ピアノの高音が響く音。激しいロックな音。弾むような楽しげな音。
人を見る度にコロコロと変わる音を聞くのは、正直嫌だった。うるさいし、忙しないし……。
この妙な"性質"で気味悪がられることなんて日常茶飯事。いつも独りを強いられていた。
でも、高校に入る頃にはそんなことがぱったりとなくなった。知っている人がいないからか。それとも、私の性質について自ら話してないからか。
私は普通の女子高校生を演じることができるようになり、幸せな毎日を過ごすことに成功した。
この奇妙な性質について知ったのはいつ頃だろう……。たしか小学校2年生の時、友達の家ではじめてピアノに触れた時だ。どれが何の音かわからなくて、友達と一緒にめちゃくちゃにひいていた。ひくことをやめても音は止まらず、むしろピアノ以外の音が聞こえた。
その友達を見ていると、悲しそうな音が流れていたのだ。数日後、その友達は引っ越して遠くの土地へ行ってしまった。
要するに、私は「人を見るとその人の今の感情が音となって聞こえる」のだ。
この性質を利用して、私は何気なく悩み相談をしてきた友達、マユの相談を聞いた。悲しそうで、でも時々楽しそうな音がする。
これは「恋」の音だった。
「ミクー! 聞いて聞いて!」
ある日の放課後。私は部活へ向かおうと鞄を持った時、マユが声をかけてきた。彼女はすでに私の中で親友と呼べる存在まで仲良くなっていた。
そんな彼女が話しかけて来たんだ。どうせうちの部活はほぼ自由参加。行っても行かなくても、いつ行っても関係ない。膝を曲げ、すぐに自分の席に座り「どうしたの?」と聞くと、マユは私の隣の席に座った。
「んー、えっと、またまた相談、なんだけど……」
マユを見た瞬間、ダンッと言うピアノの音から始まり悲しげな音楽が流れてきた。今までもマユからは聴いたことない音。音だけじゃない。表情も見たことないものだった。
マユからの言葉を待つが、いくら待っても話し出そうとはしない。友達がいなかった私にはこの時、どうすればいいのかわからなかった。
その時ふと、中学の頃、私に攻撃してきた子に反撃した時を思い出す。その子の友人がさっとやって来て「大丈夫?」と心配そうに声をかけていた。その子も今のマユみたいに涙を流していたっけ。
涙の意味は、多分違うけど……。かけてあげる言葉は一緒大丈夫、だと思う!
私は「大丈夫?」と肩に手をおこうとした時、マユが私を抱き締めてきて声をあげて泣いた。
「ま、マユ!? 何があったの? ……いじめられた?」
「違う! 違うよ! 失恋だよ!」
「しつ、れん?」
今までの相談を思い出してみる。……たしか、恋愛相談だったな。
相手は……鏡音レン君、だっけ? 隣のクラスの。
黙るとイケメン、話すと可愛い子供ってうちのクラスでも囁かれていた子だ。
マユはその子に一目惚れして、何回か話していたみたいだけど……。
「な、なんで? もしかして、告白したの?」
「違うよ! できるわけないじゃん! ……昨日、見ちゃったんだよ……」
すっとマユが離れたので、私は机に腰をかけた。その方が距離も近いし、ちゃんと話を聞いてあげられる気がしたから。
「見ちゃった?」
「昨日、帰ってる途中でお腹へったなーって思って、コンビニに寄ったの。……そ、そしたら、一緒にアイス選んでるレン君と……り、リンがぁ!!」
「お、落ち着いて! えっと、リンってうちのクラスの?」
「そうなの! 結局2人は2人用のアイス買って、一緒に食べて帰ったんだよ! あれは絶対放課後デートだよ~!」
相当悔しいのか、机をダンダン叩きながら唇を噛みしめている。
「ねぇ、ミクとリンって同じ部活でしょ!? ちょっと聞いて来てよ!」
「えぇ!? 同じ部活でも、あんまり話さないし……。多分マユの方が仲良いよ?」
「お願い! 私が聞くと、好きって思われるじゃん!」
「……好きでしょ?」
「す、す……きだけれど! ね? 今から部活行くんでしょ? ついでにさ!」
そう強引にお願いされ、私は頷く他なくなってしまう。
強く言われると断れない性格が強く私の中で主張し、結局「クラスメイトのリンからレンのことを聞く」という目的を持って部活へ行くこととなった。
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