INTERMISSION3 R-Mix

 逃げ出して来てしまった。
 嫉妬の炎に焼け焦げそうになっていながらも、そう考えて後ろめたい気持ちになるだけの理性はかろうじて残っていた。
 だが、今のままレンと顔を合わせてしまえば、彼にもつらくあたってしまう事は彼女自身分かっていたので、少しだけ時間をあける事にしたのだ。
(……許サナイ)
 それでも、あの女に対するいら立ちは収まりそうも無かった。むしろ、時間が経てばたつ程に憎しみが膨れ上がっていくようだった。
 彼女は、後ろ髪を引かれる思いをしながらも、レンが目を覚ます前に病室を出て自宅へと帰った。今日は大学に行く気などさらさら無かった。
 家で一人、身じろぎもせずにずっと一つの事を考えていたのだ。
(……どうやって、あの女をレンのそばから引き離すか)
 彼女の頭を占めていたのは、それだけだった。
 二人共入院患者だ。自分がいない時に何があるか分からない。それを踏まえた上で二人を会わないようにする為には、自分がレンのそばに居るだけでは足りないと彼女は思った。考えながら、家に帰ってきたのは失敗だったのではないかという思いが頭をもたげたものの、今さら気付いても遅い話だ。
 そうやって考えた結果、出た結論は――。
(……脅すしか無い)
 そうやってあの女からレンに接触しないようにした上で、レンに本当の気持ちを打ち明ける。彼女は、最早そうするしか無いという結論に至った。
 しかし、その踏ん切りがなかなかつかなかった。結論自体は昼には出ていたのに、家を出るのが夕方までかかってしまったのはそのせいだった。そもそも即決即断が出来るのなら、とっくの昔にレンに思いを伝えられている。
 彼女は家を出る直前に台所を引っかき回し、一振りの小さな果物ナイフを見つけた。
 このナイフで少し位脅して見せれば、あの女もレンに近付こうなどとは思わないだろう。彼女はそんな事を考えながら、暗い笑みを浮かべる。
 それは、彼女が今まで一度もしたことの無い、触れれば切れる怜悧な笑みだった。
 彼女は――レンの義理の姉であるリンは、自分が一体どれほど恐ろしい顔をしているのか知らないまま、家を出る。
 彼女にはどうしても許せない“あの女”が昔していた表情と、今の彼女の表情がうり二つだとは知りもせずに――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ReAct 10  ※2次創作

第十話

今回は短いですが、このシーンのおかげでINTERMISSIONは計三話という形になりました。次回よりTHE PRESENTに入ります。全十四話+一話で完結になるかと思います。

この回を書いた時、この前の八話とこの後の十二話に半分ずつ組み込んで、この第十話はお蔵入りにしてしまおうかと考えていました。八話の後にリン視点を入れるのもどこかバランス悪い気がしていたので。
ですが、後からいくら考えてみても前に入れると八話の構成が成立しなくなる上、THE PRESENTの前に終わらせなければならないシーンだったので、前後にわける事はあきらめました。
この第十話を丸ごと無かった事にするというのも考えてはいましたが、結局そのまま載せる事にしました。
ReActの2次創作では、書いたもののストーリー上組み込めないとか、キャラクターの思考に沿わないといった理由でお蔵入りにしている文章が多いです。一文とか一段落単位での事なので、「ロミオとシンデレラ」の時のように別バージョンとして載せる事もありませんけれど。

閲覧数:134

投稿日:2014/01/17 01:10:32

文字数:969文字

カテゴリ:小説

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