夏だ。
 ただひたすらに、その一言だけが脳裏をリフレインしている。
 喚き散らすように鳴くセミの声をBGMに、雲ひとつない晴天晴れの正午。おそらくは日本でもっとも熱い時間帯である。せめて風さえ吹けば幾分熱さも柔らぐというのに、その気配は一向にない。
 滴る汗を腕で拭って、卓は片手にビニール袋を持って住宅街を歩く。暑さのせいか、誰も通りかからない道すがら、アスファルトからの照り返しは卓の体力をじわじわ奪う。
「・・・・うがぁぁ」
 暑さのせいでとうとう頭がいかれたわけではなく、ただ単純に気分転換に声を出してみた。そうでもしていないとやっていられない。
 聞く人が聞けば、間違いなく危ない人の呟きだが、そんなこと気にする必要もないくらいに誰にも会わない。
 よく考えてみなくても、こんな時間に木陰もないような場所を歩いていること自体が大きな間違いだった。
「ちっくしょう・・・、どうしてこんなときばかりに貧乏くじを・・・」
 恨みがましく愚痴りながら、ポケットに押し込めたままの赤く塗られたティッシュのくじを取り出し、しばし睨む様に見つめて握りつぶす。
 数十分前のこと。家の冷蔵庫、主に冷凍庫に貯蔵されていたアイスの備蓄が尽きた。原因は、我が家に来たボーカロイド、ミクのせいだった。最近はどうやらアイスの甘さに文字通り味をしめたらしく、一日3個食べている。3個くらいなら、と思うかもしれないが、それをきっかりと毎日守って食べられればさすがにたまったものではなかった。
 卓自身、そこまでアイスを食べるほうではなかったので、せいぜい季節がらちょっと奮発して買い溜めしておいただけ。当然、あっという間にアイスは底をつき、急遽買出し役を決めることになったのだが―――
「こういうときはくじです」
 有無を言わさぬその発言に、若干唖然としつつも卓はミクが握り締めていたティッシュで作られたくじをひく。
 先には赤い色。普通に考えてあたりと言うやつである。
「おめでとうございます、さすがミクのマスターは百発百中です」
 その表現と用法は間違っていると思う、とツッコミを入れつつ、もう決まったことだと言うように淡々と家を掃除し始めたミクを尻目に、嫌々ながら外に出て今に至る。
 鬱になりそうな回想を終え、卓は改めてビニール袋の中身に視線を向ける。中にはいくつかの種類のアイスにペットボトルの緑茶。そして、ネギ。
「なぜ、なぜなんだ。いったい何がいけなかったんだ」
 握り締めたビニール袋を震えさせながら、唸るように卓が呻く。それはくじをひいた事に対して、何がいけなかったのか悩んでいるのではない。
 それは、教育方面に対してだった。
「ないだろ、いくらなんでも。アイスにネギはないだろ・・・っ!」
 ついでと言う様に頼まれた一本のネギ。その用途はアイスに塗すため、らしい。
 人の食べ方に文句なんていう気はない。自分とて、納豆にマヨネーズを入れて食べる。それを他の誰かによく窘められるが、そんなのはまったく関係ない。うまいものをうまいと思い、実践することの何がいけないのか。だから、あのネギ魔神がどれだけ料理に調味料のようにネギを入れようと、一向に構わない。
 構わないのだが、一体このネギがアイスにどのような相乗効果を生むと言うのか。こればかりはまるで想像できないうえに理解できない。
「ネギってそんなナッツとかチョコチップ感覚でかけて食べるものじゃないだろ」
 このあと見るであろう光景に、ちょっとこみ上げそうになりつつも卓はなんとか念願の我が家が見える位置まで戻ってきた。
「しかし、暑いなホント。たった徒歩10分の道のりがこんなにきついとは。やっぱ地球温暖化は深刻なレベルにまで来ているのか・・・・ん?」
 暑さのせいで曲がった背筋が、それを見てまっすぐに戻る。
 何かが道端に転がっているのだ。しかも家の玄関前。
 それは180センチほどの大きなもので、しかもこの季節には滅多にお目にかかれない、マフラーのようなものを巻いていた。
「・・・・いやいやいや」
 あまりの事態に思考が止まって現実を受け入れることを拒否する。
 だって、そうだろう?っと心の中で誰かに同意を求める。
 普通、誰だってこんなのに急に出くわしたら動揺する。人間なら、しないはずがない。
 なぜならば。
 そこには長身の青髪の青年がうつ伏せで倒れていたからだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

小説『ハツネミク』part.2赤い人、青い人(1)

のんびりと時間が掛かりつつも続きを書いてみました。ひとまず序章的な感じで短くまとめてみました。文書とか書く能力が初心者なので、日本語とかおかしいかもしれませんが、読んで頂けたら幸いです。

閲覧数:179

投稿日:2009/01/22 02:50:54

文字数:1,820文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

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  • warashi

    warashi

    ご意見・ご感想

    わざわざあんなに長い文書を読んでいただいて本当にありがとうございます!
    はい、これからも頑張って書いていきたいです!ありがとうございます^^
    ちょっと試験期間が明けるまで時間が掛かっちゃうので次が遅れちゃうかもしれないのですが、
    その時もよければ読んで頂けたら幸いです。よろしくお願いします!

    2009/01/29 00:20:09

  • konakonax

    konakonax

    ご意見・ご感想

    一章から読まさせていただきました。
    頑張って続きを書いてください!楽しみに待ってます!

    2009/01/28 15:09:33

  • warashi

    warashi

    その他

    <トレインさん
    読んでいただいてありがとうございます、凄くうれしいです。いつも感想を頂いて励みになってます^^
    ただ今風邪と言う病魔に打ち勝つため、モフモフと構想を練りながら布団でゼリー食べてます。
    今後も頑張りますのでよろしくお願いします!

    <佑希さん
    読んでいただいて本当にありがとうございます。
    はい、一応カイトの予定です。バカイトかサワヤカイトなのか、どっちに転ぶかちょっと自分でも
    悩んでます^^;
    実際にネギ万能説を唱える人間が自分の近くにいて驚きました。
    面白いと言うお言葉と感想が私の動力源です!期待に応えられるよう頑張ります!
    よろしくお願いします!
    私も佑希さんの小説面白くて好きです!続きを楽しみにしています^^

    2009/01/26 02:13:40

  • トレイン

    トレイン

    ご意見・ご感想

    一章の終わりから再び読ませていただきました。
    相変わらずいいお話です。毎日アイス3つってww
    学習せねば!っと思いました。
    続きをお待ちしてます。

    2009/01/23 17:18:32

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