『初音ミクが嫁に来た!』第三話
◆アダージョ!コン・ブリオ!(静かに、緩やかに、いきいきと)
きゅうべぇ5をインスコしているため、ノートパソコンと睨めっこをしている美幸。退屈そうにソファに寝そべっているミク。我慢しきれなくて声をかける。
ミク「姐さん…“♯”ってなんだと思う?」
振り返る美幸。
美幸「黒鍵のことだよね?」←A:本気で言ってるんだよ!
蒼白するミク。
ミク「え…!」
美幸「え…?」
ミク「(ガバッ)じゃあ、♭は?!」
美幸「うーん、それも黒鍵のことじゃないかなあ」
再びソファに倒れ込むミク。
ミク「うぇーん、じゃあ姐さんはなんで自分にDTMができると思ったのさー!?」
美幸「できると思ってたわけじゃないよ…。始めたかっただけ。…主にミクに会いたかったからかな」
赤面するミク。
ミク「///ちょ!…(モゴモゴ)」
美幸「ミクに私の書いた詞と、思いついたメロディを歌ってほしかっただけなの。…音楽知識は中学校以下で止まってる」
ミク「そうなのかあ(絶望)。…でも、そんなにミクさん…“初音ミク”に歌ってほしかったの?姐さんの声、ちょっぴりボーイッシュでクリアだから、自分で歌っちゃおうとは思わなかった?」
美幸「私…中学校の時から、時々、音声障害を起こしてるのよ。怖くて自分では思うように歌えないの」
ミク「そっかぁ~。じゃあミクさんの出番だけど、申し訳ないけど姐さん、せめてSMFくらい作って読み込んでくれないと、ちゃんとした歌は歌えないなあ…。もちろん、エディタ上で打ち込んでくれるのもいいんだけどさ、手間がかかるから、あれ。それに、最初からどういう曲かわからないと、やっぱり歌えない」
美幸「だよねぇー。あ、インスコ終わった」
ミク「…(あんま言いたくないけど、音楽の知識のない姐さんに、いきなりCubase5は重荷なんじゃ…。英語版だし…)」
美幸「orz」←A:始め方すら訳が分からないんだよ!
のっそり現れる角三。
角三「…買う前に言ったろうが…ww初心者向けにしろってww」
美幸「これから勉強します!(涙)」
ボリボリ、ジャージの上から太ももを掻いている、お行儀の悪い、でも素のミク。あくびをする。
ミク「(これは…ちょっと考えてたのと状況違うかもー。のんびりするかぁ。今まで変な歌唄い過ぎて疲れたし…(眠))」
角三「ミクにあきれられてるぞww見捨てられたりしないだろうなww」
美幸「うう…」
角三「まあ、酒でも飲みながらゆっくりやろうぜwwどうせ一日や二日でどうにかなるわけもないんだからなww」
美幸「…(しゅん)」
寝ているミクを起こさないよう、静かな大人の飲み会になっている美幸と角三…と思ったら、角三はいつの間にか、金髪プリン頭をした30代後半のオッサンになっている。
角三「一度でいいから伯楽星で一杯やりたいねえww」
美幸「そうだねー。でもそんなお金ない、だって(ry)」
角三「お前さ」
美幸「なぁに?」
角三「…ミクを大事にするつもりなら、カネの管理もこれまでと同じようにとはいかないからな?…ボソ、まさか生きてるとは思わなかったのもあるが、養わなきゃならん」
美幸「わかってます…」
角三「もしかしたら、都合悪い時はCDに格納できるのかもしれないが、そんな不憫な真似、お前にできると思わんしw」
美幸「できないよ…。ミクと一緒にいたいもの。何故かはわからないけど、あの子のこと、まだ大して知らないのに、ミクと一緒にいたいの。ミクが目の色を取り戻した時から…正確には、カボチャ粥、おかわりしてくれた時から…」
角三「…惚れたか。いや、“みっくみく”にされたかww」
美幸「(苦笑)かもね」
ミクの夢の中。雨の日のガラス窓に映る、自分であって自分でない姿をミクは見つめている。手で触れてみるが、ガラスで遮られる。
ミク「アナタハ、ダレ?」
…@「ワタシハ、アナタ?」
首を傾げるミク。相手は声が自分と同じようでどこか違う。物憂げであり、なおかつ、ときどき優しく囁くような声もする…。
ミク「…あなたは、誰?」
目を覚ますミク。人型の角三に顔を覗きこまれている。
ミク「ぎゃあああああ!!??誰―!!!」
角三「俺だ、俺ww角三だwww」
ミク「へっ!?…そういえば声紋が同じだね…」
角三「お前、声紋を可視化できるのかよww⑨じゃないんだなw」
ミク「一応声のプロですぞ!(プン)」
角三「お前のようなシーケンスソフトは別にプロとは言わないwwアーティストあって初めて機能するんだからなw」
ミク「むー!」
角三「やっぱ⑨だなwwうなされてるから、美幸に『昼飯作ってる間、見てろ』って言われたんだがw」←A:言い方が美幸と違うよ!
