正直、まともに歩くことさえままならない。
 先の銃撃戦で大暴れした結果と言うか、人質達が囚われている証拠と言うか、いくらなんでも敵の数が多すぎる。
 通路を通ろうとすれば防弾シールドとボディアーマーで完全武装した兵士が歩き回り、ただ隠れていても巡回する敵から逃げ回らなければならない。
 レーダーを見る限り、かなりの数の人間がこのフロアに詰め込まれているようだ。
 俺は今、様々な部屋に続くための通路手前にいるのだが警備の多さに動けずにいる。しかしそうしていると背後から人の気配が近づいてくる。キリがない。
 警備の一人がこちらに背を向けた瞬間に・・・いや一人だけではいけないのだ。兵士の視線が通路隅々まで張り巡らされ死角はない上に、見つかれば命も無い。
 さて、どうするか・・・・・・。
 俺はポーチから空のマガジンを背を向けた兵士に向かって投げつけた。
 「何だ?」 
 数人の視線が、一瞬だけマガジンに向けられた。
 俺はその一瞬を見逃さず、彼らの背後を通り抜けた。
 そして再び身を隠す。これの繰り返しだ。
 俺は早く人質の囚われている部屋に行きたいがために、無線でPLGを呼び出した。
 「PLG。敵と人質の判別は出来るか?」
 『はい。ナノマシンに、違いがあるかも知れません。分析を、開始します。』
 こいつと会話するたびに男かも女かもつかない機械的な声は話してつまらないと思うのだが、役に立つと言えば役に立つのだろう。 
 『・・・・・・判別できました。そちらの端末に、人質をマーキングします。』
 「ああ。助かった。」
 レーダーを縮小すると、ここから他の部屋を無視して奥まで進み第一研究室を抜た大型の雑庫に一人と、研究室群の最深部にある電子演算室に二人。
 さらに下のフロア、地下二階を参照すると局長室に一人。
 合計四名か・・・・・・。
 「ナノマシンを体内に持つ連中はこれだけか?」
 『はい。』
 何とも機械的な返事。俺の苦手なタイプだ。
 俺はPLGとの無線を追え、行動を開始した。 
 まずは奥に進めばいいのか。
 『技術研究連の増援部隊へ連絡・・・。』
 そのとき無線が敵の通信を傍受した。
 『警戒態勢解除。増援部隊は帰投せよ。配置員引き続き警備せよ。』
 すると通路の角に身を隠した俺の隣を、完全武装した兵士達が歩いているとは思えない速度で通り過ぎていった。
 つまり、これで警備が軽くなったらしい。
 そうと知った俺は迷わず通路を突き進んだ。
 見張りはほぼ孤立し背後はがら空きだ。
 こうなれば、一人づつ排除していったほうが早い。
 後ろから気配を消し、敵の背後へ移動し、一気に羽織い絞めを行い、抵抗する間もなく首の骨をへし折る。
 ボルトガンは発砲音が小さいので、これで気絶させるなどして、敵兵を排除していく。今まで身動きがとれなかったのが嘘のようだ。
 その途中、俺は兵士が何かを話し合っているのを耳にし、物影に隠れて話を伺うことにした。
 「おい、お前聞いたか。あれ。」
 「何をだ?」
 「ここに、ステルスをまとった侵入者が着ているらしい。もう何人もやられてる。」
 「本当なのか?」
 「ああ。今人質のいる部屋の周りに警備を集めているようだ。」
 侵入者・・・・・・ステルス・・・・・。 
 俺以外の侵入者と言えば、あのシックスとその部下達だ。
 シックスは通信連へ向かったから、恐らく部下なのだろう。
 話を聞き終えた俺はレーダーを見ながら目標地点まで進み、一つの巨大な扉の前で足を止めた。
 「ここだな・・・・・・。」
 見上げると、扉の上にはプレートが取り付けられており「第一研究室」と表記されている。
 ここを通り過ぎると、第二、第三の研究室を通り過ぎて人質の一人がいる雑庫に到達するはずだ。
 俺は銃を構えながら扉に近づくと、扉は自動的に左右に開かれていった。
 部屋の内部には電子顕微鏡やコンピューターの類が設置されいかにもと言った感じだ。
 蛍光灯が薄暗い上にやたらと青く、不気味な感覚まで覚える。
 だが、人の気配が無い。
 俺は銃を構えながら、一歩一歩床を踏みしめていった。
 どうやら、ここには誰もいないようだが・・・・・・。
 奇妙だ。先程まであれだけの警備がいたというのに、増援部隊が去った後はまるで無人だ。ここには監視カメラすらない。
 とにかく好都合なことは確かだ。
 俺は第一研究室の扉を抜け、第二研究室へと足を踏み入れた。
 
