大通りの外れ、喧騒から離れたこの通りには落ち着いたカフェや趣味の良い雑貨屋、洋服屋などがところどころに点在している。ここもそのひとつで、一階が古着屋の建物の二階に、こぢんまりとしたカフェがあった。
このカフェ、席数は少ないが昼時になるとたいがい満席になる。又、利用するお客様も若い子ばかりでなく、主婦たちのおしゃべりの場にも商店街の店主たちのしばしの一服にも重宝されているようで、幅広い客層から愛されている。
そんなカフェを前に、まだ中学生ぐらいの少年と少女が仁王立ちに立っていた。少年少女とも身長はほとんど同じ。顔立ちも男女の違いはあるけれど似通っていて、二人共、まなじりの上がった瞳が大きく、どこかネコ科の動物を髣髴とさせた。
「ここが例のカフェよ、レン。」
そう、少女のほうが頭の白いリボンを揺らしながら、重々しい口調で言った。
「ここが、この通りで売り上げの伸びている店か。リン。」
そう少年はひとつに括った髪の毛を揺らし、店を見上げた。
この二人、リンとレンという。というこの通りに店を構える鏡音和菓子店の双子の子供である。鏡音和菓子店は伝統ある庶民に優しいお値段の和菓子の店だが、最近の不景気で店の売り上げがぱっとしない。子供ながらにそんな店の状況を憂い、この通りで活気のあるカフェを偵察しに来たのだ。
「なんか、テラスとかあって、格好いいな。」
カフェを褒めるような言葉を呟くレンの後頭部を、リンが、ばちこん。と叩いた。
「馬鹿っ、戦う前からそんな弱気でどうするのよ。」
そんなことを息巻いて言う。痛む頭を撫でさすりながらレンに、リンはなおも言葉を放った。
「いいレン。これは下剋上よ!」
闘志に燃えた眼差しのリンを見つめ、そういえば最近、社会の授業で戦国時代を習ったな。とレンはぼんやりと思った。
下剋上。ていうか、伝統はうちのほうが上なんだから、その使い方、間違ってねえ?
そんなことを思っているレンの背中を、ぐい、とリンが押した。
「切り込み隊長、鏡音レン。行ってこい。」
そう言いながら店の入り口へ続く階段へ、ぐいぐいと押し出す。
「おい、ちょっと待て。なんで俺だけなんだよ。」
一緒に行くんじゃないのか。と驚きレンが抵抗すると、リンは、一階の古着屋を指差し、こう言った。
「私は、このお店を見てから行くから。」
ちょっとレトロな感じのワンピースが欲しかったのよね。とリンは良い笑顔で言った。
駄目だ、これは何を言っても無駄だ。
生まれたときから一緒の仲だ。相手の事は嫌と言うほど良く知っている。
レンは、分かったよ。とため息をついた。
「買い物終わったら、さっさと来いよ。」
「了解。直ぐ行くから。」
ひらひら、と手を振りレンは古着屋の横の、カフェへと続く階段を上った。
少し勾配のきつい階段を上り、レンがしっとりと落ち着いたあめ色の木製の扉を開けると、いらっしゃいませ。と明るい声が迎えてくれた。
緑のカーディガンにカフェエプロンを巻いた、髪の長い女性店員がにこやかな笑顔でお一人様ですか?と声をかけてくる。
「あ、は、はい。」
「お好きな席へどうぞ。」
見ると、女子大生らしき二人組みが一組、奥の席に座っているほかは、空いている。働くスタッフも先ほどの髪の長い女性店員しかいない。
なんだよ、ここもそんなに繁盛してないじゃん。そんなことを思いつつ、レンが近くの席に座ると、店員がメニューとお冷を持ってきてくれた。
どれどれ。と、素朴な手書きのメニューをぱらぱらとめくった。丁度おやつの時間だから、ケーキとかにしようかな。とデザートの欄を眺める。
よし、決めた。カフェオレのアイスと、このバナナとアイスのパフェみたいなやつにしよう。とレンが顔を上げると、お決まりですか?と店員が近づいてきた。
「アイスカヘオレと、チョコバニャニャファッジにしてください。」
、、、。
店内が空いていた分だけ、レンの声はよく通った。奥の席の女子大生たちが吹き出すのが見える。オーダーを取る店員も笑いをかみ殺している。
カヘオレは、まあセーフかもしれない。だけどばにゃにゃって。
いっそ穴を掘って、入って、埋まりたい。
下剋上だなんて夢のまた夢だ。
真っ赤になったレンに女性店員はにっこりと良い笑顔で、ご注文承りました。と言った。
「ちょっ、聞いて聞いて。」
ホールスタッフの少女は、厨房に伝票を持ってくるなり興奮した様子で、しかし外に聞こえないよう小声で、厨房スタッフの青年に声をかけた。
「今、中学生ぐらいの男の子が一人で店に入ってきたんだけど。それだけでも珍しいのに、そのコ、バナナの事を、ばにゃにゃ、って言ったんだよ。ばにゃにゃって。」
そう笑いをかみ殺しながら興奮している少女に、青年は、はいはい。と醒めた口調で手を差し出した。
「はいはい面白いですね。伝票下さい。」
全く面白いと思っていない口ぶりの青年の手に、少女はべしり、と伝票を叩き付けた。
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