僕のマスターは秘密主義。何でも自分で抱え込むからいつも心が疲れている。
ほんの少しだけで良い、僕にだけは、本音をぶつけてもらいたいのに…
今日はマスターの誕生日。僕のマスターがこの世に生まれてくれた最高の日。
僕はマスターのお祝いをするため、マスターが仕事で出かけているうちに部屋を片付けて飾り付けをし、ご馳走とケーキを作り始めた。
マスター、喜んでくれると良いな…
少し時間がかかったけれど、最高のデキだ。
ご馳走も温め直せばすぐ食べられる状態まで持ってきたし、ケーキも冷蔵庫の中で眠っている。自慢のホワイトチョコケーキだ。
疲れた時には甘い物。マスターが口癖のように言いながら必ず口にしていた物がチョコレートだったのできっとマスターの好物なのだろう。黒より白の方が彩りも良く美しいと思ってホワイトチョコにしてしまったけれど、マスターは喜んでくれるだろうか?…
待てど暮らせどマスターは帰ってこない。どうしたのだろうか?
温め直したご馳走をテーブルに並べて埃除けのカバーをしたままテーブルに突っ伏してため息をつく様は新婚家庭の嫁のようだ。
時計を見るともう時刻は二十三時を回ろうとしていた。
まさか、マスターに何か…?!
不安に思っていた矢先、ついに玄関先でドアの開く音がした。マスターだ!
僕は一目散に駆け出してマスターをお出迎えした。
「マスターお帰りなさい」
僕は笑顔で言ったけれどマスターには届いていないだろう。この声すら届いているか怪しい。
「マスター?…」
何度も声をかけてみる。
マスターは明らかに酔っていた。元々お酒なんて強くないくせに、何故こんなになるまで飲んだのだろうか?この状態でよく一人で帰って来られたものだ。奇跡に近い。
相当フラフラで目も開けていられないようだ。倒れ込むマスターを抱えて僕は部屋の中に運んだ。
「マスター、お水です…」
僕はマスターの酔いを醒まさせようと水を飲ませた。マスターは少し嫌がっていたが表情を歪ませながら水を少しだけ飲んでくれた。
「マスター、今日はどうなさったのですか?」
少し落ち着いた所で僕はマスターに尋ねた。マスターはまだほの紅い顔をしたまま、表情は少し固く呟くような小声で言った。
「今日は、一年で最も忌むべき最悪な日だよ…」
自嘲気味のマスター。僕はそんな事を聞きたくは無かった。だって今日は一年で最も素晴らしい、最高の日なのだから。
僕は悲しさを押し隠し、珍しく本音のマスターを愛おしむように抱きしめた。
「…悪かった。今日はちょっと酔っている。今の話は忘れてくれ…」
マスターは僕の頭を撫でながらどこか遠くを眺めるように呟いた。
「いいえ、忘れません。あなたのそれが本音なら、僕はあなたの全てを受け止める覚悟です」
僕の決意の言葉に終始無言のマスター。僕はほんの少しだけ寂しさと恥ずかしさを覚えた。
マスターは少し黙って、僕の覚悟に答えた。
「よしてくれ。本当に、全部忘れてくれよ…」
マスターは僕を撫でていた手を自分の目に当てて涙を流した。
「マスター…」
この偽物の造られた手は人の物ではないけれど、今だけはマスターを優しく抱きしめる人の手であって欲しい。この硬い金属が柔らかな人肌を包み込み、人の真似をしてマスターの顔をそっと自分の胸に押し当てた。
「誰も見ていませんから。僕はここに居ます」
胸が濡れる。腕の中で声を押し殺して泣くマスターの痛々しい姿に僕の心も酷く曇る。こんなに苦しんでいるマスターに、僕は気付かなかったのか。いや、気付いていても気付かぬふりをしていたのかもしれない。僕はマスターの負担にしかなっていなかったのだろうか。
「…偽善者だと笑いたくなるだろう?あまりにも自己中心的過ぎる。酔っている時こそ本音は出やすい。こんな嘘の塊は醜いだけだ。自分を着飾り、騙しているだけなんだよ」
少し落ち着いたのか、かすれた声でマスターが言った。これがマスターの本音…
「自分と言う主体さえ失って、衣装と化粧で造られた形だけの人形さ。あぁ、自分と言う存在は何処へ消えてしまったのだろう?一体いつから…?」
また泣き出すマスターを僕はそっと撫でた。
「…今日は最悪な日だ。一年で最も忌むべき日だ。何もできない、世の中のクズの生まれた日。偽善者の仮面を被った大嘘つきの生まれた日だ」
マスターの本音、マスターの嘆き。何があったかは全くわからないが、マスターは心底傷心の様子。
僕は出来る限り優しい声で囁いた。
「あなたの、最悪な日なんて言わないで下さい。今日は最高の日です。あなたが生まれてくれたから…」
あなたがあなたを偽善者と呼ぶならきっと僕も偽善者なのでしょう。あなたのためなら僕は嘘だってつけます。あなたのためなら僕はあなたの望む僕にだってなれます。
だから…―――
どうか、僕の事、忘れないで下さい。
あなたと言う存在を、世の中全てが否定しても
僕はあなたを愛します。
あなたが僕を嫌っても、僕はあなたを心から想い、お慕い申し上げます。
僕はあなたのためのボーカロイド。
僕はあなたの物だから、どうか僕を捨てないで。
あなたは全てから逃げようと、僕の事まで置いて逃げようとするけれど
僕にはあなたしか居ないのです。
僕は造られた存在だけど、この心も全て紛い物かもしれないけれど、
それでも僕はあなたを愛し、あなたのために尽くしたい…
時刻はあれからおよそ三十分過ぎたくらい。
今からあと三十分、あなたの生まれた最高の日を、どうかこの手で祝わせて下さい。
こうして今、あなたの目の前に居る僕が、あなたと言う大切な方と出会う事が出来たのもこの日があったから。
生まれてきてくれてありがとう。マスター、あなたは世の中のクズとおっしゃるけれど、僕にとってはそのクズが世の中の何よりも代え難い最高の宝物です。
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ご意見・ご感想
なつと
その他
コメント遅くなりましてすみません><
KAITOの健気さに泣いた…。
なんていうか、うん、こんなKAITOほしいです。
いやここまで一途なKAITOじゃなくてもほしいですけど←
誰か一人でも自分を許してくれる。それだけで救われるんですよね。
このマスターにはこんなに素敵な理解者がいるのですから、
ぜひ前を向いていただきたいとw
鐘雨さんも、もし何かあった時はちゃんと誰かに話してくださいね。
例えばこのヘタレ管理人で構わなければいくらでも聴きますゆえっ(`・ω・´)←
2011/05/06 22:09:59
鐘雨モナ子
おぉぉ(`・ω・´;やはりちょっと重すぎましたかぁ;自重すべきだったかなぁ><;
普段頼りにならないイメージの残念なKAITO兄さんですが、いざというときはきっと頑張ってくれます^^だと良いな?なんて・・・w
毎度ありがとうございます?><
お陰様で何かあれば誰かにひっつかまってべちゃくちゃ喋らせて頂いておりますw
また変な話でよろしければ聴いて下さいませませw
…おっと、トークロイドなんて持ってなかったΣ゜゜;大丈夫、きっと代わりに喋ってくれるさb
2011/05/07 00:32:31