「む!?」


 がくぽはボカロマンションに向かう足を止め、後ろを振り返った。

 常人では何をしているのかと不思議に思うだろう。だががくぽは、確かに感じ取っていたのだ―――――後ろから叩きつけられた、ルカの異常なまでの戦意を乗せた音波を。


 (ふん…この拙者に喧嘩を売っているつもりか?あれだけこっぴどくやられていながら…!バカめ!!)


 がくぽはUターンして駆け出した。





 町のはずれ、建物もあまりない所。ルカはそこに一人で立っていた。

 ルカはロシアンの言葉を思い出していた。


 《まずは「心透視」をがくぽに向かって一点照射だ。そうすれば喧嘩を売られたと思って奴は突っ込んでくるだろう。》

 《その時はルカ、お主は一人で建っているのだ。どの道がくぽより速く動ける者はいないのだ。だったら動きを読むことだけはできるルカのみで迎え撃つ。他の者共は言っては悪いが足手まといだ。ルカだけで立ち向かえば奴も少しは油断するかもしれん。》

 《そこを狙って―――――》


 「…うまくいくかしら…でも、これがうまくいかなかったら皆が…!」


 その時だ。遠くから駆けてくる人影。がくぽである。よく見れば、すでに楽刀に手をかけている。


 「覚悟ォオ!!!!」


 一気に加速するとともに、抜刀して微動だにしないルカに斬りかかった!!


 (…っ!!ロシアン…ちゃんっ…!!)



 《―――――吾輩が先手を打ってやる!!安心しろ、必ず守る!!》



 『焔息(ほむらそく)!!』



 ロシアンの凛とした声が響き、碧い焔の束ががくぽに降り注いだ。


 「ぐはっ!?」


 焔に押しつぶされるがくぽ。咄嗟に距離をとるルカ。

 そして―――――上空から悠然と舞い降りてきたのは、ロシアンだ。


 『ギリギリだったな…すまん、ルカ。』

 「う、ううん、大丈夫。それより、がくぽは…?」

 『上から碧命焔を叩きつけただけだ…すぐ来るぞ!!』


 ロシアンの言った通りだった。すでにがくぽは起き上がり、楽刀を構えていた。


 「…また貴様か…今度こそ叩き斬ってくれる!!」

 『そんなことができるのか?今度はルカ付きだぞ?』

 「ぬかせっ!!」


 がくぽは怒りにまかせて突っ込んできた。


 『ルカ!!やれ!!』


 ロシアンの合図で、ルカは腰から4本の鉄鞭を取り出した。


 「なっ!?」


 がくぽの驚愕と、ルカの声が重なった。


 「巡音流乱舞鞭術!!龍斬鞭!!」


 しなる4本の鞭が、がくぽに襲い掛かる。

 紙一重でかわしたそこには、鋭い亀裂が出来上がっていた。


 「バカな…!!鞭は8本とも、昨日の1戦で断ち切ったはずだ!!」

 「残念ね。私の家には8本1セットの鉄鞭が、まだ100セット以上残っているのよ!覚悟しなさい…巡音流乱舞鞭術!!龍撃鞭!!」


 襲い掛かる鞭。それはまさしく、鉄槌を下しに向かう龍神の如く、猛々しく荒々しい。


 「コオオオォォ!!」


 突然、がくぽは奇声を上げた。するとそれに共鳴するかのように、楽刀が蒼白く光った。


 「楽舞剣術漆の太刀!!極意・攻『楽舞十字斬』!!」


 上空に向かって放たれた、十字の蒼い刃。それはルカの鞭を、易々と切り裂いた。

 どこからか再び新たな鞭を4本用意しながら、ルカが感嘆の声を上げた。


 「あれが楽舞十字斬…!なるほど大したものね。でも、ロシアンちゃんの力と私の力が合わされば、破れないものじゃない!そうよね、ロシアンちゃん?」

 『ああ、そうだ!ルカの力があれば簡単に破ることができる!』


 しかしそれよりも、ロシアンは別のことを考えていた。


 (極意・「攻」…?どういうことだ…まだ隠している技があるのか?)


