――――――――――#8
極東半島中央連合。略称SUFeP。海を挟んだメディエスト地域でメディソフィスティア僭主討伐戦争を行っていた頃、極東半島は長きに渡る紛争が終局を迎えた。半島は統一されてSUFePが発足したが、新たな問題が持ち上がった。極東半島が連なる大陸に中華玉海府新人民連邦が広大な版図を誇り、なお領土拡大の野心を顕にしている。
UTAUにせよクリフトニアにせよ、中華玉海府新人民連邦は無視できない脅威である。表面上は中立を保っているが、極東半島が寄せられれば中連の野心がメディエスト地域にも及ぶのは明らかだ。
「だけれども、名目上は中連はSUFePになにも武力行使をしていないという立場だ」
「ああ、例の反乱勢力と主張してる中連の方面軍は堂々と戦争しているがな、SUFePと」
「そうだな。極東半島から撤退する時に裏切りを多く出したから、形振り構わないんだろうね」
「全盛期のクリフトニアが本気でする工作活動は天才だった」
極東半島は南北に分かれて二つの国家が戦争をしていて、中連に隣接する北側の旧共和国政府は実質上の傀儡政府だった。メディソフィスティア僭主討伐戦争が終結し、当時メディエスト地域を統一したクリフトニアが介入し、南北統一とSUFeP政府樹立が実現した。
「しかし、好事魔多し、と。クリフトニアは致命的な過ちを犯して全てをご破算にした」
だが、メディエストではクリフトニア王国が暫定的な同君連盟を提唱した為に、同じ時期に混乱が起きた。そしてクリフトニア王国に遺恨を持つ勢力も少なくなく、SUFePも全面的にはメディエストでの同君連盟を懐疑的に見ていた。結局、性急な政策を行おうとしたクリフトニアは外交的に頓挫し、メディエスト地域内で敵対的なUTAU連合政府の樹立を許してしまう。ついでにSUFePとの外交チャンネルの半分以上がUTAUに渡る事になる。
「で、なんとなくでお前と組んで残党狩りをしていたら、いつの間にかUTAU連合が独立宣言して、私はUTAU連合軍の重音テト上級大将になってたと言う、長い夢を見たんだ。びっくりするだろ?」
「だな。その夢の中で、私は元帥閣下と呼ばれてなかったか?」
「あれ?この夢って前も話したっけ?」
「結構何回も聞いたね」
「あれは人生で一番インパクトのある夢だった」
「だろうね」
両袖のある茶褐色の執務机は、主の体格に比してかなり大きい。机上は海兵の寝床ぐらいのスペースがあり、B5のノートブックと羽根ペン以外には、重音テトが肘を組んで突っ伏しているだけだ。
「元はと言えば、ヤマハ王国が外交権をクリフトニアに委託したのが始まりだったねえ」
「あれは超展開だし?けれども、良く考えれば経済的にも軍事的にも関係が強い上に?ヤマハ王国自体は半ば永世中立国に近いから、外向きの権能をクリフトニアにくれてやっても痛くも痒くもない、と?」
「その上、ヤマハ王国はクリフトニア王国より序列が優れているから、実質的にはクリフトニアがヤマハに下ったと国際的には見る」
「そう見るべきところを、反クリフトニア派は見誤った?分かる訳ないじゃん?」
「僕は分かっていたよ」
「そのドヤ顔うざいし何回も聞いた?」
本当に蒼音タヤが言うのが正解で、形式的にクリフトニアが同盟盟主としてヤマハが同盟国として従属したとして、同盟内でヤマハは独立王国としての国体を維持するし、メディエスト内で利害が同じである限り、クリフトニアとヤマハとで折衝する手間も省ける。名をクリフトニアに譲って、外交の正面玄関をクリフトニアに作らせるという、かなり高度な外交戦略があったのだが、あまりに高度すぎてクリフトニアが拡大主義であるという評論を勢い付ける結果となった。
「だけどなあ、それがUTAUの独立と開戦に繋がってるんだから、やっぱりミスったんじゃないの?」
「クリフトニアにとってはミスだけど、ヤマハは折り込み済みだ。歴史の長いヤマハは何度もメディエスト地域の統一に失敗しているから、最初からクリフトニアの目論見が成功するとは思っていなかった」
「お、おう?」
「だから、クリフトニアを始めとする連合軍が占領政策を本格化させる直前で、外交権の委託というカードでクリフトニアに鎖をつけたんだ。その上、メディエスト全土をふるいにかけた」
「この謎々をとけない国は、友達じゃないって?」
「そういう事だね。結果、空気が読めなくてハブられたキョロ充が集まったのが、UTAU国家連合という訳だ」
「つまりタヤは、UTAUが負け犬なゴミでVOCALOID崩れな中途半端な連中が遊んでる国と、そういいたいのかな」
「それは全部テトの発言で、仲間の連合政府相手に問題起こした時の事だよね」
「でも大体合ってるじゃん」
UTAU発足時にどこからか沸いて出た『戦士』達が大きな顔をするのを見咎めて口論になった所から、危うく内乱寸前まで発展しかけたことがある。半分くらいが『革命派残党』の工作員に仕立て上げられたハリボテの人気者で、欲音ルコらが残党狩りを進めると綺麗に失脚して逝った。残り半分の実力がある層は党派を作って、UTAU国家連合でそれなりの仕事をしている。
「それで、ヤマハはどうだったの?」
「行く暇がなかったし、予定もなかった」
「だろうね」
機動攻響兵「VOCALOID」第5章#8
戦略的なのの説明乙
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想