―――きちんと歌えてるかな?
ここのレンとリンは、相当歌いこんでるんだ。
綺麗なメロディ・・・
俺はまだ、マスターに何の調整もしてもらってないから・・・
ただ平坦な言葉にしか、聴こえないんじゃないかな?
でも・・・
マスターが、微笑んでる。
それが嬉しくて、どんな声でも頑張って歌っていこう。
LAST SONG FAR SKY
~空の彼方への最後の唄~
ACT5
唄が終わり、メロディも止まる。
カイトは、少し息切れをしながら一息つく。
「へぇ!凄いじゃない!無調整でここまで歌えるの!」
鈴華は拍手をしながら、歓声を上げる。
リンとレンも、自分のパートナー以外と歌えて嬉しそうに笑う。
そんな二人に笑顔を向けるカイト。
「えっと・・・、じゃぁこのままでいいって事も・・・ない?」
空がぼそりと呟くようにいった。
その言葉に鈴華は、首を横に振って言った。
「勿論無調整で歌わせてる人も要るけど、大体はちゃんとボーカロイドと一緒に調整しあうけど?」
その言葉に空は眉をしかめる。
それを見たカイトは、胸の奥で鈍く何かがなった音がした。
―――お前・・・いらねぇ・・・
ノイズの入った声が聴こえる。
どうしようもない、過去の声。
カイトはすぐにその声を、自分の奥深くに仕舞いこみ息を掃いた真似事をする。
空が眉をしかめたのを見て、鈴華も眉をひそめる。
「・・・どうしたの?まさか、調整がイヤ?」
「ううん・・・。違う・・・、ただ・・・操作方法分からないし、パソコンあまり触らないほうだから・・・」
空は俯き、小さく言った。
「カイトが壊れちゃったら・・・やだ・・・な、って・・・」
その言葉にカイトは驚き、空を見つめる。
そして、ホッと息をついた。
表情が解ける。
「・・・マスター。一緒にやっていきましょう?少しずつでいいですから・・・」
ソファに座っている空に目線を合わせるため、ゆっくり膝をつくカイト。
そんなカイトに困ったように微笑み返す空。
「大丈夫よ。変な所弄ったって、鼻声になったり、女声になったり、オカマになったりするだけだし元に戻せるから。」
ニコリと音が聞こえてきそうなほどの笑顔で鈴華が言った。
「・・・マスター・・・それ、逆効果じゃない?」
レンがぼそりと呟いたが、遅すぎたようで空は固まりカイトは苦笑していた。
それからは空が、鈴華から色々ボーカロイドの調整の仕方を教わっている。
カイトはその間、自分の妹と弟にあたる様なリンとレンに話を聴いていた。
「リンとレンは、どれくらい歌を歌ってきたの?」
「・・・う~ん?30曲くらい?」
人差し指を口にあて、リンが応える。
その隣に座っているレンが、続いて応えた。
「まぁ、練習曲としてオリジナル以外も歌ってるから・・・」
レンが指折り数えて「全部入れると50曲?」と、首を傾げながら言った。
因みに鈴華の下に来て、1年とちょっとらしい。
羨望交じりの視線で、二人を見るカイト。
「そうなんだ。あ、後はマスターが鈴華さんをネネって呼んでたけど・・・?」
「あぁ、うちのマスター作家やってて、そのペンネームがNENEなんだよ。」
「空さんはいつの間にか、本名よりそっちのほうが言いやすくなっちゃったんだって。」
代わる代わる質問に答えてくれるレンとリン。
その光景が微笑ましくて表情が綻ぶカイト。
「なんだよ。・・・あっ!もしかして!」
ふわりと笑ったカイトを見て、レンがおもむろに立ち上がって言った。
「リンを好きになったな!このロリコン!!」
言うが早いかレンは自分の後ろにリンを隠す。
一方カイトはレンの言葉に固まっていた。
「・・・何の誤解?・・・そもそも俺は特定の誰かを好きになった事ないよ・・・」
だから、安心してよ。と、右手で顔を覆いつつカイトはレンに告げた。
レンは信じられないと言ったような顔で言った。
「・・・本当に?」
「うん。俺はレンやリンより先に作られたけど、インストールされたのが遅かったから・・・」
しかも先代のマスターには、捨てられている。
勿論今のマスターは、好きだけど・・・
多分レンの言ってる『好き』とは違う感情。
―――紅い貴女が、全機能停めてまで抱えたものとは・・・
全然違うもの。
だから、たまに感じる感情回路の音は・・・
気のせいだ・・・
少しのエラーが出ているだけなんだ。
『ボーカロイドには理解が必要でも、感情そのものは不必要なもの。』
カイトは胸の中にその言葉をロックし、ずっと覚えていられるようにした。
何かの間違えで、人を好きになったら大変だから。
今のマスターにもきっと迷惑かけてしまうに違いない・・・と。
カイトは優しく微笑んでレンに語り掛けた。
「だから、心配しなくてもレンのリンを取ったりしないから安心して?」
そういった途端、首筋まで真っ赤に染めていくレン。
そんな反応を見て可愛いなぁ・・・と、温かい気持ちになりながら見ていた。
そんな二人を見ながら、紅い彼女の残像が話しかける。
―――違うよ。カイト・・・、自分でどうにか出来るなら・・・・・・私は
消エテナカッタ・・・
カイトは両手を広げ見つめる。
不安ばかりが襲う。
感情回路に振り回されるなんて、初めてインストールしてもらった時は
思っても見なかったのに・・・
両手を広げ黙り込むカイトにレンは静かに見つめ、何か言おうとするが空と鈴華がパソコンルームから出てきた。
「お待たせ、カイト!帰ろっか!」
「ったく、キーボードもまともに打ち込めないし・・・疲れたぁ・・・じゃぁ、頑張ってカイト。」
鈴華が笑顔で言うと、カイトも優しく笑って律儀に「分かりました」と返した。
その笑顔を見ながら誰にも気付かれないように、レンが小さな声で呟いた。
「・・・なんで泣いてるんだ?」
実際カイトは泣いてはいなかったが、レンはすっきりせず眉を寄せカイトを見続けた。
それから空とカイトは自宅に戻り、早速とパソコンを起動する空。
消費電力モードになっていたパソコンは、電源ボタンを押した途端低い音を立てて起動し始める。
丁度その時だった。
ブーブーブー!!!!
「えっ!?何、何!?」
空は驚きパソコンに向き合った。
カイトは無表情で空の隣に立った。
するとデスクトップの一番前に、表示される日本語。
『VOCALOID>>>KAITO>>>エラーが発生しました。
直ちにこのエラーを、削除する事をお勧めします。
このままでも起動はしますが、フリーズが多発いたします。
エラーを削除いたしますか?
はい いいえ 』
「え?!なにこれ!?カイト、これ削除したほうがいいの?」
空が良くわからないと、パソコン画面を見ながら言った。
カイトは表情を変えることなく、空の手の上からマウスを操り『はい』をクリックした。
「・・・マスター・・・」
エラーを消す為に、パソコンが動き出す。
するとカイトの姿が薄くなっていく。
「カイト?」
「ちょっとだけ失礼します。すぐ、終わりますから・・・」
そう告げると、光の粒子になってカイトは消えた。
空はしばらく、カイトがいた所を見つめていた。
――――エラーを抑えれば・・・消してしまえば・・・
俺は何も気にすることなく、歌に集中できる。
早く、早く・・・
歌いたい・・・
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