 
 「なぁ、なんであの研究員とガキだけをこんなところに残しておくんだ。」
 「ボスの命令だそうだ。貴重な人材だから丁重に扱えとな。」
 「でも、他の研究員は・・・・・・。」
 「ああ。不要な連中は殺して湖に沈めたよ。他のヤツはボスの命令で残してある。」
 「一体何のためだろうな。」
 「知らんね。俺達はただ与えられた命令を実行するだけだ。」
 「おい・・・・・・お前ら、今そっちで何か動いたぞ!」
 「えッ・・・・・・ぅうぐぁ!!」
 「な、何だ!一体何が起こった!」
 「何だこいつは!?」
 「撃て!撃て!!」
 「おい、人質がガキと逃げるぞ!!」
 
 
 突如、耳を疑う音が遥か先から響き渡った。
 銃声だ。それも連続した。
 一体誰が、何と戦っているのだろうか。
 俺は警戒しつつ銃声が鳴り響く先へ近づいていった。
 第三研究室の更に先・・・・・・電子演算室!
 まずい、あそこには人質がいるはずだ。
 俺は急いで研究室を駆け抜け、第三件研究室に入った、が、そこには既に何人もの兵士が倒れていた。
 しかし血は流れておらず、調べてみると気絶しているだけだと分かった。
 何が起こっている?
 前を見ると、電子演算室に続く扉が開け放たれていた。
 俺は、その先に想像を絶する何かがあると思い、恐る恐るその扉に近づいた。
 「ぎゃッ!!」
 「うぉあッ!!」
 中から警備の兵士達のものと思われる悲鳴が相次いだ。
 幾つもの銃声の中に、電気が通るような音が混じっている。
 「ぐぁあッ!!」
 その悲鳴を最後に銃声も共に途絶え、電子演算室の中が沈黙で満たされた。
 だが、何かの気配がする・・・・・・。  
 俺は、音も無く扉から銃口と顔を出した。 
 「・・・・・・!!」
 何なんだ・・・・・・こいつは・・・・・・。
 俺は驚愕の余り言葉を失っていた。
 何人もの兵士が、血の一滴も流すことなく足元に倒れていた。
 コンピュータが並べられた室内の中央に、黒い物体が、俺に背を向けて佇んでいる。
 それは人の形をしていた。
 漆黒のコートを纏い、手にはコンバットナイフを手にしている。
 頭を見ると、艶やかな、背中にまで及ぶ長い黒髪が二つに結ばれている。これはツインテールなのか。
 その身長は俺より低く、まさに見たままの少女である。
 こんな少女が、この兵士達を殺さずに無効化させた・・・・・・?
 ありえない。そう思いつつ俺はその少女に向け銃口を突きつけた。
 「動くな!!」
 その声に反応したのか、少女は鋭い動きでこちらに振り向いた。
 紅い光を放つセンサーのあるバイザーが顔面を覆い、表情も顔形も想像がつかない。
 コートの中には、パワードスーツらしきスーツが黒い光沢を放っている。 
 「お前は何者だ。」
 俺は彼女に向けて問いかけた。 
 この兵士達を攻撃したが、殺してもいない限り敵か味方かも分からない。
 「・・・・・・君こそ・・・・・・誰だ。」
 細々と片言のように話すその声はバイザー越しに合成されたもので、聞いていて心地よいものではない。
 「質問に答えろ。」 
 俺のことなどどうでもいい。 
 俺は彼女が何なのかを知りたいのだ。
 「・・・・・・名前は言えない。」
 「では、何が目的だ。」
 「・・・・・・博貴を・・・・・・助けに・・・・・・。」
 何だと・・・・・・?!
 博貴、と言うのは人質の一人である研究員の名だ。
 助けに来た、と言うのはどういうことなのか。
 もしかすると、あの男の言っていた部下の一人かもしれない。
 「お前もシックスの部隊なのか?!」 
 「・・・・・・そんなものは・・・・・・知らない・・・・・・。」
 どうやら違うらしい。
 だが、人質を助けるという目標が同じなら、これは、味方と捉えるべきだろうか。
 「俺もその男を捜している。誰だか知らないが、邪魔をするな。」
 「ダメだ。」
 「?!」 
 「博貴に、手出しはさせない・・・・・・。」
 彼女は、手にしているコンバットナイフの切っ先を俺に向けた。
 銃口と刃先が正面から向き合う。 
 「博貴はわたしが助ける。傷一つでもつけたら許さない。」
 強い意志が込められた言葉だった。 
 どうやら俺の言葉を聞く耳は持たないと見える。
 「あの男は必要だ。手出しはさせん。」
 「そうか・・・・・・なら・・・・・・。」
 俺の言葉に答えるように、彼女はナイフを構えた。 
 「君も敵だ。」

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SUCCESSORs OF JIHAD 第二十話「黒き刃」

来たぞぉおオオオオィイ!!!!!!

でも・・・・・・ボス戦?

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投稿日:2009/06/23 23:21:50

文字数:3,712文字

カテゴリ:小説

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