「……こっちもダメみたいだね」
ミクとリンは外来の方を調べていた。
「こっちじゃないのかな……」
レンは周囲をきょろきょろしながら歩くが、手掛かりが見つからない。
「……ミク姉、もう帰ろうよ。もうおなかぺこぺこ」
確かに時計は午後1時を回り、ミクも少しおなかがすいてきた。だからと言って、苦しんでいるルカの事を忘れて食事をするような気分にはなれなかった。
「ミク姉、この辺にスイーツの食べ放題のお店があるんだよ。ケーキにパフェに、それから……」
「ミク姉、そろそろ、メイコ達と合流した方がいいんじゃないの?」
「うーん……」
甘い食べ物の名前を列挙するリンを無視して、ミクとレンが話し合いを始める。
「ちょっと! せっかく英気を養うためにスイーツ食べようって提案してるのに無視するつもり!?」
「リン、今はそういう雰囲気じゃないだろ! ルカ姉が苦しんでるんだぞ!」
「そ、それはそうだけど、どんな時でもおなかは減るの!!」
その時だった。レンが看護師とぶつかった。
「ごめんなさい。だい……」
そこまで言いかけて、レンの口が止まった。目の前にいたのは、確かに身体は人間そのものであったが、頭部がザツオンそのものであった。
「…………見たな……生かしてはおけん」
突然、病室からザツオンが出現する。だが、それに驚いた人々も慌てて走りだした。
「……死ね」
ザツオンがいきなり、銃を発砲する。
「危ない! あっ」
レンは近くにいた少女をかばって、銃撃を受けた。
「レン!!」
ザツオンに銃口を向けたリンは、その視界に腰を抜かして倒れる老人の姿が入った。一瞬、引き金を引くのをためらった。その瞬間、ザツオンに後ろからナイフで刺された。
「リン!! コード・チェンジ」
ミクはすぐにカナデグリーンに変身し、リンの後ろにいたザツオンをかかと落としで昏倒させた。
「リン、レン、大丈夫!」
「ミク姉……」
レンは腕から血を流し、リンは背中を刺され、痛みをこらえて立っていた。幸い、2人とも傷は深くなかったが、戦う事は難しそうだった。
「……リンとレンはみんなを避難させて。ここは、私が引き受けるわ」
「わかったよ。ミク姉。でも……」
「この体じゃ戦えないでしょ! 早く!」
リンとレンは頷くと、すぐに避難を始めた。
「メイコ、早く気付いて」
ルカはすぐに緊急信号を出した。
「ミク……何があったの?」
すぐに信号に気がついたメイコとカイトはすぐに信号が出ている方に走りだした。しかし、そこには、避難しようとした人々の波に阻まれ、先に進む事が出来ない。
「ちょっと、みんな、落ち着いて!」
「メイコ、遠回りしよう。そっちの方が早い」
カイトは病院内の地図を確認すると、メイコの手を引っ張り、遠回りのルートを走る。
「くそ、やっぱりザツオンか!」
大回りして外来病棟にたどり着くと、そこにはザツオンに囲まれ、苦戦を強いられるミクの姿があった。
「コードチェンジ!!」
メイコとカイトは同時に変身し、ミクに加勢を始めた。
「メイコ、カイト!」
「リンとレンはどうしたんだ!」
「病院の人たちを避難させてる」
「とりあえず、慎重に行くわよ。まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない」
「わかった」
ミクとメイコは慎重にザツオンとの戦いを進める。その時、カイトの持っていた発信機が反応した。
「メイコ、このあたりから反応が!」
カイトが指示を出そうとした矢先、ザツオンが襲いかかってきた。
「これでも!」
カイトは矢を直接ザツオンの頭部に突き刺した。その瞬間、ザツオンが爆発した。その衝撃でカイトは廊下の端に吹き飛ばされた。
「あ、あれは!!」
そこには、少女が立っていた。しかし、肢体はマッド・メモリーそのものであった。
「ザツオンみたいに変装してたのね!」
ミクはすぐさまマッド・メモリーに向き直り、頭部に蹴りを加えた。変装が無駄だと判断したのか、狂音獣はその本性を現した。そして、近づこうとするミクに対して、腕からの銃で応戦する。
「どさくさにまぎれて逃げようなって、そうはいかないわ」
メイコとミクが逃げる狂音獣を追いかける。しかし、そこにシスター・シャドウが現れた。
「マッド・メモリーには指一本触れさせん!」
鞭を手に2人に立ちはだかった。
「あんたに用はないのよ!!」
「ならば、お前もルカと同じようにしてやる!」
突然、マッド・メモリーの体から映像が映し出された。
「お前の一番のトラウマを見せてやる!」
「え……」