 「コオオオォォ…!!」


 がくぽが再び楽刀を中段に構え、奇声を発した。蒼白く光る刃は、まっすぐルカの喉元をねらっている。


 「面白い…この楽舞十字斬を破れると申すか。たわけたことを…くらえ!!『楽舞十字斬』!!」


 再び楽刀が十字をえがき、蒼い刃がルカとロシアンに襲い掛かる。

 その瞬間、ルカが突然右斜め下に伏せながら叫んだ。


 「ロシアンちゃん!七時半の方向に回避!!」

 『応!!』


 ロシアンが応えて左斜め下に伏せた。十字の刃は誰もいない空間を超高速で飛び退っていく。


 「ぬっ!?」


 がくぽが愕然とする。ルカはその瞬間を見逃さなかった。


 「巡音流乱舞鞭術奥義!!『蛸足滅砕陣(たこあしめっさいじん)』!!!!」


 腰と、さらに太腿に装備してあった合計8本の鞭がすべて取り出され、ルカはそれを4本ずつ両手に持って、強く打ち振った。

 その瞬間、8本の鞭の姿が消えた。―――そう思った時には、鞭はがくぽの周りの地面を削りながら天空へと駆けのぼっていた。


 「ぬぅ…っ!?」


 超高速で天空へと消えた8本の鞭の切っ先。それは突然、恐ろしいほどの高速回転と、それまでの倍以上のスピードを与えられて、溢れる力を惜しみなくまき散らしながら暴れる龍の如く荒れ狂いながら急降下し、がくぽめがけて襲いかかった!!

 蛸足滅砕陣―――――15年前、刑事になった頃から鉄鞭を使うようになったルカが、わずか3カ月で編み出した破壊の流儀「巡音流乱舞鞭術」の粋を集めた、最「兇」奥義だ。


 「さあ!!叩き潰されておしまい!!」


 ルカが叫んだ、その時だ。

 がくぽは突然、鞘を帯から引き抜いて、二刀流の様に構えた。


 「楽舞剣術捌の太刀!!極意・受『楽舞白刃取り』っ!!」


 刹那―――、超高速の連打音。楽刀の切っ先と、鞘とで受け止められた8本の鞭は、その威力を受け流され、突如方向転換してルカとロシアンに襲いかかった。


 「なっ!?」

 『ルカ、鞭を手放せ!そして伏せろ―――――!!』


 絶叫と共に、碧い焔に包まれたロシアンがルカを突き飛ばした。バランスを崩したルカは、思わず鞭を手放して尻もちをついた。


 『ぐうっ!!』


 ロシアンのうめき声。8本の鞭の先端が、ロシアンの左肩を直撃したのだ。ルカの手から手放されて半減しているとはいえ、蛸足滅砕陣の威力を一点に食らってはひとたまりもない。軽量なロシアンの体は、遥か後方に吹き飛ばされた。


 『くっ…このおおおおおおおお!!!!』


 咆哮とともに、ロシアンは地面に爪を立てて踏みとどまり、ほぼ同時に焔をまき散らしながらがくぽに向かって突っ込んだ。

 碧い焔に包み込まれたロシアンは火焔弾と化し、楽刀に激突。焔に包まれた牙を突き立てた。


 「くっ…離せ、離さぬかっ!!」


 がくぽは力任せに楽刀を振りぬいた。咄嗟に口を離したロシアンだが、左前脚を切っ先がかする。

 ロシアンは瞬時に体勢を立て直し、後方に飛び退った。がくぽは再び中段に構えなおし、黒い笑みを浮かべた。


 「くっくっく…形勢逆転だな。まずは貴様から引導を渡してくれよう!」


 がくぽは突然中段に構えていた楽刀を、鞘に収めた。


 「!ロシアンちゃん…!」


 ルカがはっとして、ロシアンに目配せ。ロシアンは頷きながら、出発前のグミの言葉を思い出していた。


 (いい?がくぽは勝利を確信したら、確実に例の三段斬りを仕掛けてくるわ。なぜって、あいつが自分の技の中で最も自信を持っているのがその三段斬りなの。つまりは、一度も外したことがないのよ。一撃目の抜刀・右切上で仕留められずとも、二撃目の峰打ち・袈裟切りで切り裂ける。『音刃斬』のおかげで、峰すらも恐ろしい切れ味を持っているからね。それで仕留められなくても、相手はさらにそこから抜刀・逆袈裟なんていう破格外の三撃目があるなんて考えないから、最終的にはそこでやられるってわけ。…だけどね、絶対の信頼を置いているからこそ、あのバカはそれに欠陥があるだなんて考えない。そこをねらえば必ず―――――!!)


