王女は召使から伝えられた事実との矛盾を確かめることにした。
まずは自分が要人を呼び出して問い詰める。
その一方で召使は姿を隠して市井へと一度下り、民衆の真意を知る。
なにか王宮はおかしいと召使が言ったため、その双子の計画は寝所で行われた。間者が屋根裏に潜んでいても、とてもささやき声までは聞き取れず。また、顔のよく似たふたりが交わす会話はなにをどちらが言ったか聞き取りづらかったのだった。
「……あたくしに対して嘘をついている者は申し出なさい」
まだ十代の王女の声は精一杯怒気をはらませていた。虚勢でもあったがそうでもしなければ崩れ落ちてしまいそうだったのである。
「なにかあったのですか、姫」
「おお、我が王国の可憐な王女、なにをお怒りでしょうか」
「実際に耳に入ることとあたくしの下した物事が食い違っているようなのです」
玉座から立ち上がった彼女の元に跪く家臣たちはみんな顔を下げていて、表情など見えるわけがなく。
表を上げなさいと命じてやっと顔を見たとしても、忠実な表情をして心の中で舌を出すばかり。
話術も経験も未熟な彼女はいくら詰問してものらりくらりとかわされるだけ――。
一方市井に下った召使は、夜酒場で集会が行われると耳にしていた。
そして目にしたのは以前に比べるとどんどん貧しくなっている国の姿……海の向こうの隣国へ行った時よりも、緑の国を通った時よりも。
身なりの怪しい者どもが昼間から酒をあおり、襤褸をまとった物乞いたちが枯れ木のような手を差し出して日銭を稼ごうとしていた。
「あぁ、なんてことだ」
「……おい、そこのお前。旅の人か?」
彼に声をかけたのは、貧しい服装の男だった。胸に留めた赤い布だけがやけに鮮やかである。
「そうですが、この国はなにかあったのでしょうか」
「王女様がみぃんな奪って壊して好き勝手してるんだよ。近いうちに暴動が起きる。悪いことは言わないから旅人さんよ、早く海の向こうにでも逃げな」
「この国に境界を接している緑の国では駄目なのでしょうか?」
「滅びちまったよ! 翡翠の姫君も行方不明、みーんな暴君王女がやったのさ!」
彼は絶句するしかなかった。あの緑多き森の国が滅びた? 翡翠の姫君が行方不明? そしてそれをすべて王女がやったのだと?
そして――もうすぐ暴動が起きる。確信を持ってこの男は言っている。もしかして、道行く人々が必ずどこかに留めている赤い布は……。
召使は更に情報を仕入れようとしたが、口を開けば同じことを聞く。集会に行けば真っ赤な鎧の女剣士が打倒王女と檄を飛ばし、それに賛同する人々の多いこと。
もうひとつだけ耳にしたのは、あの海の向こうの王子が不当な侵略を受けた緑の国から逃れた者たちを保護し、この国に戦争を仕掛ける手はずを整えようとしているとの噂だった。
すべて、遅かった。
遅すぎた。
齢十四の王女は未熟すぎ、傀儡として踊らされ。
楽園を築こうとしていたのにそれらはもろくもはかなく崩れていき。
それから間もなくだった。
赤き鎧の女剣士――王女の意図しないところで追放された騎士のひとり――に率いられた民衆が立ち上がったのは。
その時の人々の怒りといったら国全体を包み込んだ凄まじいものだったという。
烏合の衆とはいえ率いた女剣士の統率力は絶大で、更に海の向こうからの力添え。
緑の国を支配しようと企んだ家臣たちに酷使された兵士たちなど敵ではなく、逆に民衆に寝返る者がいる始末だったそうだ。
ついに王宮も囲まれて、今まで甘い蜜を吸っていた奸臣たちは運べるだけの富を持って逃げ出したそうだ。その富を積んだ馬車すらも、民は打ち倒して搾り取られた金を略奪した。もっとも、その金銭はその後の再建のために使われたと言われているのだが。
この時ずっと王女に付き従っていた顔のよく似た召使も逃げ出し姿をくらましたらしい。途中どこかで引き千切られたのか、なぜか髪がざんばらだったそうだが。
そして悪逆非道との話と共に可愛く可憐と伝えられていた王女もついに捕らえられたそうだ。その時自分が虐げてきていた者たちに縄を回された時に無礼者と叫び罵りみじめな姿をさらしたと伝えられている。
――海の向こうの隣国や、滅ぼされた緑の王国で雌伏の時を伺っていた者たちが立ち上がったこともあって信じられないほどに簡単に王宮は陥落したという。
さらに迅速に王女の処刑が決まり、今や国を思うがままに荒廃させ民を虐げた娘でしかない彼女は冷たい牢屋にひとり閉じ込められた。その時彼女がなにを思ったのか、なにを考えていたのかは誰も知らない。
ついにその時がやってきて、民衆たちの怒号がすべてを包み込む中処刑台の露と王女は消えることとなった。本当ならば首切り台に伏せられるはずの彼女は、あまりにも酷い行いをしたとのことでわざと仰向けに――刃が降りてくるその瞬間まで目を開けていることを決められたとのことだ。
終わりを告げるその鐘が鳴って、処刑台に向かう中王女は最後に口癖だったというこの言葉を最期に残した。
「あら、おやつの時間だわ」
……永きに渡り栄華を極めた王国も、崩壊する時は一瞬。
その国の、すべてのきっかけを作った王女は処刑され、荒廃した王国の血は途絶えたという。
鮮やかな鮮血と共に断頭台の露と散った彼女は華のようだったとのこと。
後の人々はこの王女のことをただ“悪ノ娘”と呼んだ――。
『悪ノ娘』 了
参考・感謝
【鏡音リン】 悪ノ娘 【中世物語風オリジナル】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2916956
作詞・作曲・編曲:悪ノP
唄:鏡音リン
【鏡音リン】悪ノ娘【手書き+おまけ】
http://www.smilevideo.jp/view/3295256/124514
サツ様・作
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