【AM1:13】
【伊勢湾岸道 名港潮見I.C付近】

   
   オレは湾岸道を相棒のDR30と一緒に走っていた。

ミク:《マスター。私・・・オーストリアに行こうと思うの・・・。》
   
   朝に言われたあの言葉がオレの頭から離れない・・・。
   スピードメーターは105km/hを指している。

オレ:(・・・ミク・・・。本当に・・・行っちまわない・・・よな・・・?)

   いくら深夜だとはいえ、トラックくらいは走っている湾岸道。
   オレの目の前には、フロントガラス越しに一台のトラックが迫ってきた。

オレ:(・・・・!?)
   
   オレはあわてて横の車線へとハンドルを切る。
   普段のオレなら、なんてこと無い車線変更なのに・・・。

オレ:(・・・!! しまったっ!! リアが!!)

   リアタイヤがグリップを失い、ハーフスピン状態に入ってしまった。
   オレの目前に迫ってきたのは、夜景が綺麗な湾岸道・・・ではなく・・・。

   待避所。

オレ:「くっ・・・。 曲がれ!!」
   
   そんなオレの行動をあざ笑うかのように、相棒は壁へと向かっていく・・・。

   "慣性”を発明したのが人間ならば、ここではそいつを一発殴ってやりたかった・・・。



      ガッシャーーーーーン!!



   再び湾岸道に静けさが戻る・・・。

オレ:「・・・・・・・・・・・。」

   オレの相棒は路肩の待避所に左斜めから激突。
   そのまま半回転し、リアを壁にもう一発ヒットしてからようやく止まった。

     バタン。


   オレは相棒から降りた。


【AM1:22】
【岐阜県 某所のチューニングショップ】

   トゥルルル・・・・。

   事務所の電話が店いっぱいに響く。
   店長が眠そうに電話を取る。

山田:「・・・。ふぁい?」
オレ:『山田・・・? オレだ。』
山田:「○○か? どうした?」
オレ:『今すぐ相棒が乗るトラック回してくれ・・・。 やっちまった・・・。』
山田「!? 事故ったのか!?」
オレ:『・・・あぁ。』
山田:「どこだ?」
オレ:『伊勢湾岸道上り。東海I.Cを少し越えたところだ・・・。』
山田:「オマエは無事か!?」
オレ:『あぁ。 なんとかな。』
山田:「分かった。20分で行く。」

   ガチャリ・・・。

   沈黙が再び襲う・・・。

オレ:(・・・何故だ!?)
オレ:(峠のバトルの時より50km/hも遅いのに・・・。)
オレ:(・・・どうしてここまで、心が乱れているんだ!?)



【AM8:15】
【自宅】
ミク:「マスタ~! ごはんですよ~♪」

   オレはゆっくりと目を覚ます。
   昨夜のことがまだ頭にモヤモヤとなって残っている・・・。

   厨房に向かうと、味噌汁の良い香りが鼻をさす。

ミク:「おはよう。マスター♪」
オレ:「・・・あぁ。」
   ミクの昨日の衝撃告白と事故のことで、元気が出ない・・・。

   オレが白飯を口に運んだところで、ミクが言ってきた。

ミク:「クルマ・・・どうしたの?」

   オレは一口しか手を付けていないご飯を食べる手が止まった・・・。

オレ:「あぁ・・・。ちょいっとな・・・。」
ミク:「昨日・・・何かあったの・・・?」

   ミクは心配そうにオレを見る。

オレ:(このミクの可愛らしいエプロン姿も、もう見納めなのか・・・。)
ミク:「え? ・・・なに?」
オレ:「ミク! おめでとう!! スゲーじゃん!! 海外で活躍なんてサ!!」
オレ:「オレ、日本からだけど、ずーっと応援してるよ!!」

   オレが無理やり出した元気だった。
   この言葉を言った後には、喋る気力すらも抜けていた。

   オレがミクお手製の味噌汁を一口飲んだところでミクが言った。

ミク:「マスター。ごめんね。」

   この一言を聞いた瞬間。オレは地獄に蹴落とされたような感じがした。

オレ:(やっぱり・・・。もうミクには会えないってコトか・・・。)

