ちっぽけな愛情
「雑音!ねぇ、雑音ってば!」
「なんだよっ、昼寝の邪魔すんな!」
初音は昼寝中の雑音を乱暴に叩きながら起こすと、雑音はひどく寝起きが悪かった。
それもそのはず、雑音は今さっき、好物のトマトを腹いっぱい食べる夢を見ていたのだ。
「だって、暇なんだもん・・・ねぇ、私と遊ぼう?」
「やなこった。こちとら、眠みぃんだよ」
「そんなの、遊んでたら眠気なんてあっという間に覚めちゃうよっ」
「ヤだね。・・・大体オメェ、仕事はどうした?マスターの野郎探してるんじゃねーのか?」
雑音はチラッと時計を見る。2時38分。
まだまだ、昼寝の時間はたっぷりある。
「マスターはお兄さんの息子さんの参観日!お兄さんの都合が悪いから、代わりに行ってるの」
ふーん。
雑音は小さく返事をした。
「兄貴のねぇ・・・てか、野郎(マスター)も早く結婚しねぇかねぇ~・・・」
「また、野郎呼ばわりして。ええ、ミクは結婚なんて反対っ!」
「・・・なんで?」
「だって、相手してくれなくなったら、ヤだもん。」
はぁー・・・と雑音はため息をついた。
同い年なのに、こうも意見が違うのか。
同い年と認めたくない。雑音はそう思った。
「それよりさぁ、遊ぼうーよっ」
「・・・・。」
「何して遊ぶ?トランプ?すごろく?百人一種?あっ、もしかして・・・人生ゲーム?」
「なんでそんな、子供っぽい遊びしかねーんだよ。」
「だって、これでよく、リンちゃんとレン君と遊ぶから。」
「・・・あの、黄髪姉弟は飽きねぇのか?」
「うん。全然ッ」
あの野郎はどう考えても、ミクたちを子供扱いしすぎている。
雑音はそんな思考を頭に浮かべながら、よっこらせっと体を起こした。
雑音はマスターに愛されたことがない。
あれはいつだっただろうか。
この家に初めて来たとき、雑音はマスターや他の仲間に近づこうとはしなかった。
近づいたら、いつもの自分がなくなるような気がしてイヤだったのだ。
雑音は自分のこの性格がとても気に入っている。
だが、それをMEIKOに言うと、
『そんな発想はやめなさい。』
と言われた。
どんな発想をしても、それは人の勝手じゃないか。と雑音はその時強く批判した。
それ以来、誰に何を言われようと自分の勝手に生きてきた。
・・・・・・・だが、ある一人の野郎にはできなかった。
そいつはというと、今この目の前にいる初音がそうなのである。
何故か、なんにもしない、できない、自分に近づいてはジャレつこうとする。
イヤだ。と言っても、一方的に話を進めてその中に引きづり込もうとするとても、迷惑な奴だった。
ある時雑音は、初音に聞いた。
お前のその対応は、俺が可哀そうでやっているのか?と・・・。
雑音は少し苛立つ気持ちを抑えながら聞いたものの、相手の返事は予想外だった。
『そんなことあるわけないじゃん。私は雑音が好きで、こうして話してるんだよ。
それと、雑音!女の子なのに俺っていう呼び方使っちゃダメって前にも言ったでしょ?』
真面目に聞いた質問を初音に軽く弾き飛ばされてしまった。
雑音は初音に何を言おうと、やっぱり結末はどれも、初音に揉み消されてしまう。
初音は皆のアイドル、皆の仲間。
リンがそう言っていたのを思い出す。
雑音はそれを聞いて、フッと笑った。
何が皆のアイドルだ、何が皆の仲間だ!