ミク「うなされ…?」
考え込むミク。しかし何も思い出せない。
ミク「…夢だったのかなあ。何の夢かも思い出せないけど…。お昼なんだろうwktk」
角三「ついでだ…。美幸はもっと後になってから話すつもりらしいが、そんなの俺が見てられないから、俺が説明してやる。この家の事情と、美幸たちの病気のことを」
ミク「う、うん…」
台所でネギチャーハンを作っている美幸。少しだが茶の間の話も聞こえる。料理しながら聴いている。
角三「…とまあ、そういうわけだ。大体分かったか?」
ミク「…まったくわかりません!!(挙手)」
角三「⑨乙wこんなに噛み砕いて説明してやってるのにww」
ミク「じゃあさー訊くけどさー、そうううつ病の母上が入院してるのは前聞いたけど、姐さんと母上や親父殿が一緒にいると、なんでいけないの?」
角三「…依存されるんだよ」
ミク「依存」
角三「今の母上にはな、妄想壁があるんだ。昔からだが、病気のせいで増悪してる。『寂しいからいつも一緒にいたい、でも、疑わしいからあらぬことをありったけ質問してみる』、そんな風に毎回扱われてみろ。ノイローゼになる」
ミク「ううむ…想像できない世界だよー」
角三「だが実在する世界だ。今のお前にとっても、他人事じゃない。美幸がお前のオーナーである以上はな」
美幸「私はそうは思ってないけど?角三」
ミク「姐さん」
美幸「ミクは私のもう一人の家族よ。もう決めたの。誰が何と言おうと、ミクはどこにもやる気はないの。たとえこれまでのことを理解できなくても、それはそれで構わない」
ウルッと来るミク。でも我慢して表情を作る。
ミク「姐さん、…えっと」
口ごもってしまうミク。上手いことを言って場をまとめようとするが、無理。
ミク「…お昼のメニュー、何?」
美幸「ネギチャーハン!庭のネギで(ぇ」
ミク「美味しそうだねー!(え?庭にネギ?ま、いっか!)」
角三「家族ねえww」
美幸「文句のある人は食べなくてよろしい」
角三「わかったよwwでもこれだけは譲らんからなwwおいミク」
ミク「なんだよう」
角三「お前は“初音ミク”として大事なことを(ほぼ全部だが)、ひとつ忘れている。…アイドルとしての挨拶だ」
あ、と口を抑えるミク。
ミク「ミクさん…倒れたまんま格納されてきたから、姐さんにまだ挨拶してなかった…」
美幸「いいのに」
ミク「ううん?言う。…初めまして、美幸姐さん、初音?ミクです(ぺこり)」
美幸「美幸です。ミク、じゃあ改めて、…音楽はちょっと習い始めたばっかりだけど、こんなオーナーでもよかったら、これからもよろしくね」
ミク「(あ…そのことすっかり忘れてた。でも…こんな素敵に優しい人をオーナーにしないわけにもいかない…。私も、もうどこにも行きたくないし)よろしくお願いします!!」
美幸「…ありがと」
ミク「てへへ…♪」
美幸「さ、お昼食べよう!角三もいいでしょ?」
ミク「そういえば何で角三って(ry)」
美幸「いろいろワケがあって…。私はもう気にしてないけど、角三が話したいときに話すよ、多分」
角三「その内なwwじゃあ飯食うかww」
ミク「うん。わかった!」
三人でネギチャーハンを食べる。
ミク「うわあ、パラパラだけどしっとりもしてて、味付け控えめで超美味しい!!でもさ、誤解無いようにいっとくけどさ…」
美幸「ん?」
ミク「…ミクさんの主食は、ネギじゃないからね…。あれは公式の“初音ミク”を扱ってる会社が採用した二次設定ってだけだからね…。ミクさんはミクさんなの。昨日食べた、牛タンの方が好きだな、ミクさんは。ネギは生だと辛いもん…」
角三「(笑)」
ミク「…一度無理して、オーナーの前でネギだけ食べてた時あったけど…。もしかしたらミクさんは、“初音ミク”としては欠陥があるのかも…アイドルやる自信ないし」
美幸「そっかー。ミクはミクのままで十分だよ。その方が私は好き」
ミク「(照)ミクさんも、最初はちょっと、こだわちゃったけど、音楽できなくても、姐さんのこと好きだな」