ミク:「昨日航空会社に行ったんだけどね・・・。」
ミク:「チケット売り場が凄い列で・・・。」
ミク:「買わずに帰って来ちゃった☆」


オレ:(・・・・・・・・・・。 え??)
オレ:「・・・ミク・・・? なんだって?」
ミク:「いやぁ、だからぁ~。」

        「チケットは買わなかったよ。」


   今日は良い天気なのだが、オレにとってはたった今、どんよりとした雲から朝日が顔を出したように思えた。

   一瞬で体が軽くなり、食器の重みも感じなくなった。

オレ:「え? じゃぁさぁ・・・。 オーストリアへは・・・?」
ミク:「行かない。 あの行列は多分、神様が『マスターと一緒にいてやりなさい』って言っているのだと思ったしね・・・。」

オレ:(聴いたか?? 『オーストリアへは行かない』だとよ!!)
オレ:(オマエが昨日から求めていた言葉はコレだったんだろ?)

   オレは自分で自分に問いかけていた。
   答えはもちろんYesだ。

オレ:(・・・なんだよ・・ハハ・・・。オレがこの一夜に見ていたのは・・・全て悪夢なんだったんだな!!)

   それからオレは、昨日起こったことを全て話してやった。
   
   ミクを思うがあまり、事故を起こしてしまったこと、、、
   あの後山田に世話になったこと、、、
   帰ってきたのが朝方だったこと、、、


   朝飯をすっかり食べ終わるまでオレは話し続けた。

ミク:「・・・そうだったの・・・。 ごめんね、マスター・・・。」
オレ:「バカ!! なに謝っているんだよ!!」
オレ:「昨日の事故と引き替えに、ミクが戻ってきたと思えば安いモンだろうが。」

オレはそっと席を立ち上がり、ミクに近づいた。

オレ:「改めまして、よろしく、ミク。」
   オレはそっと唇を重ねる。
   この時のキスの味が、朝食の味噌汁の味だったということは、言うまでもないだろう・・・。


【PM1:33】

   俺は走り仲間の伊藤を連れて、山田のガレージに来ていた。
伊藤:「昨日は一体どうしたんだ? オマエが単独で事故るなんて。」
オレ:「まぁ、色々あったワケよ。」

   悪夢が去った今は、空気がすがすがしく感じる。

オレ:「山田ぁー、いるかぁー?」
山田:「おぉ。○○。」
  
   オレは相棒に掛かっているシートをめくった。
   昨日の悪夢がよみがえる・・・。

伊藤:「うわ~、随分とハデだな・・・。」

   伊藤は歪んだボンネットを開けた。

伊藤:「おいおい・・・エンジン大丈夫なのか?」
山田:「いや、ドラシャが折れてるし、基盤も歪んでいる。」
山田:「直すのは不可能だ。」
オレ:「例のアレを実行するにはちょうど良いだろ?」

   オレは隣にある小さな物体に掛かっているシートを取った。

   伊藤が驚愕した。

伊藤:「・・・おぃ・・・、コレって・・・まさか!?」

   そこには怪しげなエンジンが載っている。

伊藤:「まさかGr.A時代のFJ20ターボ・・・か・・・?」
オレ:「ビンゴ!!」
伊藤:「オイ! 正気か!? 赤提灯にパクられるぞ!!」

   更にその向こうのビニールシートの上にも、幾つかパーツが乗っている。

   Gr.AのFJ20専用のタコメーター。ロールバー。キルスイッチ。etc...

オレ:「大丈夫だ。ちゃんと公道用にデチューンしてあるから。」
伊藤:「そういう問題かよ!?」

   オレの顔は本気だった。

伊藤:(・・・絶対イカレてる・・・。)

   オレの相棒がGr.Aのマシンに替われば、また新しい伝説も出来るだろう・・・。




オレ:(今日のミクの夕飯はなんだろな・・・?)



                                ...fin


ライセンス

  • 非営利目的に限ります

一夜の悪夢

オレを観点に書きました、走り屋とミクのラブストーリーです(*´艸`*)

岐阜が舞台なのはオレが岐阜県民なので・・・。
同じくマシンも6thスカイラインDR30が好きなので・・・。

結構本気で書いた作品です!

「○○」には、あなたのお名前をお入れくださいwww

あ、ちなみに山田や伊藤ってェのは、オレの友達だったりして・・・^^;

閲覧数:136

投稿日:2009/02/02 01:12:05

文字数:3,320文字

カテゴリ:小説

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