心の中で声が枯れるほど叫んだ言葉だった。
だがある日、その言葉を取り消される日が来たのだ。
それは、桜が散って青葉になりかけようとした春の季節。
いつものように、人目がつかないところで雑音は暇を潰していた。
昨日で、新曲の仕事を終えた、鏡音姉弟は色んな人を巻き添えに、遊んでいる。
その遊び声を聞きながら、雑音はチッと舌打ちをする。
すると、
「ミク、こんなところにいたのか・・・探したんだぞ?」
振り向くとそこには、少し困り顔のマスターの姿だった。
だが、雑音はすぐにぷいっとそっぽを向く。
そして可愛らしくない声で、
「ミクと呼ぶな。紛らわしいだろ。」
と強いて答える。
だが、マスターはハッハッハッと大きく笑い、また、雑音に話しかける。
「ごめんごめん、じゃあ雑音。」
「・・・・・・・・。」
「実はお前に仕事があるんだ。」
「・・・・・・?蜂かゴキブリの駆除か?ふんっ、戦闘用アンドロイドをなめないでほしい」
「違う、違う。そんな雑用じゃねーぞ?今回の仕事は。」
「・・・じゃあ、なんだというのだ」
この時、雑音の頭には、“アレ”が思い浮かんだがすぐにその思考を取り消した。
「わかってねぇなー・・・お前の“本来の仕事”だよ。」
「歌だ。お前の歌だ。」
雑音は固まった。歌の仕事なんて、初めてだ。
嬉しい気持ちなんてあらわれることはなく、逆に切ない気持に襲われた。
「歌だと?ふんっ、俺を馬鹿にするのがそんなに楽しいか?馬鹿にするのも大概にしろッ!!」
今まで相手に言えなかった気持ちをすべて吐き出す。
少し目から雫が出てきたことは・・・言わないでおこう。
今すぐにでもこの場から離れたい衝動に駆られ、雑音はその場から逃げようとした。
だが、
「そんなに俺が嫌いか?憎いか?それはそれで結構だ。だが、仕事はやってもらわなきゃ困るなぁ」
逃げ出そうとする雑音の手を引いて、マスターは雑音を優しく抱きしめた。
「!は、離せッ俺に触るなッ!!」
脱出を試みようとするが、しようとすればするほど力が籠められて出来ない。
今まで抱きしめらた経験は・・・・初音と初めて会った時以来だ。
初音は自分と容姿が似ている雑音を見ると、なんだか嬉しくなり、たまらなくなった抱きしめてきた。
『うれしいっ!自分と同じような仲間、初めてだよっ!!』
初音はそう言ってくれた。
だが、今抱きしめられているのはマスター。
近づきたい・・・けど、自分がいなくなるのは嫌だ。
そんな弱い心に負けて、近づけなかった存在。
本当はたくさん、話したり、笑い合ったり、手をつないだり、一緒に歌いたかった存在。
愛されない・・・本当は誰よりも愛されたかった存在。
すごく愛おしい存在。
「お前が俺をいくら嫌っても、俺はお前を嫌う事は出来ない。その代わり、お前を愛することはできる。」
「ひとりでいる時間があるのなら、その時間を全て俺と一緒にいる時間にしてほしい。」
マスターの言葉は温かく、弱い心を隠してきた自分が馬鹿らしく思えてくる言葉だった。
雑音はすぐさま抵抗をやめ、それと同時に目から沢山の涙が出てきた。
ロボットでも涙は出る。ロボットでも感情はある。
いつだかわからないが、MEIKOが教えてくれたことが今わかった。
泣いてる雑音の涙を優しくすくうと、マスターはにっこりと微笑んだ。
その日から雑音は、自分の初仕事の歌を必死に練習した。
マスターはそれをただ、優しく見守った。
たまにミクが来て、応援しに来てくれた。それが何よりも、嬉しかった。(初音本人には伝えなかったが。)
そして数日後、初仕事は成功。
初音はすぐさま、雑音に抱きつき、
「おめでとおっ!よく、頑張ったねぇーっ!!」
と他人事なのに自分事のように喜んでくれた。
マスターはというと、あの日のように、雑音を優しく抱きしめた。
いつもは見せることはない笑顔も、その日は自然に見せることが出来た。
あれから数日たった今も、マスターから少しづつ仕事を貰い、たくさん愛されてきた。
皆といれば、自分を失うという馬鹿な発想は取り消され、逆に、皆といれば、自分らしい自分になれる。そんな考えが生まれた。
だが、“ひとりでいる時間があるのなら、その時間を全て俺と一緒にいる時間にしてほしい”
マスターのその願いは、少しだけだった。
なんにせよ、人の言う事を素直に聞けない雑音はそれが照れくさかったのだ。
そのことを初音に聞かれ、そう答えると、
「じゃあ、雑音は俗に言う、“ツンデレ”さんなんだねっ」
と蔓延の笑みで言われた。
けれど、いつかその願いも、叶えたい。
雑音は階段を一段、一段、上がるように願いを叶えていくことに決めた。
そしていつか、マスターに素直に「好き」と言えるようになりたい。そう思っていた。
「雑音?雑音っー?聞いてるの!?」
ハッ。過去の思い出を辿っていたら、目の前にいる初音の声も聞こえなくなっていた。
「あーハイハイ、なんだ。」
「だから、トランプじゃつまんないから、あやとりしようっと言ってるのっ」
「・・・・あやとりの方がつまんねーと思うけど。」
「じゃあ、なにがいいの?」
初音とう~んと悩んでいるうちに、「おーいっ」という聞きなれた声が聞こえてきた。
2人は顔を上げ、自然に笑顔が出てきた。
「マスターが帰ってきたっ!行こう、“ミク”っ!」
「ああ、行こう、“ミク”っ!」
2人は玄関まで全力で駆けより、そして思いっきり抱きついた。
END
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ご意見・ご感想
来栖
ご意見・ご感想
雑音がかわいいですね
私はこの話好きです!他の作品も楽しみに待ってます。
2011/11/24 21:34:34
木穂
コメ有難うござます!
これからも、雑音だしていけるよう頑張りマス^^
2011/11/25 18:24:47