しばらく時間が流れた。
 次第にレンの苛々は募り――。
「あの変態野郎はなにしてんだ」
「リンのプログラムをとりに行ったよ?」
「…自分のプログラムを書き換えられるってのに、お前は他人事かよ?」
 呆れたように言うレンの顔を見て、リンは少し困ったように何かを考えて、それからふっと顔を上げていった。
「リンはまだ、何もわからないから、今のうちに変えられるなら、今なら、いいの」
「…プログラムを書き換えたら、今までのことはわからなくなるんだぞ?」
「…でも、もっと後になって嫌な思いしながら書き換えられるより、今の方がいい気がする。外の世界もわからない、今ならいいの」
 しばらくの間、リンの整った顔をじっと見ていたレンだったが、いきなり椅子をけるように立ち上がると、リンの手をつかんで歩き出した。
白衣を翻し、美しい金髪が風に乗って、まるで風になってしまったかのようにきれいにゆれていた。その金髪は、どことなくシャンプーのいい香りを漂わせていた。その香りに、リンの嗅覚システムが反応する。強く握られた自らの手から伝わってくる信号も規則的で、その青い目の奥には、1と0が不規則に並んでいて、全てが人ではないように思えた。
「ねえ、レン、どこに行くの?」
「外」
 こちらに顔を向けようとしないまま、レンは短く答えた。その返答に、リンが戸惑う。
「でも、これから、プログラムの編集が…」
「気が変わった。甘いものを食う。付き合え」
「仕事はっ?」
「お前といれば、お前の社会経験のためだとか言ってどうにかなる。お前に選択権はない。来い」
 研究所の外に出ると、空は嫌味なほどに晴れていた。まさに快晴、雲ひとつない晴天とはこのことだった。
 初めて見る『空』と『雲』と『太陽』に、リンのプログラムが素早く稼動して、情報をかき集めている間に、レンはずんずんと進んでいってしまう。進む先にあるものすべてが初体験のものばかりのリンからすると、ただの街中も、遊園地のように楽しいものなのだろう。はしゃぎまわってあたりを跳ぶように近くの店を見てまわっては、楽しそうにレンを振り返って笑う。
 それを見て微笑を浮かべ、レンはあたりの活気を不思議に思う。何故、こんな小さな町にここまで大きな市場ができているのか。そんなことはまだわからないレンだったが、可愛らしいリンの笑顔に、そんなことはうやむやにできてしまう。
「レン、あのカフェがいい!早く行こうっ」
「お前、食えんのか?」
「わかんない!」
「はぁ?」
 また、レンが呆れた声を上げた。
 しかし、リンは笑ってレンを見ていた。屈託も混じりけも、まして邪心など微塵もないような、無邪気な笑顔であった。
「…。仕方ねぇな、行くぞ。…あんまり高いもの、頼むなよ。給料日前なんだ」
「はぁい♪」
 分かっていなるのか分かっていないのか、リンはその場で手を高く上げて楽しそうに、返事をした。
 カフェに入ってケーキとジュースを頼むと、適当な窓際の席を選んで腰を下ろした。窓の外は五月蝿いくらいに威勢のいい声が飛び交う。
「たまにはこんなのもいいかも」
「レン、こういうこと、しないの?」
「仕事場にこもりっきり」
「…じゃあさ、今度からはリンと一緒に行こうね。リンも楽しい」
 まるで、子供のようだ。
機械的な要素は見たところ何一つない。しかし、その瞳の奥にあるものは、決して人ではない、0と1の羅列であり、彼女は人間ではないことを物語る。キレイな髪の毛も、レンと同じではない。柔らかい肌も、透き通る瞳も、その笑顔ですら、作られたものであることに変わりはなく、レンは少しだけ疎外感にも似た、何かを感じた。
そのとき、レンの携帯電話がなった。
「はい、もしもし?」
「――レン?早く戻ってきて。急用ができたわ」
「よくわからないけど、じゃあ、リンも連れて戻るわ」
 いうと、食べかけのケーキを無理やり口に押し込んで、またリンの手を引いてカフェを出た。電話はメイコからのものだったが、メイコの口調は焦りが読み取れた。
 しばらく歩いたあたりで、レンは足を止めた。
「…リン、ちょっとやばいかも」
「え?」
「何か、やばそうな奴らに囲まれてる」
 そういわれてリンが辺りを見回すと、確かに顔が見えないように一律に仮面をかぶった男か女かもわからないような奴らに、四方八方、ふさがれているのだ。
 さりげなくレンがリンを庇うように前に出たが、前も後ろも囲まれている中では庇いようがない。少し困った状況になってしまったな、とレンが思ったときには、リンも身体を縮めて怯えたようにしていた。周りを囲むといっても、人ごみの中でさりげなくいるだけなのだが、仮面などつけているのだから、一旦気付けば非常に浮いて見えてしまう。
「…」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

君にささげる機械音 2

こんばんは、リオンです。
遅くなりましたが、本日の投稿です。
ちょっと怪しげなところで終わらせてみました。
カイトたちのほうもかこうかと思ったんですけど…。ねぇ?(何
また明日!

閲覧数:332

投稿日:2009/11/21 23:24:45

文字数:1,972文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • リオン

    リオン

    その他

    こんばんは、Ж周Жさん。
    卓球の試合ですか!凄いですね!!

    リンは可愛らしいですねぇ。
    あれって、なんで0と1なんでしょうかね?よくわからないんですけど…。

    いわゆるクーデレと言うものですね(殴斬蹴刺撃

    短くてもいいんですよ。次も頑張りますね!

    2009/11/22 17:02:47

  • リオン

    リオン

    その他

    おおっみずさん、お久しぶりです!

    面白いですか!ありがとう御座います!
    今回はリンが機械ですけど、人間のような純粋な心を持っているのです。
    VOCALOID設定は無視し続けてきたので、今回はちょっと考えるのが難しいですね・・・。
    魔法とかダメだから、どーんとかばきーんとか、出来ないんですもん(雑

    ただカイトたちのほうを書くと、日付が変わってしまうと思っただけなのですが…(笑
    楽しんでもらえるなら、それでもいいんですけどね。
    漫画…確かにありがちですよね。
    へぇ、そんな技術なのですか!わかりました、これからは存分にその手を使っていきます!!

    続きも頑張ります!!

    2009/11/22 14:58:15

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