「今日、何の日?」
突然、ミクが言い出した。




いきなり何を言い出すんだこのボーカロイドは。と思った。今日は4月2日。桜舞い散る出会いと別れの季節である。
(このボーカロイドがこんな笑顔で言い出す時は大抵ろくなことはない。)

「ただの休日だと思うが。学生はね。
にしてもミク、君は何が言いたいのかな?」
俺は頬をぴくぴくと引きつらせながら聞いた。
(ニコ動で見るミクは可愛いのに。何で俺だけ。。。)

「別に?ただ、そろそろ私もきょうだいほしいなーって。」
にこり、と満面の笑み(俺には悪魔が微笑んでいるようにしか見えない)を浮かべる。
(この笑顔のときはホントにろくなことが起きないんだって!)

「なんで俺にとってはただの平日にそんなこと言ってくんだよ。
ってかミクさん、ほんとにそれだけですか?」
このボーカロイドからの黒い空気に警戒しつつ、俺はそれとなく探る。

「なんとなくだよー。
ほんとだよぉ。私がいつ嘘をついたっていうのー?大体、きょうだいが欲しいって言っただけじゃなーい。」
いつもだ。と喉まで出掛かったが俺は何とかそれを嚥下した。
(なんたってこいつが微笑んだときは良いことが起きた試しがない。だいたい、”きょうだい”って、どのきょうだいを指してるんだ?)

「きょうだいって、鏡音姉弟か。」
(ホントかなー?いまいち信じられん。)
疑問をそっちのけにし、俺は真っ先に思い浮かんだ姉弟を上げた。しかし、お姫様はなおも食い下がってくる。どうやらこの選択肢は間違えたらしい。

「それもあるけど、私はルカと会ってみたいな。」
急に真面目な顔になり、ミクは要望を言う。

「なあ、ミク。疑問をひとつ口に出してもいいかな?」

「うん、いいよ。」

「今日、別に何もないだろ?なんで、いきなりきょうだいが欲しいなんて言いだしたんだ?」

「さあ、なんでだと思う?」
ミクは俺の質問に答えず、ただ笑う。他に思いつくといえば・・・?と思案したところで、家のチャイムが鳴った。

「はいはーい。」
宅急便が運んできたのは、A5くらいの、ご丁寧にも包装された包みだった。

「空けていい?」
好奇心に負けたのだろうか、ミク嬢が俺に聞く。お嬢がそうしたいならそうすれば良いじゃないですか。と俺は答えた。

「あー、リンちゃんとレン君だー!」
びりびりという音がし、それがゴミ箱に放られる。
(ゴミはゴミ箱へ。いくらなめられてるマスターとはいえ、この程度のことは刷り込んである。)

「なんだって?」
このソフトウェアが安くないことを知ってる俺は驚いた。
(当然だ。ミクが幾らしたと思ってる。一円も惜しいこのご時勢、万単位なんてそうそう使えるかってんだ。)

「書いてあるよー。名前はねぇ…」
差出人を見ると、どうやら俺の姉のようだ。メモがついている。なになに…、

「今日、誕生日でしょ。せっかくだし、鏡音姉弟を押し付けてやったのよ。ばーいお姉さん。
よかったね、マスター。誕生日おめでとう。」
してやったり顔のミクは知っていたらしい。まさか、メールで姉貴と連絡とってやがったのか…。だからか、今日は何の日なんて言い出したのは。きょうだいなんて急に言い出したのは。姉貴も姉貴だ、何で俺が鏡音姉弟に興味があったことを知ってるんだ…、まさか、情報流出の原因はこいつか!

「…ああ、今日俺の誕生日か。すっかり忘れてた。」
(いつからだろう、自分の誕生日に興味を喪ったのは。)

「やっぱり。マスターのお姉さんの言ったとおりだった。」
俺の発言に、初音さん家のミクさんは不機嫌そうにつぶやく。
(そうか、これは姉貴がミクにネタ提供しやがったんだな。)

「ミク。これは、姉上の仕業なのかい?」

「ん、仕業って?」
特に何もしてないじゃない。といわんばかりの表情を見せてくる。
(おい、お前も姉貴と共犯だろう?)

「とぼけるな。俺に今日が誕生日だって知らせたいのなら、他に方法がいくらでもあるじゃねえか。」

「マスターこわーい。
だって、この方がインパクトあるかなって…。マスターのお姉さんが。」
ちょっとおどけた風に一歩引く。やっぱりネタ振りは姉貴か。

「はぁ。まあいいけどな。
ミク…、悪いけどさ、誕生日を祝ってくれるのはうれしいけど、これは高価じゃね?って姉貴に伝えてくれるか?」
はあ。とため息を吐き、俺はミクに姉貴へ用件を告げる。

「いいよ。」
と答えてくれた。鏡音姉弟は後でインストールしておこう。

「ほんと、俺の誕生日を祝ってくれるならもっと素直に祝ってくれないかな?」
苦笑し、俺はミクに訴える。しかし、この願いは届かないことを知っている。
(なんてったって、この願いは、ミクが我が家にやってきてからずっとしてるからな!)(ミクはいつもこんなちっさい悪戯ばっかしてくる。まあ、今回はサプライズだけど。これがなければほんと可愛いんだけどな。)


このあと、鏡音姉弟をダウンロードした俺は驚愕した。
(可愛いのって見た目だけ!?ってかなんで俺だけ!!)(…だって、ミクよりもたちが悪いぞこの二人!)(まるでミクが増えたみたいだ!)(ツインズだからか!?)(そんな、ああ…、絶望した。)(姉貴、ボーカロイドは選んでくれよ。)

(でも、まあ、誕生日、ありがとな。)(あとで姉貴にお礼の電話でもするか。)( 姉貴の誕生日はいつだったかな?)(そのときは盛大に祝ってやる。)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

今日は何の日? 【日常、ほのぼの?】

ちょっと悪戯が好きなミクです。双子も出てきますが名前だけ。。。

マスターと、イベントごとが好きな初音ミクさんとの日常の1ページ。みたいなお話。

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投稿日:2009/04/02 04:05:11

文字数:2,249文字

カテゴリ:小説

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