リクは嫌がるマスターを無理矢理にでも外へと連れ出した。部屋に閉じこもって泣いているばかりでは何も始まらない。
漢を見せるリクにボーカロイド達も続いた。
「で、俺は何をすれば良いんだ?」
「相変わらずのKYっぷり…これだから脳筋は…」
こんな時でも空気読まない隊長。この隊長の場合わざとやっている可能性があるから質が悪い。泣けるシーンで泣かさない、深刻な場面でちゃかすなど、まったく卑怯な男である。
「マスターが帰ってくる前に片付けましょう」
ナイトの号令とともにボーカロイド達は動き出した。
外出先のリクとマスター―――
無言のまま街を歩く男女。機械を作り、生み出した人間達。
マスターは無言のままリクについて行った。リクも無言のままマスターを連れ歩く。まるでケンカした後のようにお互い顔も合わせない。
リクは口元が寂しいのかポケットからガムを一枚取り出して口に咥えた。マスターの嫌いなキシリトール、これでは余計に顔を合わせられない。マスターは極端にキシリトール臭を嫌うのだ。
「ついたぞ」
良いか悪いか別にして、リクは人の目を見て話す癖がある。当然キシリトール臭がマスターに降り注いでマスターは嫌悪感を表情で訴えた。
リクが連れてきたのはカジュアルな服屋だった。男性から女性まで、アクセサリーや身近な小物類も豊富に取り揃えるかなり大きな店だ。
「こんな時に服を買うの?」
マスターはやっと口を利いた。アカイトがあんな風になってから初めての泣き言以外の台詞である。
「こんな時だからだろ。まぁ、買うのは服じゃないけどな…」
リクはマスターを連れて小物売り場に向かった。
迷いのないリク。買う物は決まっているらしい。小物売り場を物色していると見覚えのある小物を見つけた。
「カイコのチョーカー…」
そう、ここは以前アカイトがカイコを連れて買い物をした店だ。
回想―――
アカイトがカイコに贈ったチョーカー。自分も欲しいと望んだプレゼント。アカイトがカイコにだけ買ったプレゼント。カイコに嫉妬して酷い事をした日。
マスターは自分の欲望のまま、カイコに命じた。「そのチョーカーをよこせ」と。
別にチョーカーなんていらなかった、ただマスターは愛を望んだだけだった。誰も気付きはしない、歪んだ心にこの時愛を注いだならこんな事にはならなかったかもしれない。時が経ちすぎて今更もう遅すぎた。
タイトに以前聞いていた、カイコが新しい体を嫌がっていた事を。動きにくくて使いづらいと不平不満を漏らしていたと。
マスターはあえて意地悪く言った。カイコに「体を取り戻したいなら…」と。
最初にチョーカーを差し出す事を躊躇ったカイコだ、忠誠心なんてもう感じない。そもそも、アカイトの心を奪うような裏切り者だ、忠誠心なんて欠片もないだろう。マスターのねじ曲がった解釈は悪い方にしか進まなかった。
まるでタイミングを見計らったように現れるタイト。タイトはマスターに言う。
「カイコは来ますよ。マスターに頂いた体より、元の体を望んでいましたから。僕には考えられませんけどね。マスターから頂いた体は僕にとって最高の宝物…マスターが望むなら僕はどんな事だってします。僕はあなたの忠実なボーカロイドですから…」
「タイト…」
歪みきった心に歪んだ感情は綺麗に収まった。タイトを抱きしめるとそれだけで安心できた。それが例え気休めだとしても、堕ちた心に邪な感情はむしろ心地よかった。
タイトの言う通りカイコは本当にきてしまった。少しくらい否定したい所だったがどこまでも期待を裏切るボーカロイド。人間的過ぎるこの裏切り者を一思いにいっそ…
受け取ったチョーカーに最早意味はない。カイコへのプレゼントだ、自分への想いなど微塵も感じないただのアクセサリー。こんな物が欲しかったわけじゃない。握りつぶしそうになるチョーカーをマスターはぐっとしまい込んだ。
手術と偽ってスクラップにしてやろうかとも考えたがさすがにそれは気が引けた。でも、裏切り者なんて見たくもない。どこか余所へやってしまおうか、とも考えたけれど…
結局何もせず、何も起こらぬまま終わった。本当に気休めばかり、自己中の極み。あれだけ心の中で『裏切り者』とののしった相手に、何故理解を求めるのだろう?
最後にもう一度だけ期待する事にした。思いの丈を全て、今までずっと書きためた吹き溜めのコピーを見せつけるように…
現実―――
白昼夢のような時間。
少しぼーっとしているように見えたらしく、リクが心配そうにマスターの肩を揺すっていた。
「おい、大丈夫か?」
「え?…買い物は終わったの?」
何事も無く返せば、リクは少し安心した様子で頷いた。
店を出るとリクはそっとマスターの首に手を回した。
「え…?!」
「ごめんな…」
マスターの首に何かが巻き付いた。
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Axisym
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