「・・・まったく、何が水着よ」
オフの日の午前10時過ぎ、ゆかりは台所で洗い物をしながら憤慨していた。
「なぁ、ゆかり?今度の休みにTVでCMやってるあの遊園地のプールいかないか?上の階の友達のマキちゃんとずんちゃんも一緒にさ」
朝ご飯を食べていたら、あの人が突然提案してきた。
だけど今年は水着を買ってないし、二人は特にマキさんはスタイル抜群なのだ。水着になったらまた、幼い体型(特に胸)をネタに弄られるのは目に見えている。
それにあの人は、正月に買ったデジタル一眼レフにハマッていて、理由を付けて写真を撮りたがるのがわかる。それは絶対にダメだ。三人並んで写真を撮るのもイヤだし、私の水着写真なんかが残るのもイヤだし、あの人がマキさんとずん子さんの写真を撮るのも・・・。
「はぁ、どうしましょう。帰ってきたらまたしつこく誘われるのかしら」
台所が綺麗になった頃には11時になろうとしていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい。今日は煮魚ですけど、先にシャワー浴びてきますか?」
***
「で、今朝の話だけどどう?土曜日にしようと思うんだけどさ。今週末スタジオ、空調メンテで閉まってるんでしょ?」
(迂闊でした。今週の頭に予定伝えてしまってたんだわ)
「そ、そうなんですけど、やっぱり気が乗らないというか。水着も用意してないし・・・」
「え~!いいじゃん、スタジオ行く時についでに用意すればさ!大丈夫だよ、ゆかりなら何着ても似合うって!ね?行こうよ~」
「だってそれに、写真も、撮るでしょ・・・?」
「もちろんだとも!この機を逃してなるものか!バッチリとファインダーに収めるぞ!」
(はぁ~~~)
「だから、それがイヤなんですってば!また、いやらしい目で写真撮るんでしょ!マキさんとかずん子さんも!」
違う。そんな言い方しちゃダメ。
「はぁ!?意味わかんねーよ!俺がいついやらしい目で写真撮ったんだよ!」
「さぁ?いつもの事なんじゃないですか?」
顔が熱くなるのが自分でもわかる。こうも興奮してしまってはまともに話もできないというのに。でも、今日は自分の口から出る言葉が制御できない。
「こっ!・・・わかった、もういい。もう誘わないよ、勝手にしたらいい」
「寝るよ、おやすみ。明日は朝早いからメシも何もいらないよ」
そう言うとドカドカと歩いて乱暴に寝室のドアを閉めてしまった。
「なんですか、あの態度!私だって知りませんよ!」
そう言いながら、あの人の飲みかけの晩酌のグラスに焼酎を並々注ぐと、一気に流し込んだ。こうでもしないとやってられない気持ちだった。
「なんで男の人って適当におだてれば女の子は首を縦に振ると思ってるのかしら。私、そんな安っぽい女じゃありませんよ!」
***
ガチャ
・・・バタン
翌朝、玄関が閉まる音で目が覚めた。時計を見るとまだ朝の5時30分前。
「そういえば今朝は早いって言ってましたっけ。スタジオ入りは今日は午後からだし・・・」
そこで昨日の事を思い出して、またムカムカしてきた。
「何か一泡吹かせてやりたいですね。もしかしたら全面戦争になるかもしれませんし、相手の弱みの一つや二つくらい握っていた方が、便利かもしれません」
どこから何を探そうか。そう考えながら朝食を食べてリビングを掃除していたら、棚にあるデジカメが目についた。
今回の事の発端でもあるデジカメ。そういえばデジカメのシャッターを切ってる回数の割りに、現像して見せてくれる写真の枚数は案外少ない。あの人は失敗だったから削除したなんて言ってたけど、本当の所はどうなんでしょう?私、気になります。
あの人のデスクトップのパスは知っています。しばらくフォルダを見ていたら一つだけ、ロックの掛かっているフォルダを見つけた。
タイトルは【お宝コレクション】
「露骨に怪しいですね、これは」
「そういえば男性のPCには、あんな画像や動画が溢れ返ってるって聞いた事があります。これはもしかして」
こうなるともはや好奇心が抑えられない。きっとあの人の事だからパスはそんなに難しくないはず。
パスを色々試す事15分。ロックは私がこのウチに来た日の日付だった。
「まったく、こんな中身のフォルダーのロックに私を使われては困りますね。最低です」
そうつぶやいて中身を見てみた
***
目が点になる、というのはこういうときに使う言葉なのだろう。
「なんですか、これ?」
全く予想だにしない中身に硬直してしまった。
フォルダの中身、私の何気ない日常を写した写真や、CDのジャケット写真やイラスト。どれもこれも私に関係する写真やイラストだった。枚数は1000枚を超えようとしていた。