ミクの顔が青ざめる。シスター・シャドウは不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、何が出るかな……」
「メモリーヲコウカイシマス」
「なんで、何で入らないのよ!!」
マッド・メモリーが映し出したのは、ルカからもらったスカートを履こうとしてウエストが入らずに四苦八苦しているミクの姿だった。
「…………」
メイコはどう言っていいいのか分からず、固まってしまった。その後ろでカイトは必死に笑いをこらえていた。
「…………こんなどうでもいい事が最大のトラウマ。所詮、ただのガキだ」
シスター・シャドウのつぶやきに、ミクは完全に我を失った。
「……生かしてはおけない。お前だけは!!」
顔を真っ赤にしたミクは一直線にマッド・メモリーに向かって走り出した。メイコも目を見張るくらいのスピードで狂音獣に対して猛烈なラッシュを食らわせていく。
「普段からこれくらいやればいいのに」
完全に高見の見物を決め込んだメイコは、少し離れた場所からミクと狂音獣の戦いを眺めていた。シスター・シャドウの鞭も弾き飛ばし、ミクの拳はさらにスピードを増す。
「行くわよ! オクターブ・アタック、ハイスピートリミックス!!」
スピードと威力の増したミクの拳が次々と狂音獣をとらえていく。そして、最後にミクは思いっきり狂音獣の腹に拳をたたきこんだ。
「……メモリーガハソンシマシタ」
間の抜けた声が響くと、マッド・メモリーは仰向けに倒れ、大爆発を起こして四散した。
「くそっ! 覚えてろ!」
捨て台詞を吐き、シスター・シャドウが姿を消した。その隣で気を失っている少女がいた。
「とにかく、この子を助けましょ」
カイトが少女の体を抱き起した時、あの黒いロボットが姿を見せた。
「メイコ、逃げろ! あの巨大化させるロボットだ!」
「何ですって!?」
まだ病院の中には逃げ遅れた人もいるはずである。最悪の事態が頭をよぎった。
「ミク! 今すぐあのロボットを止めて!」
「わかってる。これでも……キャアアアアア」
ミクの拳がそのロボットに当たる事はなかった。突然、正面から電撃を受け、立てなくなってしまった。
「ジャマヲスルナ。ダイオンリョウサイセイ」
ロボットの瞳から光線が当てられると、マッド・メモリーは病院を破壊しながら巨大化していった。
「みんな、大丈夫?」
体に倒れかかったコンクリートの柱を破壊し、メイコはがれきの中から姿を現した。
「こっちも大丈夫だ。何とか助かった……」
カイトは建物が崩壊する前に窓ガラスを突き破って外に脱出していた。救出した少女もカイトの隣にいた。
「ミク! 聞こえたら応答して!」
「…………ここ」
ミクの弱々しい声が、がれきの隙間から聞こえた。運よく、倒れかかった柱と壁の間の空間にいたために助かったものの、全身にダメージを負っていた。救出されたミクは、破壊されたヘルメットの残骸を投げ捨てた。
「油断したわ……」
巨大化した狂音獣の姿を見て、リンとレンも駆け付けた。
「ミク姉……」
「レン、心配しないで。少し、油断して痛い目にあっただけだから。それよりもけがは大丈夫なの?」
「うん。避難してた看護士さんに治療してもらったんだ」
「だけど、あれはどうするんだ?」
カイトは市街地へ向かうマッド・メモリーを指差した。
「シンフォニー6になるためには、6人が心を合わせないといけない。だけど、ルカが……」
「みんな聞こえますか?」
ルカの声が、5人の耳に響いた。
「今から、カナデモービルを出します。私も戦います。だから……」
「わかったわ。ルカ」
それから少しして、ルカの乗るハープマリーナを筆頭にカナデモービルが姿を見せた。
「みんな、心を一つに!」
「一つに!!」
6人の声を合図にカナデモービルが合体を始める。メイコの乗るレッド・シンガーが頭部を形成し、合体が完了した。
「完成! 共鳴合体、シンフォニー6!!」
マッド・メモリーと市街地で対峙する。
「さあ、早くけりをつけるわよ」
メイコの意思を読み取ったのか、ロボットは狂音獣につかみかかり、攻撃を加える。
「これでも!」
レンは左腕に仕込んであるドリルで狂音獣の腹を攻撃する。攻撃にたまりかねたのか、狂音獣はそのまま倒れた。
「よし。そろそろ……」
その時、狂音獣から何かの光が照らされ、いきなり飛行機の爆音が響き始めた。その音に反応したのはルカだった。
「いや……やめて!」
「ルカ!」
今度は炎に包まれる街が映し出された。
「私は……」
「ルカ! しっかりしなさい!!」
「私の歌で、みんなが、みんなが死んでしまう!!」
その瞬間、狂音獣のパンチをまともに受け、そのまま倒れ込んだ。
