発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』


 最寄の集落は、海を越えて九箇所。
 そのすべてに、船を出して、情報を届ける。
 そこから先は、情報を伝えた集落が、次の最寄の集落へ伝えてくれるだろう。

 海を越え、山を越え。

 パイオニアたちの足跡の網がこの星を覆う頃、自分たちは救われる。

 これが、パイオニアの、生き物としての結束だった。
 海を渡る若者の班が組織され、そして、九人の巫女達は、ひとりずつ、導き手としてそれぞれの船に乗り込んだ。

 サナファーラは、ミゼレィとともに乗り込んだ。
 一番若い彼女らは、同世代の若者たちと、一番遠くの集落を目指す。


「明日の日に、導きを! 」


 陽が沈み、潮が大きく満ちた頃。
 九隻の船は、いっせいに波間に乗り出した。
 夜空に輝く七つ星を道標として。

 水面には、ミゼレィの秘密の場所だった洞窟と、その隣の湾に生育する導きの木から流れ出た葉が、潮の流れを指している。

 しずかに、集落の入り江の出口に向かって流れる木の葉に、九隻の船は導かれるように進んだ。

「あ、見て」

 サナファーラが水面を指した。

「『導きの木』の種だ」

 おお、と、こぎ手の男性陣とミゼレィが、暗い水面に身を乗り出す。

「よく見つけたな」
「こいつは縁起が良い」

 緑色の細長い実が、ゆっくりと湾の外へ出て行くのを、サナファーラは祈るような気持ちで見送った。

「あの実も、海を渡って、どこかにたどりついて、立派な『導きの木』になるんだろうね。
 同じ潮に乗るんだもの、きっとあたしたちもたどり着けるよ」

 サナファーラのつぶやきに、ミゼレィが応えた。

「そうだね。さすが、サナ。ちょっと勇気が沸く気がするわ」

 空には、大きく七つ星が輝き、九隻の船の旅立ちを見守っていた。
 やがて、入り江を出たそれぞれの船は、それぞれの航路を目指し、ゆっくりと離れていく。

「なに祈ってんだよ。巫女でもないくせに、ダメファーラ」
「祈ってなんかいない。神様は、いないもの。あたしはね、願っているの」

 漕ぎ手として同じ船に乗り込んでいたティルは、やはりサナファーラに突っかかる。
 ミゼレィも他の若者もなれた光景だった。

「よりによって、ティルと一緒なんて」

 そうつぶやくサナファーラに、いい加減気づけばいいのにと、ミゼレィは他の皆と肩をすくめる。

「なんだよ。じゃあ、俺のおかげで無事に着いたらお前、一生俺に感謝しろよ」

 また始まった、とみなが思った時、ティルはなんと、思いがけない行動に出た。

「これ。やるよ」

 ティルがサナファーラに差し出したのは、銀色の小刀だった。
 船を造るときも、生活の場面でも、ずっとティルが大事に使っていたものだ。

「こいつは、奇跡の小刀だ。これを持っていれば、こいつがお前を守る」

 へ?

 サナファーラの時が止まった。

 ミゼレィも、ほかの漕ぎ手たちも同じである。

 風が凪いだ。波が静まった。

 星明りだけが、煌々とふたりを、ふたりが乗る船と乗り合わせた者達を照らしていた。

「なんてな。」

 は?

 とたんに全ての音が戻ってきた。

「そんなわけないだろ。こいつはただの小刀だ。へっ、引っかかったな、ダメファーラ」
「はぁっ? 何それ!」

 サナファーラが小刀を返そうとすると、ティルはフンと息を吐く。

「いらん! ファーラが持っとけ。ただの小刀だが、何かの役には立つだろ!」

「はああぁ?」
「ちょっと!何それティル!」
「期待していいのか! 」
「やっべぇ! 楽しくなってきた! 」

 怒号と悲鳴はサナファーラの周囲から巻き起こった。
 サナファーラは周りの反応にきょとんとするばかりである。

「くれるの? ありがとう」

 ミゼレィが、生ぬるい笑みを浮かべて、サナファーラの肩を小突く。

「……サナ。私、あなたのこと、初めてダメファーラと呼びたくなったわ」

 しかし、ティルがねぇ、と漕ぎ手の一人が空を見上げてつぶやく。

「やっと、一歩前進か。やれやれ、嵐でも来そうだな」

 だんだんと離れていく黒い陸地の陰から、真っ赤な月が昇ってきた。
 びゅう、と、風が唸った。



 そして、本当に嵐がやってきた。




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ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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小説 『創世記』 12

発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
 音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
 歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj

……繰り返す憂いと喜び……。

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投稿日:2010/04/10 00:39:18

文字数:1,793文字

カテゴリ:小説

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