特に写真は【お宝】というにはあまりにお粗末なものだった。
春に公園に桜の写真を撮りにいった時のもの。せっかくの桜にはピントが合わず、周りの桜はぼやけて右端で見切れてる私にピントが合っていた。
正月休み、珍しく雪が降った近所を初詣の帰りに、初めての雪にはしゃぐ私を写したもの。この時はちゃんと笑顔でカメラに向かってあげたのに、雪の反射でほとんど写真は真っ白。
バレンタインの日あげたチョコの写真。これはまだ食べかけが冷凍庫に入ってましたね。入れたまま忘れてるんだと思ってました。
【俺の嫁!】と恥ずかしいタイトルが付けられた写真には、テーブルに晩御飯を用意して帰りを待ってる内に寝てしまった私の寝顔が写っていた。
次の写真は・・・・。
いやらしい写真や画像なんて1枚もなかった。これはひどい反則だ。こんなもの見てしまったらこちらも反則技で仕返しするしかない。
「覚悟しててくださいね」
***
「ただいま帰りました」
「おかえり。俺も支度始めたばっかりで、まだメシができるまで少し掛かるから先に風呂にする?」
「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えさせてもらいますね」
サンダルを下駄箱にしまいながら答えた。ふと好きな香りが鼻をかすめた。ご機嫌を取りたくなるとこれを買ってくるのだ。
「帰りに金鳥で焼き鳥買ってきたんだ。風呂上がったら飲むだろ?」
「クスッ・・・いただきます」
「あれ?その買い物袋は?」
「マキさんもずん子さんも土曜日のプール、行きたいそうですよ。だから帰りに三人で買ってきたんですよ」
「え?あの、それってつまり??」
ビックリした顔で聞き返してくる。諦めていたんだろう。本当にわかりやすい人だ。
「集合時間は何時ですか?明後日ですよ?二人とも連絡待ってます」
「あ、じゃ、ちょっと早いけど朝7時でも大丈夫かな?聞いてみてくれる?」
「はい、わかりました」
私は笑いながら答えると着替えに部屋に入った。
***
「ただいまー!いやー疲れたね!」
「運転お疲れ様でした。お風呂、お先にどうぞ」
プールから帰宅。明日も休みだからと、存分に遊んで食事して帰った今はもう深夜1時を回っていた。後ろの席のマキさんとずん子さんにつられて私も食事の後の車はぐっすり寝てしまったのだ。これは流石に申し訳なかった。
でも、とてもいい夏の思い出になったのだからこれは素直に感謝している。水着は案の定弄られたけど、あの人は一生懸命フォローしてて、マキさんもずん子さんも私より彼の反応を楽しんでいるようだった。
夜の打ち上げ花火の時、二人はどこに行っていたんでしょうか?いい大人が迷子なんて、探したけど見つからないし途中で諦めました。
***
「おまたせー風呂空いたよー」
「では、私もお風呂行ってきますね」
そう言うとゆかりは風呂場に向かった。
「さて、忘れない内に今日の写真をPCに写しておこうかな」
ビールのグラスとカメラも持ってPCデスクに腰を下ろし、PCの電源を入れていつものフォルダを開く。ロックを解除して違和感を覚える。見慣れない写真がある。
「!?」
ビックリしてイスから転げ落ちる。なんだこりゃ!?こんな写真を撮った覚えはないぞ!?
「ゆかり!ちょっとゆかりー!?ゆかりさーん!?聞きたい事があるんだけどー!?」
ドタドタ・・・足音が部屋から出て行く。
家主が出て行った部屋のPCのモニター。
そこには目が赤く腫れた【お宝】の今までにない素敵な笑顔の写真が追加されていた。
END
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ご意見・ご感想
高畑まこと
その他
いつの間にかフォロー返されてた( ̄▽ ̄;)!!
ありがとうございます(*゜▽゜*)
返事はどちらでも、大丈夫だと思います。
自分も始めてから間がないので、わからないこと多いです。
微妙に手探りでやってますw
では、また2828しちゃう話を、お願いします♪
2013/07/30 22:36:54
高畑まこと
ご意見・ご感想
2828しました。
…可愛い二人暮らしですね(*´∇`*)
次回作、期待してます♪
2013/07/30 11:33:09
びびっと
いらっしゃいませ!メッセのお返しはこっちに書くんですね、色々手探りなものですから。
2828いていただけると投稿した甲斐があります!ありがとうございます!
2013/07/30 12:33:58