!!!Attention!!!
この度、ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、コラボ(二人)で書くことになりました。
自分が書く「青犬編」とつんばるさんの書く「紅猫編」に分かれております。
原作者様には全く関係なく、そして勝手な解釈もいいところで、捏造だろうと思われる部分もあると思います。
そういった解釈が苦手な方はブラウザバック推奨。
なお、カイメイ要素を含みますので、その点にもご注意ください。

大丈夫だよ!寧ろバッチ来い!の方はスクロールで本編へどうぞ。








【独自解釈】 野良犬疾走日和 【青犬編#25】





 汽笛の音が鼓膜を揺さぶり、俺は駅を確認する。まだ汽車は着いていないらしく、時間的に間に合わないかと心配していたものだったが・・・どうやら要らぬ心配だったらしい。
「よかった、間に合いそうだ」
 それでも安堵の息をつくにはまだ早い。汽笛が聞こえたということは、もうすぐ駅へ汽車がやって来るということを意味している。このままの速度で走れば間に合うが・・・何かあれば間に合わないかもしれない。
 しかしながら・・・やはり、これだけの策を練ってくれた女中さんとるかさんには何度感謝の気持ちを伝えても伝えきれない気がする。また手紙と一緒に土産の一つや二つ贈らなければ。まさかそれだけで恩が返せるとは思わないが。そんなことを考えていると、めいこが「るかさんのおかげね」と嬉しそうに言った。
 うん、と頷いて微笑む。同じ時に同じことを考えているなんて、やっぱりめいこと俺は結ばれるべきだったんだなぁと考えている自分が少しおかしかった。
「――見つけたぞ、めいこ!」
 思わず、え、と声が漏れそうになるのを留める。
 めいこの表情が心底嫌そうに歪んだ。せっかく逃げ切れると思っていたところで聞こえたから余計だろう。
「げ、しつこいなあ・・・!」
 振り返ろうとしたところにめいこのそんな声が聞こえて、驚き半分呆れ半分に振り返る。
 紫の髪を風に流しながら車から顔を出している男。リンちゃんとレンくんの言ってた通りの男だと今頃思い出したが、とりあえず何も言わずに口を閉ざす。
「ほんとにしつこいわね! しつこい男は嫌われるわよっ!」
 めいこはこれ以上ないほど嫌そうな顔のままでそう叫んだ。普通なら苦笑して流す台詞のはずだというのに、俺の耳は敏感にその言葉を聞き取ってしまった・・・まるで、それが自分に宛てられた言葉のように。
 こんなことを言うのはおかしいとわかっているが、沈黙の後、つい思ったことが口から零れ出た。
「それって、ずっとめいこのこと諦められなかった俺も当てはまるんだけど・・・」
 あ、とめいこの口からしまった、と言わんばかりの声が出てくる。めいこにしては珍しく思ったままの言葉を口にしたようだから、それを受けて俺がどういう反応をするかまでは考えていなかったに違いない。それほどまでにあの紫の男が気に入らないという気持ちもわからないではないが・・・だからといって、もう少しぐらい考えてくれてもよかっただろうに。
「そ、そこは流しなさいよ!」
「流しなさいと言われても!!」
 あ、今の先輩に聞かせたら『えぇツッコミや』とか褒められそうだ、とかまったく話題の方向とは違ったところを考えながら、めいこと暫く言い合う。
 言い合いができるということは、もしかしたら焦っているようで、俺もめいこも結構余裕があるのかもしれない。
 大通りには随分人が多くなって、そのおかげで今のところは車もそれほど速く追ってこれないが・・・それも少しの間だけの話だろう。車に気付いていても本当に危険だと思うまで誰も避けていないから距離は縮まっていないが、車の接近に気付いて即座に避ける人の方が多くなっていけば、差などすぐに縮まってしまう。しかし汽車の速度を考えれば、それ以前にあの汽車に間に合うかどうかの方が心配だ。そう考えた時、がくんとめいこの手が僅かに沈んで離れる。
「痛っ」
 慌てて「めいこ!?」と名を呼ぶと、めいこは足元を見て慌てて何かを拾い上げた。必然的に止まる足。めいこの足元に目を向ければ、そこにあるはずの草履が片方ない。そこにあるはずの草履は、めいこの手が大事そうに握っている。いや、悔しさのために草履を握る手に力が入っているのだろうか。
 めいこは、ことごとく脱走を企てると逃げている最中に鼻緒が切れる、という星の下に生まれてきたに違いない・・・じゃなくて・・・こんな時に何故切れるのか。誰かの陰謀ではないだろうなと疑いたくもなる。
 あと少しの距離と迫ってきた車。汽車は徐々に速度を落として駅へと入っていくところ。
「万事休す・・・」
 誰にも聞こえないように呟いて、草履を持つ手に力を込めているめいこに手を伸ばす。めいこが走れない今、ここからは俺の力の見せ所でしょう。