「私の歌でみんな不幸になった。友達もみんな死んでしまった。関係ない人もみんな……」
「違う! ルカは、みんなに希望を与えてきたじゃないか!」
カイトは必死に叫ぶが、ルカは錯乱状態で聞く耳を持とうとしない。
「ルカ、落ち着いて。貴方一人でこの苦しみを背負うのはどうして」
「……」
メイコの問いかけに、ルカは明確な答えを出せなかった。
「私達5人は、いつだって貴方のそばに寄りそう仲間よ」
倒れ込んだロボットに、マッド・メモリーが近づいてきた。
「ルカ姉、メイコの言うとおりだよ」
レンはルカの方を振り向いて熱っぽく語った。
「ルカの歌声には『希望』をもたらす力があるんだろ? だから、今度はその歌で、俺たちに希望をくれよ!」
カイトはヘルメットを外し、ルカに笑顔を見せた。
「ルカ、早く歌を! 『希望』の歌を聞かせて!」
全身傷だらけのミクは気丈にも笑顔を見せて、隣にいるルカに声をかけた。
「ルカ姉! もう泣かないでよ! 笑って見せてよ!」
リンの泣きそうな声に、ルカはふと顔を上げた。マッド・メモリーが作り出す幻影が一気に晴れていくように感じた。
「みんながいる。私には仲間がいる……だから……」
ルカは近づいてくるマッド・メモリーを睨みつけた。
「私は、もう負けたりしない!」
竪琴を取り出し、それを奏でる。そして、ルカは『希望』をもたらす歌を歌った。
「ルカ姉!」
その声に勇気づけられたレンは、すぐさま、
「立ち上がれ、マッド・メモリーの腕を掴んで振り回せ!!」
と、指示を出した。
レンの指示通り、腕をつかんだロボットはそのまま狂音獣を振り回し、地面にたたきつけた。
「次は、掴んで投げ飛ばせ!」
今度はそのまま重量挙げのように持ちあげると、近くにある海に投げ込んだ。
「とどめ行くわよ。みんな、いいかしら」
全員がうなづくのを確認して、メイコは歌を歌い始めた。歌声に呼応して、光響剣が出現する。そして、6人のヴォイス・エナジーが最高潮になり、剣が輝き始めた。
「行くわよ。Gクリフアタック!!」
ト音記号の軌道を描き、剣が振り下ろされると、マッド・メモリーは真っ二つになり、爆発した。
「終わりました……これで、私の悪夢も」
ルカはモニター越しに見えるマッド・メモリーの残骸を眺め、静かに目を閉じた。遠のく意識の中で、ルカは仲間たちの温かい声が心に届いた気がした。
「戦い以外で7人で行動するだなんて、本当に久しぶりだね」
ここは、ルカが祈りをささげていた教会。ルカの案内でカナデンジャーの全員があの慰霊碑に祈りをささげていた。
「ええ。今日は天気もいいし、この服装じゃ少し暑いくらいだわ」
5月も半ばを過ぎて、季節は確実に夏へと進みつつあった。メイコはマフラーを巻いた暑苦しい姿をしたカイトを少し横目で見ながら、木陰に入った。
「ルカお姉ちゃん、一緒に遊ぼうよ!」
小さな子どもたちがルカの周りに集まってきた。その輪の中心に入ったルカは、自然に子供たちに微笑んでいた。
「ルカ姉……」
リンは心の底から笑うルカの姿を初めて見た。嬉しさを隠しきれないのか、リンは小さな子供たちに交じって輪の中に入っていった。
「リンちゃん、喜びすぎよ」
ミクは少し離れたところで、クールな反応を見せたが、ルカのほほ笑む姿に自然と表情が柔らかくなってきた。
「……ま、何よりも事件が解決してよかったな」
マフラーを外せばいいのにと思いながらも、メイコはカイトの言葉に頷いた。
「さ、今日は一日オフなんだし、それに……」
後ろで重たそうな重箱を持ったレンとハクが待っていた。
「みんな、そろそろお昼にしましょう!」
ハクが声をかけると、小さな子どもたちの元気のよい声が聞こえてきた。小さな手に引かれて、ルカはハクがいる場所までかけてきた。
「どうか、この平和な時が続きますように」
ルカは声に出して、束の間の安息を楽しむのだった。
つづく
光響戦隊カナデンジャー Song-12 長い悪夢の終わりに Bパート
カナデンジャー12話の後半部分です。
ようやく12話も終わり個人的には2クール目の終了です。一応、6話で一区切りをつけるつもりなので、次からは3クール目に入ります。
そろそろ、戦隊もののお約束、追加戦士の話を始めないといけないかなと思っておりますので、(楽しみにしている方は)首を長くしてお待ちください。
それではまた。
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(Bメロ)...「ありのまんまで恋したいッ」
裏方くろ子
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