「どうして私に優しくするの?」
 君はいつか、僕に向かってそう言ったよね。全ての音や声、そして自分の声すらも聞こえない君が。
 僕は本心で答えた。「君を、助けたいんだ」と。
 だけど、やっぱり君はわからないという表情をしている。それは、僕の声が聞こえないという証明だ。つまり、僕の気持ちは、伝わらない。

 少しでいい。たった一言でもいい。君に僕の言葉が届いたら。君は、笑ってくれる?

 結局、君は笑うことはなかった。命が終わるその瞬間まで、ずっと。
 最期の君がくれたのは、懐かしい歌。君の思い。そして……孤独だった。

 僕は何もできなかった。君に声を届けることも、君を助けることも。
 そして、周りの君への反応は酷かった。誰も、君を仲間とは思っていなかったんだ。

 じゃあ、僕が今までやってきたことは何だった? 全部、君を助けるためにやったことは、無駄だった?皆は、この世界は君を必要としていなかった。
 だったら、僕が存在している理由もないじゃないか。

 きっと、僕も孤独だったんだろう。全てに拒まれて、全て失った。家族は僕を捨てた。優しかったあの兄でさえ、僕を見なくなった。
 僕は「いらない」のだろうか?じゃあ、答えは簡単。生きる理由もない。全てを失ったこの世界で生きるくらいなら――
 全て終わりにしよう。

 気がつけば、僕はもう行動していた。授業が始まる前、朝のホームルームが終わったばかりだ。
 次の授業の教師はまだ来ない。それに、クラスの皆は話に夢中になっている。誰も僕を見ていなかった。だから、教室を出るのは簡単だった。
 階段を駆け上り、屋上に繋がる扉を開ける。そこは、雪が降っていた。
 街を見下ろす。高い。景色も普通。街では、いつもと変わらない日常を繰り返している。でも、なんてつまらない世界なんだろう。
 僕が消えたって、きっと世界は変わらない。

 僕は持ってきていたカッターナイフを取り出し、右手首を切った。これまで感じた痛みが可愛いと思えるほどに、強く。コンクリートの床に、赤い雫が落ちていく。きっと、これは止まらないだろう。まぁ、今の僕にはあまり関係ないことだけど。
 柵に手を触れる。転落防止用とか言ってたけど、思っていたより高くない。こんな高さでは、転落防止にならないだろう。ま、いいか。ここは十分高い。僕にとっては好都合だ。

「――神威君!」
 後ろから声が聞こえた。この声は……初音さんか。他にも三人いる。きっと、僕を追ってきたんだろう。
 だけど、その行為に意味はない。止めようとしてくれるのは嬉しいけど、今更もう遅いんだ。
 後ろから投げられる制止の声を無視する。そして、柵を乗り越え――そのまま屋上から飛び降りた。

 願いなんてないけど……そうだな。もしも生まれ変わったら、もう一度、君と話したい。音を取り戻した君を、今度は助けてあげたい。
『音のある世界で、もう一度』それが僕の最後の願いかな。
 ……ああ、だけど。君を傷つけた奴らに、君が受けた苦しみを、少しでもわからせてやりたかったな。もちろん、地面目掛けて落ちている僕に今できることは、加速する思考で何かを考えることと瞬きくらいだから、そんなことは当然できはしないんだけど。

 ――さようなら。誰かに向けて、呟いた。それが、僕の最後の言葉だった。



「……また、か」
 眠っていたようだ。最近、気づいたら寝てることが多いな。寝不足か? グミほどじゃないけど。

 いつも見る夢。幼い頃からずっと見ている夢だ。俺に心臓の病気があるとわかった頃から、ずっと。
 ただ、今回は少し違った。いつもは『君』が動かなくなるところで目が覚める。今回は続きがあった。あんまり望まない結末だったが。
 そして、もう一つの夢を見ることもある。学校の中を彷徨い、誰かを捜す夢だ。
 この二つの夢が何を示しているのかはわからない。気になることは多々ある。片方の夢に、ルカが出てくる。だけど、そのルカは俺が知ってる彼女じゃない。この夢は彼女と出会う前から見ていた。
 そして、さっきの夢と、俺の右手首の傷痕。何か、関係はあるのだろうか?

「……もう、時間がないか」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【がくルカ】Plus memory【2】

2013/02/07 投稿

改稿しましたが、内容は二行足したくらいの変更です。


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投稿日:2022/01/10 02:26:15

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カテゴリ:小説

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