「――めいこ、変なところ触ったらごめん!」
「え? ふあ・・・!」

 伸ばした腕でめいこを軽々と抱き上げ、めいこが驚いた声を上げるのも構わずに走り出す。一人で走っていた時よりも速度を上げて。
 伊達に毎日配達をしていたわけじゃないし、先輩にしごかれたおかげで体力になら自信がある。このぐらいの距離なら、いけるはずだ。
「ちょっとかいと・・・!」
 文句でも言いそうなめいこに、「うんわかってる、ちゃんと逃げ切るから文句も殴るのも後にして!」と吐き出して砂埃を巻き上げながら走り続ける。さすがに人を抱えて走るのは大変だが、あと距離はほんの少し。周囲の視線など気にしている暇もない。
「ばか」
 めいこの口からそんな言葉が聞こえてきて、必死で走りながら心の中で一言謝る。
 服を握っているめいこの手に力がこもるのがわかって、俺もめいこの肩を抱く手に力を少し込めた。絶対に逃げ切ってみせるという意思を込めて。
「――止まれそこの妙ちきりんな格好した誘拐犯!」
 ・・・人がかっこつけてる時に・・・!!
 確かに今の俺は、ここの人たちにとっては奇妙奇天烈な格好をしているかもしれないし、めいこを誘拐したと言うのも嘘ではないが、もっと言い方ってものがあるだろう。俺と同じく頭にきたらしいめいこが、俺の首にしがみついて後頭部辺りで息を吸うのがわかった。それよりも考えてほしいのは俺の喉だ。
「誘拐なんて人聞きの悪いこと言わないでよ、この狐やろう!」
 耳の奥に響くその声に、思わず笑みが漏れる。というか、首が絞まってるよ、めいこ。
「きつね・・・ッ? めいこ、言葉づかいには気をつけろと言われなかったか!」
 いや、君は狐で十分だよ。動物に例えるなら十中八九狐だ。
「それはあんたの方でしょ、妙ちきりんとか誘拐とか、大声で言ってんじゃないわよ!」
 そうじゃなくて、めいこ、とりあえず首が絞まってるからそれを・・・!
 吐き出そうとした言葉は喉から出ることもなく、吐息と追ってくる男の声に消えた。
「立派な誘拐だろうが!」
「何言ってんの、ぜんぜんちがうわよ!」
 だからあの、俺の首がね・・・!
 文句を言うのを諦めて、俺は何とか自分でそれを回避しようと深呼吸を一つした。同時に聞こえてきたのは、めいこが嬉しそうに息を吸う音。

「私が望んでこのひとと一緒に行くんだから! 邪魔しないでよ!」

 こんな状況でなければもっと嬉しかっただろうに。あれほど首を絞められて息苦しかったというのに、その言葉だけで楽になる。
 笑みが自然と零れたその時、ガサッという音と共に生垣から何か黒いものが飛び出す――それは、わん、と俺の気持ちを代弁するかのような聞き覚えのある声で鳴いた。
 思わずぽかんと開いてしまった口からは言葉こそ出なかったが、自然と笑みが漏れる。未だに黒い犬に扮している彼女は、俺の隣を必死でついてきた。
 まさか彼女・・・しぐれのことをすっかり忘れていただなんて・・・。これが違和感の正体だなんて、一生懸命ついてきてくれる彼女にはとても言えそうにない・・・と思った瞬間、更に首が絞まった。
「しぐれ・・・!」
 めいこが若干後ろに乗り出したおかげで、さっきよりも息苦しい。せっかく何とか耐えていたというのに、さすがに頭がくらくらしてきた。
「しぐれ、あなた何でそんな黒く・・・」
「め、めいこ、腕っ・・・腕はなして苦しい・・・!」
 喉に息が詰まってしまい、ひねり出した声は苦しそうだ。もしかしたら俺は今、青い顔をしているんじゃないだろうか・・・いや、まだそこまでではないのだろうか。めいこは慌てて俺の首をぎゅっと締め付けていた腕を解き、これまた慌てて謝ってくれる。それに対して精一杯の笑みを返し、息を整えつつ足を前へと運び続けた。
 少しばかり後ろを見てみれば、人々が車を避け始めたようで道が開き、俺たちと車との距離が徐々にではあるが縮まっていることがわかる。隣を走るしぐれに音のない声でもう少し頑張れ、と言うと、その賢そうな目が俺の言葉を理解したように細められたような気がした。

