<最近の夢はノイズのかかった、どうしようもない・・・>



「・・・お前・・・、もういい、いらね・・・」


――――マすタぁー?――――


「・・・役立たず・・・」


―――ぼクは、ヤくたたズ?―――





<真実>




LAST SONG FAR SKY
~空の彼方への最後の唄~


ACT1






―――また、見た。

カイトが意識を外に向ける。
どんよりと曇った空が見える。


今日は、カイトが・・・ボーカロイドがインストールされているノートパソコンが、処理さる日だ。

ボーカロイドとは、歌を専門に歌う事のできるソフト。
カイトは男性ボーカルとしては初めてのソフトになる。
パソコンの機能の一つとして質量再生機が可能になり、ボーカロイドも人型に姿を表すことができる。
勿論見えるだけじゃなく、質量が伴うので触る事もできる。
しかし今のカイトはそれをしない。
壊れているわけじゃない。
する気がないだけだった。
意識だけパソコンに閉じ込めたまま、じっとしている。

前のカイトの持ち主は、買って2ヶ月もしないうちにカイトを本体ごと捨てた。
その持ち主は、なかなか操作がうまくいかずに匙を投げてしまったらしい。

中古屋で売られるが、その後すぐに次のボーカロイドが出されカイトは見向きもされなかった。
調教もうまく出来ていないカイトは、普通にドレミの音階を言うこともままならなかった。

売れないカイトはとうとう処分扱いになってしまった。
カイトだけをアンインストールし、パソコン本体だけでも使えるかと思ったが、
何故かカイトはアンインストールできなかった。
アンインストールすると出るエラーのひどく大きい音。
あまりにも音が大きすぎて誰もアンインストールせず本体ごと捨ててしまおうと言う事になってしまった。
中古屋の外に無造作に置かれている蒼い少し汚れたノートパソコンが一台ある。

空が暗く澱んでいる。
カイトの心も沈んでいた。

ボーカロイドにもある心・・・感情が沈んでいた。
いや、カイト自身が断ち切っているのか、感情回路は途絶されていて脳に響かず何も感じなくしていた。

ボーカロイドは持ち主・・・マスターが絶対の存在。

その存在に存在総て否定されてしまった。



―――歌いタかっタな・・・



少し音が漏れたのか、パソコンから声が漏れる。


それを聴いた人物が居た。


「・・・?何?」

中古屋を横切ろうとしたある一人の女性。
肩より少し長い髪のどこにでもいそうな、女性だった。

「わぁ、パソコンが捨ててある!いいなぁ・・・」

そう呟くと女性は中古屋店内に入っていった。

「すいません。外にある蒼いパソコンあれ・・・」

店員は苦虫を潰したような顔になった。

「あぁ、使えないから捨てるんだ。」

「え!!全然使えないんですか?」

「いや、中に入ってるボーカロイドが問題でな。」

「・・・ボーカロイド?ってなんですか?」

「あぁ、言葉と音の並びで人間が歌うようにソフトが歌うんだ。」

「あ、あの、どうにもならないんですか?」

「ん?」

「もし、どうにかなりそうなら頂きたいんですけど・・・あ、勿論代金は払います!」

女性は早口でいい、財布を出した。

「いや、御代は要らないから持ってってくれ。」

店員は右手を振って、ため息をつきながら言った。

「で、でも・・・」

「その代わり、どうなってもうちではもう引き取らないんで、それでよければどうぞ。」

その店員の言葉を聴いて、お礼を言いつつ首をひねった。
なにがそんなに問題なんだろう?と。



女性は早速家に蒼いノートパソコンを持って帰ってきた。
コンセントを指して電源をつける。
ヴゥンと低いうなり声がして、空色の画面が現れる。
沢山の英語の羅列。
それを見た女性は慌てた。

「ひっ!え、えっ!どうしたらいいの?」

一家に一台以上パソコンがあるというこのご時勢に、彼女は一台もパソコンを持っていなかった。
とてつもなく機械音痴で、キーボードであいうえおと打つのに5分はかかってしまう。
慌てる彼女を横目に、パソコンは最後の文字を表した。


>>>>SOUND SISTEM
>>>>>>・・・VOCAROID
>>>>>>>> ・・・・・・KAITO


それを見た女性は、軽く口を開いた。


「カイト?」


最後のフレーズを口にしたら、ピッと軽い機械音がし目の前にフォログラムが現れた。
真っ白いロングコートを着、スカイブルーのマフラーを巻いている。
髪は蒼く、ゆっくりと開いた瞳はどこまでも深い瑠璃色だった。
長身の青年がそこに立っていた。

「まスター・・・ですカ?」

覚束無い言葉遣いで、問う蒼い青年。
問う彼の瞳の内側には、沢山の光のシグナルが明滅している。




―――――マスター・・・、お願いです。もう少しだけ一緒に頑張って下さいませんか?―――――




NEXT ACT2

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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LAST SONG FAR SKY ACT1

KAITO×女マスターの小説です。
苦手な方はまわれ右!

閲覧数:111

投稿日:2009/11/12 21:30:40

文字数:2,076文字

カテゴリ:小説

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