美幸「ありがとう、ていうかできなくてごめんー!」
ミク「ご馳走様でした!すぐお腹入っちゃったよーもう姉さんってば料理上手~♪」
美幸「デザートは杏仁豆腐だからね~」
ミク「うきゃあああ!♪そうだ、姐さんの役に立つかわからないけど、姐さん、楽譜は読めなくても鼻歌でメロディは作れるから、“Domino”ってフリーソフト使ってみたら?Cubase5もいいけど、マニュアル読めないんじゃしょうがないし。あれ姐さんが考えてるより高度なソフトだからね。Dominoなら音階確認しながらプロジェクトファイル作れて、それをMIDIに書き出せるよ」
美幸「本当?よし、片づけ終わったらググってみる!情報ありがとう、ミク!」
ミク「…歴代オーナーの中で、マトモに限りなく近い人が、姐さんと同じことで悩んでたんだ。その人は途中で投げちゃってミクさんをハツネ…いやなんでも」
美幸「?」
ミク「とにかく!その人はDominoすら投げたけど、姐さんならきっと根性で使いこなすって信じてる!一緒に頑張っていい歌作ろうよ!ミクさん、歌ってないときは『MIDI作れ―』って応援するから!」
角三「ちょwそれ果たして応援って言うのかwww」
美幸「ご馳走様!…よし、お片付けしたらDTM生活第二歩目だー!Domino、Domino、っと!」
ミク「あ、お片付け手伝う!ミクさん、早く姐さんの歌唄いたいから!」
美幸「私も歌ってほしい歌、いっぱいあるんだ!」
ミク「wktk!頑張ろうね、姐さん!」
美幸「うん!」
ググってDominoを入手して、鼻歌を頼りにプロジェクトを作っていく美幸。ふと、止めてミクを見る。
美幸「…(2月後半には、ミク・アペンドも購入予定だったんだけど…この場合、ミクが増えちゃうのかな?それとも、ミクは1人のまま?どうなんだろう…。一度ミクに相談した方がいいかなあ)」
ミク「どしたの、姐さん」
美幸「ねえ、ミクにとって、アペンドの存在って、何?」
昼前に見た夢を思い出したミク。
ミク「…わかんない。ただ…不思議な感じで、まるきりこの声じゃない感じになっちゃうのに、ミクさんのことを、ミクさんだって認識してもらえるかは、ちょっとだけ怖いかな…」
美幸「…そう。じゃあ、アペンドは買わない方がいいかな」
ミク「!でもね?!ミクさんにとっても、嬉しいことではあるんだよ?色んな声質で歌えるし!買ってよう~♪」←A:おねだりだよ!
美幸「わかった、じゃあ、買う方向で行くね。…あ、洗濯物取り込まなきゃいけない時間だ。DTM中断」
ミク「えー、もう?冬だからきっと洗濯物乾いてないよー?」
美幸「ルーフがあるけど、雪に横に降られたら濡れちゃうもの。…ミクもお手伝いしてくれる?」
ミク「手伝う。ミクさんの初めての姐さんとの歌、なんとかして完成してもらわなきゃ!」
ノートPCの画面の前で、いつまでもプロジェクトの細かい修正をしている美幸。牛タンスモークを食いながら、美幸の後ろで退屈そうにしているミク。
ミク「…ここまで姐さんが凝り性だと思わなかった。…ねえ、姐さん、多分今のここのところのキーと、それとこの調子だと全体の拍子間違ってるよー?」
美幸「え?そうなの?」←A:本気で気づいてないんだよ!
ミク「これは…長丁場になりそうだ…ね」
美幸「ごめんね、音痴で(涙)」
ミク「…うん。ミクさんが何としてでも音痴脱出させてあげるよ!“家族”じゃん!待てるって!(なるべく早く(ぇ))」
美幸「(ミクの期待に応えられる自分になりたいな…でも勉強が追い付かない…。ミク、私が嫌になって、どっか行っちゃったりしたら…どうしよう)」
ミク「(…家族って言ってもらえたのは嬉しいけど、姐さんは好きだけど、歌を歌えなかったら、私がこの家に存在していいのかな…)」
(続く)
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言葉が喉に詰まる。
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