 汽車が大きく蒸気を吐き出して、ゆっくりと駅に停車する。めいこをおろす暇もなければ、しぐれを抱き上げてやる余裕もない。ここは、このまま駅の階段を駆け上がって構内に入り・・・汽車に駆け込むしかない。
「このまま汽車に乗り込むよ!」
「このままって・・・」
 めいこの声が一瞬にして上擦り、「このまま!?」と同じ言葉を繰り返す。それに対して「このまま!」とこれ以上何も言わないつもりで強く言い返せば、めいこはそのまま俺の意図を汲み取ったようで口を閉ざしてくれた。自分の状態をちゃんと理解しているからだろう。
 そうしてようやく、駅の階段を数段飛ばしに駆け上がる。
「めいこ!」
 背後から、紫の男の声が響くが、思ったほど近くない。振り返ってみれば、駅の脇に停められた車から男が急いで降りてきたところだった。この距離をあの足で追われたら、今度こそ途中で捕まってしまうかもしれない。後ろを確認するのをやめ、ただ前へと足を必死に動かす。
「めいこ、本当にそれでいいのか!」
 さっきよりも遠ざかった声量に、我が耳を疑った。何を今更そんなことを聞いているのだろうと。いや、そんなことよりも何故そんなことを聞くのかと。それではまるで・・・。

「――いいもなにも、本望よ!」

 ――俺だって。
 叫ぶめいこの声に小さく笑みを浮かべながら、さっきまでの考えを打ち消す。そんなわけがない、と。あの男は、めいこの婚約者で、俺にとっては敵と同じ・・・そうじゃないか。
「そこの野良犬の小僧!」
 その声に立ち止まりはしなかったものの、振り返って男を視界に捉えた。
 視線がぶつかる。
 ああ、何故呼ばれたからといって、素直に振り返ったのだろう。見ない方が、よかったのかもしれない。

 俺はその時確かに、その男の口元が音を出さない言葉を紡ぎ、優しい笑みを浮かべるのを見た。気のせいかと思うほど短い時間だったが・・・切なさを感じるその笑みは、誰かの微笑みに似ている気がした。誰だったか、覚えてはいないが。

 それは、ほんの一瞬の出来事。たった一瞬だけのその表情が俺の目に焼きつき離れない中、拡声器から発車を知らせる案内が耳に届いて、考えることをやめて男から目を離す。
 振り返る間もなく、めいこの声に答える暇もなく、そしてしぐれのことを気遣う余裕もなく・・・駅員に止められるのも関わらず改札を抜け、汽笛を鳴らす汽車に勢いを殺さずに向かっていく。
 もう既に動き始めている汽車。間に合うか。いや、間に合わせてみせる。
 俺はそんな気持ちを足に全て込め、汽車へと――跳びこんだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【青犬編#25】

閲覧数:774

投稿日:2009/12/20 21:08:04

文字数:4,790文字

カテゴリ:小説

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  • sunny_m

    sunny_m

    ご意見・ご感想

    こんにちは。そしてお疲れ様でした。
    最後のお話が来た!という喜びと、最後のお話が来ちゃった!という寂しさでいっぱいです。

    かいとくんが、鼻緒が切れてしまっためいこさんを抱き上げるところが格好良い☆とか
    汽車に乗る前、がっくんとかいとが視線を合わせたところに、何か切なさを感じたよ!とか
    そもそも、最初の話から最後までずっと私は、どきどきしっぱなしだったなぁ~。とか
    その他もろもろ、ありますが。

    素敵なお話をありがとうございます!お疲れ様でした!

    2009/12/22 09:59:37

    • +KK

      +KK

      >>sunny_m様
      こんにちは、sunny_m様。最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

      かいとくんがめいこさんを抱き上げたのはあれです、めいこさんが可愛すぎた効果かと(笑
      相方のめーちゃんは気が強いのに可愛くてかいとくんだってメロメロになるってものです。
      がっくんとかいとくんの辺りは男のロマンというやつかと! 電波で皆さんに伝わってるといいなぁと思っていたので、どんなものでも受け取ってもらえてるようで嬉しいです。
      最初から最後までどきどきしっぱなしとは・・・! 先が見えなくてということですね、わかります(笑

      とにかく、最後までお付き合いいただいた上に感想まで、本当にありがとうございました!

      2009/12/22 17:38:26

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