 「くくく…さぁ…くらうがいい!!」


 がくぽは強く地面をけり、ロシアンに向かって突っ込んだ!!


 (来た!!まずは抜刀からの右切上―――)


 楽刀がぬきはらわれ、ロシアンを左下から右上へと切り払おうとする。

 間一髪でかわすロシアン。しかし瞬時に、楽刀を持つがくぽの手は峰打ちの“それ”に変わった。


 (二撃目!!峰打ちによる袈裟切り―――!!)


 一撃目と同じ軌道を、今度は逆向きに切り裂いた。峰打ちであるにもかかわらず、地面がぱっくりとえぐれた。


 (なんという切れ味…だが最後の三撃目の逆袈裟をかわせば…………っ!!?)


 ロシアンは目を見開いた。すでにがくぽは、楽刀を納め、そして神速の抜刀に差し掛かっていたのだ!!


 (なんだと!?速すぎる―――――)


 考えている暇はなかった。瞬時に抜刀され、ほとんど隙など感じさせないスピードで下段から上段へ流れるように移行。そして神速の逆袈裟――――――――――


 (っく…かわしきれんっ!!)


 ロシアンの右肩に、先ほどよりも深く切っ先が食い込み、鮮血が迸った。


 「ははっ!!」


 がくぽは狂喜の笑いをあげた。だがロシアンはその瞬間、怯むことなく目を見開いていた。


 (見逃すな…隙を見逃すな『俺』!!)


 神速の刃が振り切られ、がくぽの腕が伸びきり、そして―――動きがほんの一瞬硬直した。


 『…っ、今だぁっ!!グミィィ――――――――――――――っ!!!!』


 ロシアンが声を限りにして叫んだ瞬間、




 『ダブル・サウンド・ケ―――ジ!!!』




 グミの咆哮とともに、ガシャーン!!と轟音がして、二つのサウンド・ケージが互いの隙間を埋めるようにがくぽを包み込んだ。


 「何ぃ!?」


 突然のことに驚いたがくぽは、バランスを崩して膝から倒れこんだ。

 再びの静寂が訪れたとき、ロシアンの元に駆けてきた人影があった。ミクとリンとレン、メイコ、カイト、そしてグミだ。

 それを見て、サウンド・ケージを挟んで反対側で座り込んでいたルカも立ち上がってロシアンの元へ行った。


 『ふぅ…ルカ、大丈夫か?』

 「バカ!それはこっちのセリフよ!ボロボロじゃない!!」


 ルカが泣きそうな声で怒った。確かにロシアンは満身創痍だった。鉄鞭の直撃を食らった左肩は骨が砕けたのか歪んでいるし、深く切り裂かれた右肩からは骨が覗いていた。


 『これぐらいの傷はいつものことだ。それに…どの道吾輩は死ねぬ体なのだ。』


 さびしそうにロシアンはつぶやいた。神に受けし不死の呪―――それを宿したロシアンは、どんな傷を受けても決して死ぬことはない―――いや死ぬことはできない。一年前に聞いたロシアンの過去を、ルカは思い出してうつむいた。

 そんな中、グミはサウンド・ケージの中でうずくまっているがくぽに近づいた。

 その時、ぼそりとがくぽがつぶやいた。


 「…グミ殿…拙者を…裏切ったのか…。」


 その問いに、グミは無表情な目で答えた。


 「せっかく人間と同じ感情を持って出会えた仲間を、殺すためにあたしは生きているんじゃないもの。」




 ―――――ビリィッ―――――




 突然の殺気。それは今までとは比べ物にならないほどの、心の奥底から溢れ出た「真の」殺気。猫又であるロシアンは勿論のこと、辺りの空気に敏感なボーカロイドである一同は思わず身を震わせた。

 その殺気の源―――がくぽはゆらりと立ち上がっていた。そして不意に、楽刀を納めてサウンド・ケージの天井を見た。

 ぼそりと一言、しかし異常な殺気を漲らせた声でつぶやいた。



 「…『楽舞十字斬』っ!!!」



 突如静寂に、音が生まれた。


 空の遥か彼方へと飛び去る蒼い刃。それはがくぽの楽舞十字斬が―――グミのダブル・サウンド・ケージを破壊した証だった。


 「えっ!?」

 『なっ!?』

 「そんな…!!」

 「バカな!?」

 「嘘…。」

 「だろ…?」

 「壊…された…!?」


 愕然とするルカたち。中でもグミは、大きなショックを受けていた。


 (楽舞十字斬に抜刀による加速の威力が加わって、ダブル・サウンド・ケージの耐久力を…上回ったんだ…!!)


