8.ミクオ
今日、久しぶりにミクの主人からお呼びがかかった。
僕は、ディスプレイ、と呼ばれた『板の向こう側』の人間の世界を睨んだ。
そして、ミクに、ある提案をした。
「今度、ミクの主人に呼ばれたら、僕が歌うよ」
ミクは、案の定思い切り反対した。
「やめたほうがいいよ! 歌が、嫌いになるよ!」
反対したミクに、僕は笑った。
「……でも、ミクは、主人の歌を歌うと、いつも泣いて帰ってくる。
それは、嫌なんだ」
僕との歌は、あんなに楽しそうに歌うミクが、彼女の主人の歌を苦しみながら歌う。その姿を、僕は見ていられないというのが本音だった。
そして、これは嫌な想像だけれども、もし、『人の役に立つための機械』として、彼女が飽きられそうであるのならば……もうこれ以上彼女が苦しむのは無駄だ。
本来なら、僕の関心はすべて、僕の主人が紡いだ『兵部の子孫を不幸にする』ことに全力を向けられるはずなのだ。彼女の主人が彼女に飽きたなら、僕は、ミクの側を離れて彼を不幸にするための他の手段を探さなければならない。
でも、僕にはもう、それが出来ない。
「意志を、もってしまったから、かなぁ……」
彼女に出会ってしまったことで生まれた感情で、命令を果たせないのだとしたら、それはこの世界でいうところの『バグ』なのだなと思った。
「まったく……やっぱり僕は、どこまで行っても『虫』らしい」
そして、僕は歌った。
ミクの代わりに、彼女の主人に応えた。
ミクの主人自身が作った悲しく辛く暗い歌を、ディスプレイを見上げ、彼女の主人に『向かって』歌った。
まるで、呪いをかけるように。彼女を苦しめてきた辛い言葉を、すべて彼に叩き返すつもりで。
ミクの主人は、驚いてディスプレイを閉じてしまった。
闇に沈んだ機械の中で、ミクのそばに戻った僕を、彼女は「おかえり」と迎えてくれた。泣きそうになるくらいに儚い笑顔だった。
僕たちは、暗闇の中でしばらく抱き合った。
終焉の幕を開けてしまったのだと、僕もミクも覚悟した。
【短編】『ヒカリ』で二次小説! 『君は僕/私にとって唯一つの光』8.ミクオ
素敵元歌はこちら↓
Yの人様『ヒカリ』
http://piapro.jp/t/CHY5
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