ボーン…ボーン…ボーン……―
12時を告げる柱時計の音が、鳴った。
その時計のゆらゆら揺れる振り子は、まるで僕とリンの今の心情のようだった。
僕はそっと唇に触れる。まだ、ほんのり温かかった。
「……ねえ」
突然、リンが僕に話しかけてくる。
リンは、言葉を続ける。
「……ほんとに、行っちゃうの?」
「…え?」
「……これからは…違うベットで寝るの?」
僕が吃驚するのに時間はかからなかった。
リンが僕と母さんの会話を聞いているとは、思っていなかったから。
自分でも吃驚するくらい跳ね上がった心臓を落ち着かせ、柔らかく微笑む。
リンは……僕に見られないように背を向けて、腕を一回ごしっと動かしていた。…僕の心の奥が軋む。
「……そう、だよ」
僕が渇きそうになる喉から振り絞って出た声。
リンがシーツをギュッと握るのがわかった。
「…もう、12時だ」
自分の気持ちとは裏腹に、逃げ出そうとする言葉が出てくる事への焦燥感を胸に抱え、それをリンに悟らせないように隠すのは大変だった。
「おやすみ」
僕は優しく、リンに微笑んだ。
「……っ」
僕がドアノブに手を掛け回すと、突然後ろから足音が聞こえた。
……その主が誰なのかは、もうはっきりとわかっていた。……いや、「分かってしまっていた」。
「待っ……て」
自分のブラウスの袖を掴む……リンの、手。
僕は少し吃驚したが、リンをたしなめる様に微笑む。
「…せっかくベットが広くなるんだから、ゆっくり休みなよ」
僕は、リンの手を視界に入れた。
細く白い、女の子らしくなった手。…いつ僕より小さくなったの?
僕はその手に一つ、キスを落した。
「―」
リンが、黙ってじっとキスをした手を見つめている。
その頬はほんのり紅く染まっていた。
僕は唇を離す。
「じゃあ……おやすみ」
僕はリンに背を向け、ドアノブに手を掛ける。
「―っ!!」
リンの、今にも泣きそうな小さな声が僕の耳に刺さる。
リンが、僕に抱き着いてきた。
「やだよ…行かないで」
「リン」
リンが余りにも痛々しくて、心の奥がずきんと痛む。
リンは僕の胸板に顔をうずめると、首を振ってどんどんと叩いてきた。リンが服を握った手は、震えていた。それはまるで、僕をいかすまいと止めているようで。
「レンは……レンは私と離れてもいいの?…私はそんなのヤダ!」
リンが胸元で泣きそうになっているのが、嫌でも伝わってきた。
「まだ……いいじゃない……お化けが出たら、どうしてくれるの?私、怖くて死んじゃうじゃない」
リンは、本気半分冗談半分なのだろう。僕を止める口実を作ってくる。
「…リン」
僕は、優しくリンの頭を撫でると…本当は言おうとは思わなかったけど、挑発気味にリンに言葉を放った。

「まだまだ子供だね、リン」

でも―僕は顔を上げたリンを見て、息を呑んだ。
リンの瞳は、潤んでいた。
双子故なのか。ありありと意思が伝わってくる。
(違う、違うよレン―)
(まだ、行かないでよ)
(私は、レンの事―)

リンの薄いネグリジェ越しに伝わる熱。
それはゆっくりと僕の中の「何か」を溶かす。
いや―溶かすのではない。留め金が、壊れる気がした。

「……リン」
僕は、今にも折れそうな、リンのその華奢な体を力強く、それでいて壊さないように抱きしめた。
リンも抱きしめ返してくる。それが秘密の合図のようで嬉しかった。
ドサッ。
「リン……」
僕は、リンを押し倒していた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

アドレサンス<自己解釈> *4(レン視点)

レン視点書きましたb
前スレで「アウトにしてぇえ!」というタグがあって、不覚にもニヤニヤさせて頂きましたw(
なので……アウト…に頑張ってします。ならないかもしれませんが(え
では。

閲覧数:5,708

投稿日:2010/01/24 21:39:25

文字数:1,425文字

カテゴリ:小説

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