 「ぬうぅ………うおおおおおおおおおぉォオォオおぉぉォオおぉ!!!!!」


 怒りに満ちたがくぽの咆哮が、辺りの山々にこだまして、響き渡った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

紫色の騎士と鏡の音 Ⅶ~決戦!!VS神威がくぽ【前編】ルカ・グミ・ロシアンの策略~

ルカさんカッコいいよルカさん。こんにちはTurndogです。

さて!!再びバトルシーン突入ですが。
がくぽがまたパワーインフレを起こしましたwww鞘と刀使って白羽取りとか天才かよwww
それに呼応しルカさんもパワーインフレwww自分で言うのもなんですが「蛸足滅砕陣」は自信作です。これでケチをつけられたら潔く諦めるしかないのd

ロシアン『そんなテンションで受験大 丈 夫か?』

大丈夫だ、問題しかない(おいwww

そんなロシアンも傷だらけになるまで戦わせました。設定上死なないんで使い勝手がいいんですよこの猫www
そして最後にグミちゃんがいいとこをかっさらうwww前作『RIN RIN SOUND BURST』と同等のいいバトルシーンができました。
…え、前作よりレベルアップしておくべきなんじゃないかって?いいんです、受験生だから!!(勉強しろよwww

がくぽの発狂。次々に倒れ行く仲間たち。。全てを断ち斬る兇刃を前に、今あの「連星」が輝きを放つ!!次回決着!!乞うご期待!!

閲覧数:423

投稿日:2012/04/17 20:00:30

文字数:5,220文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    大丈夫!
    パワーインフレは必要だから!w
    ドラ○ンボールでも、ヤ○チャやピッコ○、後半役にたたないでしょ!ww

    メイコバーストが最強だったころがなつかしいww
    すでにヤ○チャレベルに……
    メイコ>七色ミク>ロシアン(多分まだ本気じゃない)>グミ>がくぽ ←ほらねw
    カイト兄さんなんて、すでに一般レベルに!www


    てか、どうやってがくぽとめるの~ww
    もう伝説の超○○○人とかになるしか……

    2012/04/18 09:46:25

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      インフレしすぎると大変ですwww
      ウ…む…・ドラゴンボールわからない…。

      めーちゃんガサツだから使い勝手が悪いんd
      めーちゃん「アァ!?」
      い…いえ…。

      ロシアンの本領も本気もまだまだ…くくくくw
      カイト?そんな人いたっけ?(棒読み)(ひどっ!!www

      あの子たちに最後の期待がかかる!!

      2012/04/19 20:38:05

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    ていうかロシアンちゃんとルカさんとグミちゃんは大丈夫かあああああああ(((((
    がっくん何してんじゃああああああああああああああああああああ(((((
    必殺!!冥界式戦術「楽刀砕き」!!!何かわしただと!?くっ、こうなったらエターナルフォース・ブリザード爆弾を…ぎゃあああ殺られるううううう(((((

    よーし、グミちゃん!!イケナイコのがっくんを倒すために、冥界の技をすべて教えてあげy((
    ヴェノさん出番です!!

    ロシアンちゃんが心配ですが、そういえば不死だったの忘れてた…w

    もう感想じゃねぇw
    次も楽しみです

    2012/04/17 21:11:30

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      大丈夫だ、問題ない。……………多分(おいwww
      がくぽ「斬っておるが何か?」
      ヴェノさん「白々しい真似をっ!!くらえ『楽刀くd』」
      がくぽ「遅いっ!!くらえ裏技『女装した男の刀』!!!」
      ヴェノさん「だからそれヘタレアンの先祖の技だといってるdぎぃあああああああああああ」

      グミちゃんこれ以上強くなったらだめえええええルカさんにもっと出番を!!(これ以上どうしろとwww

      本人すらも忘れていた設定(おいwwwが役に立った瞬間とはこういうのを言うのですねwww

      ほらヴェノさんあっち行った逝ったwwwゆるりーさんの感想食べたらだめだよ?それはコンチータ様と墓場の主の役目でしょ?www

      2012/04/17 23:20:46

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