グミヤの話を聞いてから、俺は改めてどうしたらいいのかを考えた。
 今までと同じ……でも、表向きは不都合はない。俺たちは仲のいい友人で、一緒に本や音楽の話をする。リンは今までと同じように、接してくれるだろう。
 けど……客観的に見て、リンは可愛い。リンにいらないちょっかいを出す奴が、また出てる可能性は高いだろう。リンと仲良くなるのが難しいのは確かだが、以前よりはリンも喋るようになったし……。
 俺はようやく、姉貴のうっとうしい忠告の意味が理解できた。「アタナエルみたいになるな」というのは、「自分の気持ちを押し殺すな」という意味で、「ヒギンズ教授と同じ轍を踏むな」というのは、「後から出てきた軽い奴に、リンをかっさらわれるな」という意味だったんだ。なんだって姉貴は、妙なところで勘がいいんだ。おかげで、俺はものすごく面白くない。
 ……姉貴に微妙にひねくれた忠告――そりゃ、ストレートにされたら俺はもっと聞く耳持たなかっただろうけど――はさておき、俺はどうしたらいいんだ?
 正直、グミヤの奴が羨ましく感じるぐらいだ。グミは日頃から、グミヤが好きだって言い続けていた。だから、グミヤは自分の気持ちを自覚しても、グミの気持ちのことで悩む必要だけはなかった。けど、リンは俺のことをどう思っているのかはわからない。下手に好きだって口にすると、リンに拒絶されて関係が崩れる可能性がある。黙っていれば、少なくとも、友人としての立場だけは保っていられる。
 気持ちを告げようか。それとも黙っていようか。……どっちがいいんだろう。リンと話をすればするほど、リンに関われば関わるほど、俺のリンへの気持ちは強くなっていった。
 一緒にいると、リンを抱きしめたり、髪を撫でたりしたい気持ちに駆られる。もちろんやってない。やってはいないけれど……自分の気持ちを抑え続けられるかどうか、段々自信がなくなってきた。大体、気持ちを抑え続ければ、ろくな結果が待っていないというのが姉貴の忠告なわけで。……いらいらする。
 どうする? リンに言うか? リンのことが、好きだって。けど、リンに「わたしたちは友達でしょう? 今のままの関係じゃ駄目なの?」なんて言われてしまったら、それこそ俺はどうしたらいいんだ。
 堂々巡りで先に進めない。落ち着かない気持ちのまま、期末テストが終わった。今回のテストは微妙にしくじった気がする。……ちゃんと勉強はしてたから、極端に下がったってことはないだろうが。
 期末が終わった日、俺は自分の部屋でリンのことを改めて考えた。リンは今頃、どうしているんだろう。自分の部屋で、本でも読んでいるんだろうか。もっと気軽に「遊びに行こう」って、誘うことができたらいいのに。
 ……やっぱり、このままは良くない。物事には区切りってものが必要なんだ。そして人間というものは、やったことよりやらなかったことに対して、悔やむものなんだ。
 ……って、全部死んだ父さんの受け売りだよな。……いいんだよこの際っ!
 リンに、ちゃんと気持ちを告げよう。もし振られたら……振られてから考えるか。それに、こんな宙ぶらりん状態より、一から出直す方がマシだ。
 と、告白するって決めたのはいいけど、明日からテスト休みだよな。だから学校が無い。うーん……じゃ、学校が始まってから……もうすぐ冬休みなんだよなあ。そう言えば、クオに、クリスマスイヴはあいつのところに行くって約束したんだ。リンが来るから。
 ……決めた。クリスマスイヴに、リンに告白しよう。


