレンと、そう年端の変わらなさそうな、少女だった。
「あんな小さい子が・・・結界を・・・?」
「え? 何々? また何かいるの? ねぇねぇ、どんなの? 小さい子? て事は人間?」
何も見えていないリンは無邪気にレンの袖をクンクンと引っ張り、質問を繰り返す。
[私ノ場所ヲ壊サナイデ・・・。コレ以上・・・消サナイデ!]
少女は血の涙を流しながらそう言った後、顔を般若の様に恐ろしい姿に変えると、鋭く尖った歯を覗かせながら、蒼に襲い掛かってきた。
「主!」
式が間に入り、そして、九字を唱える前に、
[“私の場所”だと? ふざけるな。此処は元来、私の場所だ]
低く落ち着いた、女性の声が聞こえた、と思った瞬間には、少女の後ろに大きな、大きな、顔の辺りに十字の点線が描かれた白蛇がいた。3メートルとかそんなものではない、人を呑み込むのさえいとも簡単にやってのけてしまえるであろう、大蛇。そう、譬えるならば、胴回りは何時ぞやに倒れてしまった鎌倉の大銀杏程の、或いはそれ以上の太さで、大きさは、大きさは、十階建てのマンションの高さを其のまま横たえた位の長さだろうか。大きい、兎に角大きい。
そんな風に思う間にその白蛇は クワッ とその大きな口を開き、少女を飲み込んでしまった。
その様子に皆がポカン、としている内に白蛇は ペッ と口から何かを吐き出した。それは黒い塊で、辛うじて人の姿をしているのが分かる。
[失せろ。今回は力を抜くだけだが、今度会ったら容赦はせぬぞ。その命、無いと思え]
ギロリ、と白蛇がその紅い瞳で睨みつけるとその黒い人は小さいなりに急いでこの場を退散した。
「え・・・退治・・・しないんですか・・・?」
「しないよ。あれだけあった力を、殆ど、再生不可能の域まで吸い取られちゃえばね・・・。私達は人々に害を与えるモノを退治するだけ。あそこまで、力を取られちゃえば、何も出来なくなるから、そんな相手は、人々に害を及ぼさない相手は、倒さない」
レンの呟きに柔らかな笑みを浮かべながら蒼は淡々と応えた。
[・・・陰陽家の者・・・か。珍しい、今時のこのご時世にまだ陰陽家を生業としている者達がいるとはね]
白蛇はシュルリ、と鎌首を擡げた後、白い煙に包まれた。それはまるで、蒼が式を呼び出す時の様な、白い煙。
その煙はシュルシュルと人の大きさまで小さくなり、そして、煙が晴れると其処にいたのは、
[あのモノを誘き出してくれてくれた事、礼を言う。有難う。私は此処を社としている、白蛇だ]
銀色の髪を後ろで蒼や金がしている様に一つに結び、ス、と細く切れ長の目の色は先程の大蛇の時の様に紅く輝き、顔には鼻を中心として十字が点線が描かれていた。そして、その格好は―――
「何で巫女服なんですか?」
巫女服、だった。上は蒼や金の様な、いわゆる一般的な着物の上を想像して貰って構わない。そして、問題は下だ。本来ならば其処には袴がある筈なのだが、袴・・・まぁ、袴に分類されるかされないかと問われれば分類されないだろう、と応えるしかない。
正直言って、ミニスカートを思い浮かべて頂くとそれが一番譬えに当てはまる。
色は無い。白である。否、月の光の加減で銀色に輝いて見えるから銀色なのだろうか。足はまるで長靴下の様な、ルーズソックスのような、だがしかしルーズソックス程ダボダボではない。しかし足元はちゃんと足袋の様に親指とそれ以外が分かれている。
そして、極め付けなのは左足から上半身、そして彼女(?)の顔の右側にシュルル・・・と細く長い、先が二つに裂けた舌を出した細く長い黒蛇が巻きついている事だった。
[ん? あぁ、昔は私にも巫女、と言う、モノがいたのだがな。戦争の所為でいなくなってしまったのだ。だから、代わりに]
「代わりで神様がその格好するのは如何なものかと・・・」
[しかも慣れてしまって来てる辺り如何しようかと]
「如何にかして下さいよ・・・」
ハァ、と呆れ気味に蒼は溜息を付く。良く見れば銀や金、式までも唖然としている。その様子を見ているとクン、と袖を引っ張られる。見るとリンがレンの服の袖を引っ張っていた。
「何? リン」
「凄いねぇ・・・。あんなに大きかった白蛇があんな風に人になる事が出来るんだねぇ・・・」
ホォ、と感激した様に息を付き、リンは人の姿になった白蛇を見つめていた。興味半分、見れて嬉しいと言うのが半分、と言った所だろうか。
[さて、]
フゥ、と息をついて白蛇は腕を伸ばす。そして改めて蒼を見据えた。
[私はそろそろ戻るとしよう。それではな、護身龍よ。また会う時があれば、また会おう]
「え・・・?」
蒼が驚いている間に、白蛇は音も無く、消えてしまった。ふとレンは先程は腕にあった何かが這った後を、何となく、見てみた。すると、それは跡形も無く、まるで最初から無かったかの様に、消えていた。
「所で蒼ちゃん、何でそんなに驚いてたの? 護身龍、て言われた事?」
無邪気にリンが蒼に問うと蒼は半ば放心状態の顔でコクリと頷いた。
「だって私・・・自分が護身龍だって、言ってないもの・・・」
『え・・・?』
神様って、人の心を読む事が出来るのでしょうか?
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