いつも彼女と一緒にいたこの場所。
もうあれから何日も経つのにまだ無意識に来てしまう。
彼女が来るはず無いのに…来たとしても合わせる顔なんてない。
ならどうしてここにいるんだと聞かれれば簡単な事。
それは…
【小説】堕ちた天使と悪魔の囁き7
「レン」
ふいに聞こえた落ち着いた声に振り返ると青い髪の天使の姿。
彼は天使のくせに俺と俺の双子の姉に妙に構ってくる変なヤツ。
天使はかなり保守的な種族なのに気安くて姉…リンもいつの間にかずいぶん懐いてた。
…俺は別に好きでもないけど。
「レン、今何か失礼な事考えなかったかい?」
「は?いきなり何?」
「レンはすぐ顔に出るからね」
言ってくしゃりと髪を撫でられる。
「…ちょ…止め…」
どうもあの日から涙腺が弱くなってるらしい。
優しい声とあったかい手に泣きそうになり唇を噛み締める。
彼は苦笑を浮かべると隣に座り込み
「何が、あった?」
「…ミクちゃんの翼…一瞬黒く染まって見えた…」
脈絡が無さ過ぎると自分でも思うが一番不安だった部分がこぼれ落ちた。
「ミクって…ああ、あいつが可愛がってるあの天使か…」
「知ってるの?」
「まぁ、ね。知り合いの妹分だよ。小さい頃からふわふわしてて心配だって呆れたように笑ってた」
「うん…本当、目を離すと心配で…でも可愛くて優しくて…好きだったのに手を離した…」
「どうして?」
「あの子の大事な人達が連れ戻しに来たから…」
「素直に渡したのかい?」
「俺と居たって未来なんか無い。あの子に悲しい思いさせるくらいなら手遅れにならないうちに離れておいた方が…」
膝を抱え顔を伏せると再び頭に乗った手に引き寄せられる。
「…っ!何…?」
「レン、もう手遅れかも…しれない」
「…え…」
「天使が悪魔と居ることでその気が穢されていく。一般にはそういうけどね?俺は違うと思う。悪魔の波動に触れることでそれに近くなっていく。そういう事じゃないかな。逆も然り。君もずいぶん変わってきたから彼女も…」
「俺が変わった?」
「ああ。変わったよ。楽しい事が大好きで他人に興味なんか無くて。本気で誰かと向き合うなんて考えもしなかっただろう?そんなレンが誰かを愛してその子を思いやって今もずっと想ってる。悪魔らしくない優しいオーラが見える気がするよ」
顔を上げると小さく笑った彼が表情を改めて
「天使はさ、悪魔を好きだと思った瞬間ある意味ではすでに堕ちてる。基本、恋なんてしない種族だからね。一度思い込むと後は落ちていくだけ。悪魔を愛すると決めたらある程度は覚悟を決めているはずだ。たぶん彼女もね」
妙に実感のこもった声音。
それにその表情はいつもと同じようで違う。
ああ、そうだ…リンと居るときにこんな顔してた気がする。
「…兄さんも、堕ちてもいいって思える人居るの…?」
ある程度俺が答えを持っていると気づいているんだろう。
答えず微笑うだけ。
「レン。後悔しない道を選ぶんだよ。そうすれば辛い選択でも前に進んでいけるはず」
「…うん」
後悔しない道…。
それはまだ分からない。
けれどはっきりしている事はある。
一つは彼女が大好きで離れたくなくて…今でも未練があると言うこと。
もう一つは彼女を堕としたくない。
このまま会わない方がいい。
どちらの道を選べば後悔しないんだろう?
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