 次の日、俺はリンへのクリスマスプレゼントを買うために、繁華街に出かけた。クリスマスイヴに告白するのに、手ぶらで行くわけにもいかないだろ。
 俺は可愛いグッズを扱っているファンシーショップに入った。よくそんな店知ってるなあって? 姉貴に教えてもらったんだよ。ユイとつきあってた時、プレゼントに何をあげればいいのかわからないって言ったら、こういう店に連れて行かれて、プレゼント選びのアドバイスもしてくれた。時々うっとうしいが、こういう時は頼りになる。
 普段は若い女の子で溢れ返っていて、男一人で入ると確実に浮く店なんだが、さすがに時期が時期なので、男の客もそれなりに見かける。多分プレゼントを買いに来たんだろう。大体こんなピンクピンクした店、そういう口実でもなきゃ入れないよ。
 ……で、何を買ったらいいんだ? アクセサリーとか? けど、リンってどういうのが好みだっけ。いつも髪にリボンを着けてるから、リボンは好きなんだろうけど……。
 俺は、髪に着けるものを置いてある辺りに行ってみた。……げ、これってこんなに種類あるのか。っていうか、どうやって使うのかすらよくわからん。
 この手の奴はやめよう。妙なものを贈ってリンに呆れられたくはない。……リンの性格だと、呆れるんじゃなくて、ひきつりながら「ありがとう」かも。どっちにせよ俺が嫌だ、その反応は。
 それ以外のアクセサリーだと……姉貴は前、指輪はやめとけって言ってたよな。サイズの問題があるからって。後、ピアスの類は穴が開いてるかどうか確認してからにしろとも。もっとも、うちの高校はピアスは禁止だ。だから、リンの耳に穴は開いてない。
 なんか、色々ありすぎるな……やっぱりよくわからん。リンはどういうのが好きなんだ?
 リンが他に好きなものっていうと……おとぎ話? ガラスの靴とかあげたら喜んでくれるんだろうか……。でも、クリスマスプレゼントにガラスの靴あげるってのも、なんかピンと来ないな。それ以前に、この店にガラスの靴は売ってない。というか、あれは売っているものなんだろうか。
 どうにもプレゼントを決めかねて、俺は店の中をうろうろと歩いた。うーん、プレゼントを選ぶのがこんなに難しいとは。母親の誕生日とかの時は、お金だけ出して品物は姉貴に選んでもらってたからなあ。姉貴には、アマゾンのギフト券で済ませてるし。……いいんだよ、姉貴がそれでいいって言ってるんだから。
 その時、棚に並んでいたあるものが俺の目に止まった。あ、これならいいかも。これにしよう。大きさも手ごろだし、リン、多分こういうの好きだろうし。
 俺は選んだ品を手に取って、レジに向かった。ギフト用かと訊かれたので、はいと答える。
 ……あ、そうだ。
「メッセージカードを添えたいんですが、ありますか?」
「はい。ありますよ。どんなメッセージのを?」
「自分で書きたいんです」
 店の人が白紙のカードとボールペンを出してくれたので、俺はメッセージカードにメッセージを書き込んだ。
「これを添えた状態でラッピングしてください」
「わかりました」
 数分後、俺はクリスマスの包装紙で包まれたプレゼントを受け取って、店を出た。これでもう、後戻りはできない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

アナザー:ロミオとシンデレラ 第四十七話【川より深く、山より高く】

 プレゼントとメッセージカードの中身は、本編でリンが箱を開ける時まで伏せておきます。

閲覧数:1,063

投稿日:2012/02/09 19:34:17

文字数:2,801文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 鏡音溺愛←

    鏡音溺愛←

    ご意見・ご感想

    今回もレン君の恋心にきゅんきゅんでしたー

    このあとリンちゃんとどうなるかが楽しみですー

    2012/02/21 18:37:53

  • 苺ころね

    苺ころね

    ご意見・ご感想

    読みました!
    お姉さん、意味の通った忠告をしてくれてたんですね~

    レンがどんなプレゼントを買ったのか気になります。

    2012/02/12 14:34:25

    • 目白皐月

      目白皐月

       納豆御飯さん、メッセージありがとうございます。

       めーちゃんの行動は、滅茶苦茶のようで案外筋が通ってたりするんですよ。後、彼女はなんだかんだ言って弟のことを良く見ていますし、本人が気がついてない部分(つきあう相手に自分と同レベルの知性を求めるなど)をわかっていたりもします。

       プレゼントは、次の次の回ぐらいで出てきますので、楽しみにしていてください。

      2012/02/12 23:49:14

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