あたしのにぃにぃはとっても巧い「唄紡ぎ」だから、たくさんの呼ばれ方をする。

 曰く、森住まいの精霊のお気に入り。
 曰く、歌のカケラを口にした唄紡ぎ。
 曰く、金の舌と銀の声持つ吟遊詩人。

 それから、村の人たちからは、こんなことを言われたりもしてる。

 にぃにぃが、ときどき一人で森へ行くのは、森住まいの精霊に歌のカケラをもらいに行くからだ、って。
 だからあたしのにぃにぃは、外の人では歌えない、にぃにぃだけの歌が歌えるんだって。

 でもね。あたしには、それが間違いだってわかってる。
 ううん(ちょっと悔しいことだけどさ)、あたしだけじゃない。にぃにぃとおんなじ歌紡ぎのミクねぇも、メイコねぇだって、それはきっとわかってることだと思う。レンは……うーん、レンはどうなんだろ。
 あたし達がわかってるってことは、レンにもわかってるんじゃないかって思うんだけど、どうだろう。歌紡ぎになるよか、剣士とか狩人になりたいっていってるレンにそれがわかるっていうのは、なんだかちょっと面白くないって気ィするなあ。

 あたし達がわかってることっていうのは、他でもない。
 にぃにぃが上手に歌を紡げるのは、精霊にヒイキされてるからじゃない。
 にぃにぃが、歌を「好き」だからだ。ってことだ。

 あたしのにぃにぃはどんな歌を頼まれても、にこにこして楽しそうに引き受ける。そして、歌う。
 ミクねぇだったら顔真っ赤になって泣いちゃいそうな酒盛り歌でも、メイコねぇだったら、おとといきやがれって相手をぶっとばしているような戯れ歌でも。
 どんな歌でも本気で歌う。綺麗に歌う。

 だから、わかるっちゃ、わかるんだ。にぃにぃが、精霊にヒイキされてるなんて言われるのも。
 だけどあたしにはわかってる。それが間違っているってことも。あたしはまだ歌紡ぎではないけど、でも判る。

 誰かに教えてもらったそのままだったり、ただの真似っこしているだけだったら、それはにぃにぃの歌にはならないってことも。

 だけどそんなあたしでも、だったらどうしてにぃにぃが、一人で森に行くのかは判らない。ううん、にぃにぃだけで無い。歌紡ぎになったものはみんながみんな、ときどき一人で森へ行く。ミクねぇも、メイコねぇも。

 一度だけ、あとをつけてみたことがあったんだ。あたし。一人で森へと行くにぃにぃの後を。
 だけどにぃにぃが、しきりとあたりを気にしていた――― あたしだって、レンに負けないくらい気配隠しはうまいんだけど―――から。
 だから、あとつけるのはやめにした。にぃにぃの嫌がることはしたくない。

 だって、にぃにぃのことが好きだもん。あたし。

 あたしも来年、15になったら一人で森へ行くだろう。ミクねぇは16で行ったから、それより早く森に行く。歌紡ぎになれるかどうかは、そのとき判る。
 にぃにぃみたいな唄紡ぎになりたい、って言ったら、にぃにぃは笑って、

「リンはリンらしい唄紡ぎになったらいいんだよ」、って言ったけど、でもね。
 なりたいって思うくらいはさ、あたしの自由だと思うんだ。

 森の中、あたしはどんなものを見るのかな。
 どんなものを見て、そして、どんな歌を紡げるようになるのかな。

 そんなことを考えて、村外れの目印の樹に登っていたら、にぃにぃがまた一人で森に行くのが見えた。
 あたしに気づいて手を振ったから、あたしも手を振り返す。大きく、大きく。

 15になったらその年に、あたしも一人で森に行く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

森へ行く-ver.Rin-

mamechiyoさんの「nostalgia」を見ていて書きたくなったもの。
http://piapro.jp/content/79r8dxw4rxr51pgn
リン視点のお話です。

そして連作になっていますorz 続きは私のサイトの方でちまちまとアップ。

閲覧数:181

投稿日:2008/11/30 21:50:44

文字数:1,457文字

カテゴリ:小説

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