私は、海のない内陸の国で育ったから
父の外交に付いて訪れた国で初めて海を見た
あいにくの嵐で海は荒れていたけれど
それでも初めての海をもっと近くで見てみたくて夜の浜辺を歩いていたの
しばらく歩いていると荒れ狂う波の音の合間に
歌が聞こえてきたのよ
かすかな声だったけれど
それでも心を捉える美しい声
引き寄せられるように
風に飛ばされる声を辿った
そして入り組んだ岩場に出たところで、
私は運命の出会いをしたわ
そこにいたのは意識を失い浜辺に横たわる青年と
彼を心配そうにみつめる少女
驚いたことに彼女の下半身は魚だった
私はその光景の衝撃にその場を一歩も動くことができなかった
そうこうしているうちに
彼は意識を取り戻し
彼女は海の中へ姿を消した
私の呪縛も解けた
動けなかった時の衝動がいっきに押し寄せたかのように
私は突き動かされるように青年に駆け寄った
青年がこの国の王子で
父王の名代で出かけていた外交から戻る途中で嵐に会い
船から振り落とされたことを城へ戻る道すがらきいた
彼はいろいろ話しかけてくれたけれど
私は先ほど見た光景に気を取られて
気もそぞろに相槌を打ちながら歩いていたわ
足が魚……伝承に聞く人魚というものかしら
想像上の生き物だと思っていたのに本当にいたのね
……なんて美しい歌声なのかしら
そして気がつけば私は王子の命の恩人として王子の婚約者になっていた
王子の父王は最愛の息子を救ったことをいたく感謝されており
是非二人を結婚させたいとおっしゃられた
私の父は、そもそも今回の外交の目的が、近隣で最も大国であるこの国と繋がりを作ることだったから
一も二もなく快諾した
私の意見は、もうすでに挟む余地はなく
助けたのが私ではないという訴えも、助けたのは人魚だという事実の前には一蹴された
この国の儀礼に則って、式は三ヶ月後に決まった
せめて人魚をもう一度見てみたかったけれど
婚礼の準備だとかで部屋の外に出ることすらできない
毎日悲しい気持ちで青い海を眺めていた
王子は王子で婚礼の準備をしていてずっと合うことはなかった
そんなある日、紹介したい人がいると、王子が部屋を訪ねてきた
紹介されたその人を見た瞬間、私はその場を動くことができなかった
忘れもしないその髪、その、顔……
再会を切望した彼女がそこにいたわ
ただ、もう一度会えたらちゃんと聞いてみたかったその声は、
聞くことはできなかった
……いいえ、似ている気がしたけど、別人よね、きっと。
外見だって夜の闇で遠目に一度みただけの記憶だし……
何より、彼女の足は普通の人間の足だもの
それでも彼女が来てから毎日が楽しくなった。
見るもの全てが新しくすること全てが楽しいと全身で語る彼女がいるだけで
その場はとても明るくなった
彼女が王子に向ける視線にも
時折懐かしそうに海をみていることも
ほんの少し歩いただけでとても足が辛そうにしていることも
全部気づいていたけれど
口にすると彼女がいなくなってしまいそうで
私は気づかないふりをしていた
私が黙っていれば
王子を慕う彼女はずっとそばにいてくれると
彼女のそばにいられると、そう思っていた
だから、とうとう迎えた婚礼の日に
彼女のいつになく思いつめた眼差しも見ないふりをしたの
そして、次の朝彼女はいなくなっていた
城中探しても姿はなく
いつもより神々しい朝日と
泡が弾けるようにきらめく波間、
そしてどこからか聞こえてくる悲しい歌声に
もう二度と彼女に会うことはできないのだとわかった
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