第三十六話 昔々のそのまた昔

 「……あ、おかみさん、よかった……。目が覚めましたか?」

 目を開くと目の前にいたのは、私が娘を任せて逃がした、奉公人の姿だった。
しかしただの奉公人ではない。
彼は、魔界からきた、≪ヴァンパイア族≫だ。

 「私がここに来た時には、もうおかみさんは倒れていましたよ。お身体は大丈夫ですか?」

 「え、ええ……。もう大丈夫だよ」

 彼が優しく訊いてくるので、答えてしまった。

 ……ちがう。
この者は今一人。では、あの子は、おりんは――?


 「……れん。おりんはどこにいるのです?」


 そう今度は私が訊いた。
すると、れんは少し申し訳なさそうに俯いた。
それでもなにも答えなかった。


 「れん、お戻りなさい」


 「! し、しかし、私はおかみさんに訊きたいことがあって……」

 「頼んではずです」

 
 れんが訊きたいこととは、何かはわからない。
でもそれは今ではなくても、また、今度に……。

 おりんのほうが、大事だ。


 「あなたに、頼んだはずですよ……。れん」

 「……」


 れんはなにも言わない。
しばらく経った後、「すみません」と小さく口にして、寿々屋を後にした。


 雪は、まだ降り続いているようだ。
こんなに雪が降るのも、こんなに切ない雪を見るのも、初めてだ。

 この音もなく積もりゆく雪は、どうかあの子たちを助けてくれるだろうか。



 「……っ」



 いけない。
また倒れるところだった。

 まだ、死ぬわけにはいかない。


 あの人が、残してくれた命を。



 私は守らなければならないのだから。





 
 それでも寂しい。




 

 どうか、傍に来て。


 優しく、その手で、抱きしめて。












 愛しい、愛しい―――――。









ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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ノンブラッディ

次からおかみさんの過去編に入ります。
うわー長ぇwww

閲覧数:91

投稿日:2013/02/17 09:08:02

文字数:791文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    おお!?
    ここに来て、ルカの過去編!
    これは、大長編になりますね!
    もう、クライマックスなのかと思ってましたけどww

    2013/02/24 15:05:28

    • イズミ草

      イズミ草

      そうなんですよねーww
      私も終わらせようとしたんですよ!
      何度も何度も何度も何度も……

      しかしこのお話の皆さんが終わってくれないのですorz

      2013/02/24 16:39:07

  • Seagle0402

    Seagle0402

    ご意見・ご感想

    次はおかみさんの過去ですか…!
    のんびり読ませてもらいます!

    2013/02/21 19:24:08

    • イズミ草

      イズミ草

      最近がたっと更新ペースが落ちてるので、申し訳ないです……
      そう言って頂けるなら嬉しいですww
      思いきり長く書いちゃおいかなっ★
      え? それはちょっと?

      2013/02/21 20:56:19

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