ランドセルを背負うのも最後の年、大好きな桜が咲く季節。
喧噪に包まれた放課後、今日も同じように見慣れた男の子の下へ行く。
小さい頃から一緒に育ってきた、いわゆる幼馴染という間柄だ。
毎年この季節になると、桜を見たがるわたしと、それに付き合わせられる彼という構図が出来上がる。
例年と違わず、今日も今日とて花見に誘う。
わたしの記憶では特別な理由がない限り、彼が断わったことは一度も無い。
無理に付き合ってくれてるのかなと思ったこともあったけど、いつも楽しそうに笑っている彼を見て、それが杞憂だったと知った。
いいよと、いつものように頷いた彼とわたしへ向けて、からかいの声が上がる。
飽きもせずにいつもと同じ男子グループが冷やかしてきた。
早く桜が見たかったわたしは、怒ったふりをして彼の手を引いて走る。
からかわれるのは恥ずかしかったけど、今思えば、二人だけで帰る口実にちょうど良いと思っていたのかもしれない。
帰り道から少しだけ逸れた場所にある桜並木へ、まるで何かに急かされるみたいに二人で駆けていく。
走ること、春の陽を浴びること、取り留めのない会話をすること……。
何の変哲もないことが、ただただ、楽しかった。
桜は好きだ。でも、彼がいなければ楽しくはなかっただろう。
何はなくとも、二人で見る時間、空間が好きだった。
日が暮れるギリギリまで遊んで、家路を急ぐ。
いつもと同じ、きっと明日も同じ。
そんな幸せな日々を過ごしていた。
家に帰って、ご飯を食べた後。
明日も晴れるかなとか、見に行けるかなとか、テレビを見ながらぼーっと考えていると、落ち着かない様子の両親に呼ばれる。
何だろうと不思議に思いつつ座ると、お父さんの仕事の都合で海外に引っ越すことになりそうだと告げられた。
……正直、最初は何を言われたのか理解できなかった。
徐々に理解が追いついて、困惑の声を発すると同時に、最初に浮かんだの
は、彼の顔だった。
何も変わらないと思っていた。
少なくとも、まだまだ先のことだと思っていた。
こんなにもあっけなく失ってしまうなんて思ってもみなかった……。
結局その日は、両親を困らせて、泣き疲れて。
いつもよりうんと遅い時間に眠りについた。
翌日、彼に引っ越しを告げ、二人で泣いた。
運命を嘆き、不運に涙し、悲しみに暮れ、今までもこれからも、全てのことを思って泣いた。
別れの瞬間の苦しさは、今までの思い出全てを上書きしてしまうくらい強烈で、出発の時間まで二人でわんわん泣き続けて、お互いぐしゃぐしゃの顔のまま、手紙を送ると、また会おうと約束を交わして別れた。
それが、彼とわたしの最初で最後の悲しい思い出だった。
それから、いくつもの春を越えて、大人だと胸を張って言えるくらいの歳になった。
引っ越してすぐの頃は、たまの手紙のやりとりだけを頼りに、桜のない国で春愁に惑い続けていた。
初めは2週間に一回くらいだったやりとりも、一ヶ月に一回になり。
三ヶ月に一回、半年に一回と減り、いつしかお互いの生活に追われるうちに途切れてしまった。
思い出すことは少ないけれど、たまにどうしようもなく寂しくなる瞬間がある。
きっと、色褪せた押し花のような感情を、いつまでも大事に持っているせいだろう。
持ち続けるのも、待ち続けるのも、もう終わりにしよう……。
決心が鈍る前にと、最初の頃やり取りしていた手紙を折る。
……あまり作ったことがなかったから、随分不格好な紙飛行機になってしまった。
でも、美化しすぎた思い出は、実はこれぐらいのものだったのかもしれない。
そんなことを思いながら、小高い丘からゆっくりと、噛み締めるように紙飛行機を放った……。
君の言葉よ、わたしの想いよ、春風に乗って飛んでゆけ。
春を越えて、あの頃の二人に還ってゆけ……。
遥か遠く、不格好なフォルムに似つかわず、わたしの後ろ髪引かれる思いを咎めるかのように順調に飛んでいった紙飛行機。
いつの間にか流れていた一筋の涙を拭って、あの日のわたしと彼に、さよならを告げた。
春の傍-かたえ-
春の傍-かたえ- / StarTrine feat.可不
youtube▷https://youtu.be/8jXM4Bsn7OA
ニコニコ▷https://nico.ms/sm40363720
コメント0
関連する動画0
ご意見・ご感想