浮いてるし、憑いてる。
俺が。この女に。今からだ。なのにこの女は全く動じない。何故だ。自分のナナメ上に浮いてる俺を、にこにこと見上げている。
当たり前だが俺は人間じゃない。名はクピド。この世界の人間にもよく通っている名で言うと、恋のキューピッド。守護すると決めた人間の恋を成就させる性質がある。仕事でも趣味でも無く、そう言う存在なのだ。これでも人間から見たら神の一人。
さっき神の会議から帰る途中で、たまたまこの女を見かけた。ちょっと目立つ位心の綺麗な、普通の女だった。神の好む凡庸さ。この世では光る魂を持つ人間は、なかなか大変な人生になる。清らかな者程生き辛いのがこの世だ。浮世の波長が汚すぎて、こういった者はなかなか馴染めない。
俺はその女に近づいた。
「はっはっは。人間、この俺が守護してやろう。好きな金持ちの男でも居るか。お前の様な地味な女は、金持ちの男の嫁にでもなって、旦那に守って貰うのがいいだろう。知人に居ないのなら、いい男と出会わせてやろう。貴様の恋、この俺が叶えてやるぞ!」
別に女本人に届いていないのは分かっていたが、そう高らかに宣言して守る事にした。
こう言った綺麗な波長の女はどうしても浮世では浮くので、1人で生きさせるより余裕のある男に娶られて、男に守られながら生きるのが手っ取り早く幸せになれる。
神にしては世間ズレした回答だが、これまで様々な恋愛を見て、この世ではそれが一番現実的で地に足のついた幸せへの選択だと結論付けた。
恋愛のプロとしての意見だ。
しかし地味な女だ。天界に居ても不思議では無い程に魂は輝くばかりだが、黒ふちの眼鏡をはめて、長い髪を一つに結んで、スーパーの袋を持って歩いていた。
成人したてに見える若い女だ。女が見上げて目が合った。目が合った?気の所為か。周波数が違うので、人間に神の姿は見えない。
「…恋を叶えてくれるんですか?」
話掛けられた。何故だ。そうか。こいつの魂も周波数が高いから、神が見えるらしい。今迄こんな事は無かったので、迂闊だった。
「では、貴方との恋を叶えて下さい。一目惚れです。」
告白された。恋の無い神には初めての事だ。何と肝の据わった女だ。突然現われた飛んでる人外に躊躇無く告白するとは。俺が悪い存在だったらどうするんだ。違うが。女はにっこりと笑った。
「今、貴方を見てから、私、うきうきして、ふわふわして、飛んでいってしまいそうなんです。そんな人に出会えるなんて、何てラッキーなんでしょう。今日の私、ツイてますね。」
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