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 夏の半ばから冬の始まりまで、ほぼ3ヶ月程度は敵地にいた計算になる。なので、こうなる事は分かっていたが。

 「君達、ここはUTAU連合ど真ん中の首都ハヤブサハンの、私の自宅前だぞ。私が失脚しようがしなかろうが、査定に響く事は分かっているかな」
 「我々も職務、げふっ」

 秘密警察を指揮している警視正が咳き込む。当たり前だが、知った顔である。

 「ここで立ち話もなんだから、署で話をしよう。私がハヤブサハンにある自宅前までどうやってきたか、別に隠す必要もないからね」

 茜差す早朝の自宅前で秘密警察十数名に囲まれて、重音テトは両手を挙げてはいる。そりゃまあ、3日で帰ってこれるのに3ヶ月も何やってたという、話にはなろう。VIP統合軍最高責任者の蒼音タヤを名指しして敵国のど真ん中エルメルトにVOCALION届けさせておきながら、言い訳は出来ない。

 「ええ、あなたが国境を越えて入国した後、わざわざ迎えを振り切ったので大騒ぎですよ」
 「だろうね。暢気な顔をしていたので、遊んでみたくなったのさ」
 「昨日、蒼音タヤ元帥大将が入国管理局に出向く予定だったとは知っているでしょう」
 「そのまままたエルメルトに送り出されても困るじゃないか。私にも書類仕事はあるんだ」
 「はあ、賢明で。上に逆らえないのと違って、同僚同士では仕事の奪い合いがあるのと同じですな」
 「いらない仕事はしたくないから、どうしてもなるねえ」
 「お陰で良く働くと言われて、仕事も多くなりますがね」

 身体検査をされながら、普通の雑談になっている。

 「結果的には楽なのだけどね。やってる最中は面倒臭くて」

 秘密警察の隊員が前をあけたコートに手を入れ、要領良く所持品を確認していく。

 「ハードディスクレコーダーに二つ折り携帯と、スマートフォンもあります」
 「総本営に持っていかなければならないから、押収は勘弁願いたいな」
 「スマートフォンは、どこで入手したのですか?」
 「クリフトニアに潜入している工作員の私物だ。クリスマスイブに解約するよう指示してある」
 「スマートフォンのIDと番号を控えてお返ししろ。諜報部には問い合わせて構いませんか?」
 「諜報部には話が通ってるから、問い合わせじゃなくて呼びつけていいぞ」
 「あいつらは嫌いだ。あいつらも秘密警察を嫌っているようだが」
 「桃音参謀も言っているだろうけれども、部下同士のつまらない諍いは願いさげだぞ」
 「承知しています」

 この逮捕劇、恐らくは欲音ルコの差し金だろう。あいつは何故か蒼音タヤに気に入られたいらしいが、蒼音は実績以上に他人に入れ込んだりはしない。ルコの奴が上手く立ち回るなら蒼音の好きな店でも教えてやりたいけれども、絶対にやりすぎるので、未だに話を逸らしている。最近では、私が欲音に嫉妬して恋路(?)を妨害しているというストーリーが広まっている。私が登場人物でなければ、かなり良く出来ているとは思う。

 「噂によると私が蒼音タヤを欲音ルコと奪い合っているそうだが」
 「は」

 なんとなく水を向けてみる。警部は私がその噂を知らないと思っていたらしく、顔が少し引きつっている。

 「私が興味が無かったとしても、空気の読めない部下が仕事バカの上司に恋しているとして、果たして応援したいと思うか?」
 「そりゃあ、困りますかね」
 「何故だろうな。興味が無いならちょっと贔屓の店でも教えるくらいな?」
 「いやー、プライベートはプライベートですから」
 「私になら教えるか?」
 「いやー?プライベートは、ご存知でしょうけど、まあねえ?」

 この差。欲音ルコはいい奴だが、恋の話となると蒼音タヤでも選ぶ権利はある。少なくとも、激しく情熱的な恋愛を売り込むのはどうだろうか。下手をすると、蒼音タヤが欲音ルコを冷遇して本能寺状態もありえる。

 「欲音中将には悪いが、そういう事だ。茶番には付きやってやってもいいが」
 「ははは……」

 テトには当然、この話はルコに伝わらないと分かっていた。テトとしては直接言ってやってもいいが、聞かない奴に説くのも骨が折れる。他の誰かが代わってくれるなら、是非やってほしいとすら思う。

 「身体検査異常ありません」
 「おう」
 「おっと、こういう所は検査しなくてもいいのかな」

 そう言って、テトはスカートの真ん中に手を掛ける。身体検査は二人一組だが、片方の女が緊張していたのだ。

 「そいつ、新人なんでからかわんでください」
 「ちょっと緊張していたから、かわいくてさ」
 「慢性の人手不足なのに、産休とられると困りますよ」

 下らない親父トークで、女はかなり動揺している。楽しい。

 「で、拘留は短めにしてもらえるんだろうね」
 「いえ、我々の任務はここまでです。後は警備課に引き継ぎます」
 「そうか。なら、家に入っても構わないな?」
 「はい。屋内は全て異常無しです」
 「ご苦労」

 軽く敬礼をして、家に入る。総本営に行くのに、色々と持ち物はあるし、シャワーも浴びたい。今更遅刻というレベルでもないのだから、3時間ぐらいはゆっくりくつろいでもかまわないだろう。

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機動攻響兵「VOCALOID」 第5章#1

一方その頃。

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投稿日:2013/03/03 11:50:52

文字数:2,165文字

カテゴリ:小説

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