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いったいどこから話したらちょうどいいんだろう。
やっぱり、彼と初めて話したときのことからかな。
中学二年の夏の日、部活の帰り道。あの日の夕日に照らされた白い校舎は、鮮やかな茜色に染まっていた。
その背後の空は深い青のままで、そのコントラストがとてもきれいだったのをおぼえている。
そのころの私は、今みたいに髪を伸ばしていなくて、短髪とまではいかないけれど、それでも女子にしてはかなり短めのショートカットだった。
あのころは恋愛とかにもあんまり興味がなくて、成績もそこそこ。陸上一筋の体育会系女子だった。その辺は……今でもそんなに変わってない気もするけれど。
その日は大会も近づいてたから下校時間ギリギリまで練習をしてて、宿直の先生に怒られながら閉まる校門に滑り込むようにして学校を出た。
そこで、同じようにギリギリに学校を出た彼と、たまたま一緒になったのだ。
同じクラスの浅野悠。線の細い美少年って感じだけれど、内気なのかおとなしい感じで、それまでしゃべったこともなかったし、他の人とわいわい騒いでるようなところも見たことがなかった。教室だといっつも静かに読書してるイメージで、そのせいか、私と同じようにあわてて校門に走ってる姿がやけに新鮮に見えたのをおぼえている。
「あ……初音さん、お疲れさま」
「あ、うん。浅野くんも。こんな遅くまでめずらしいね。部活?」
「うん。コンクール近いんだけど、僕だけ進み遅くて」
はじめて交わした言葉は、たしかそんなだったと思う。お互い話すのははじめてで、ちょっとよそよそしかった。
「へー。えっと、浅野くんって美術部だったっけ?」
「そ、そうだよ。知ってたんだ」
「まぁ、クラスメイトだしね」
「初音さんは陸上部だよね。いつも遅くまで大変だね」
「大会近いからねー。って、なんでいっつも遅いの知ってるの?」
私はただただ素朴な疑問をなげかけただけだったんだけど、悠は、ちょっぴり恥ずかしそうに顔を背けた。
「そ、その……。美術室からだと、グラウンドがよく見えるから……」
「そ、そうなんだ……」
そんな、どこか言い訳じみたセリフに、思わず私も恥ずかしくなってしまって顔をそらしてしまった。
ちゃんと見ていなかったし、今ではもうよくおぼえていないっていうのもあるけど、お互い顔が赤くなってたと思う。それも、夕日がごまかしてくれただろうけれど。
「……」
「……」
それからなんとなく会話がとぎれて、私たちは田んぼのあぜ道を二人で歩いた。
でも、別に気まずかったりはしなかった。
その、二人で歩いている時間はむしろ心地良いくらいで、虫の音が響いてかたむく夕日に二人の影が伸びゆく中、私たちはどこかゆったりと歩いた。
実は二人の家が近かったってことも、私たちはこの日にはじめて知った。
「私、こっちだから。それじゃ、またね」
「そっか。……うん。また、明日」
家の近くまできて、ようやく私たちはそうやって別れた。
そういったことにうとかった私は、このときはじめて誰かを異性として意識したんだと思う。
おんなじクラスだったのに今までちっとも話したことのなかった彼と、こうやって一緒に帰ったっていうだけで、私はもう悠と別れなきゃいけないのが名残惜しいなんて思うようになってたんだから。
だけど、そんなこと言えるわけもなくて、私は悠の顔を見ることもできないまま、家路についた。
もう一度彼の姿が見たくてたまらなかったけど、そのときは恥ずかしくて振り返ることもできなかった。曲がり角を曲がって彼の姿が見えなくなったと確信してから、私は立ち止まってぎゅっと目を閉じると、胸元で両手を握りしめた。
そしてついさっきの彼の優しい声を思い出して、少しだけ余韻にひたったりもした。
……それは、恥ずかしくて誰にも言えない、私だけの秘密の時間だった。
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