ちょっとまってよ。
 なんであたしと雑音で一緒に風呂なんか入いんの?
 つうか脱衣所目前まで来てんだけど・・・・・・。
 「ちょっとまってよ!なんであたしと雑音でお風呂なんか・・・!」 
 「いやか?」
 思ったことでそのまま講義すると、またそんな顔を。
 まったく、あんたの顔、まるで凶器だよ。
 だから断れない・・・・・・。
 「さぁ脱ごう!もう沸いてるはずだ。」
 メッチャ楽しそうに脱ぐよこの人。
 あたしはちっとも楽しくない。とても脱げねぇ。
 何気なく雑音に目をやったそのとき、一瞬釘付けになった。
 何・・・・・・こいつ?
 雑音の体は、どこか不自然だ。
 身長がすごく高い。
 165はあるんじゃないと思った。
 ハクより2センチ高いくらい。
 それと体。
 あたしなんかと違って、全体的に、ハリがあるというか。
 筋トレでもやってんのかな。
 いや、んなワケないか・・・・・・。
 「どうした?脱がないのか?」
 「え・・・あ・・・分かったよ入りゃいいんでしょ入りゃ。」
 改めて自分の体を見ると、何というか、劣等感を感じた。
 ち、ちくしょう・・・・・・!
 「あ、そうだ、カバーはしたか?」
 ああ、充電のアレね。
 「した。」
 「よし。入るぞー。」
 「はいはい・・・・。」
 あたしは何をやってんだろうか・・・・・・・。
 
 
 また流れ星が一閃、水面の夜空を掠めていった。
 これで通算五回目。水面の夜空は星がよく見える。
 それをこうして窓から眺めるのは癖になるほど好きになった。
 だから、僕は電気をつけない。部屋の奥はほぼ真っ暗。
 見えるのは夜空だけじゃない。
 水面の町並みも、雄大に広がる海も、大地も、全てここから一望だ。
 この大きなガラス窓によって。 
 これからここが僕の家と思うと思わず失笑してしまう。 
 こんな待遇の良さは、何が原因か。
 いや、こうして僕が生きていること自体も、奇跡に近い。 
 単に運が良いだけなのか、それとも・・・・・・。
 と、考え事をしてる内に、お客さんが来てしまった。
 困ったな。持て成すものが、余りない。
 「どうしました?こんな夜分遅くに・・・・・・。」
 僕は暗闇に向かって話しかけた。
 反応は無い。
 「いらっしゃっている事はもう分かっているんいですよ。」
 すると、暗闇の中から一人の男の人が現れた。
 音も無く。
 その人は染めたような茶髪のスーツ姿の成年だった。
 「流石だな・・・・・・。」
 その人は、そうぼそりと言った。
 「僕の後を付けていたんでしょう。」
 「ばれていたか・・・・・・だと思ったぜ。」
 「だからこうして命令を無視して僕の前に姿を現したんでしょう?」
 「何所で知ったか知らないが調子に乗るな。」
 その言葉には、怒りも悪意も感じられなかった。
 まぁ、この人達は他人に感情を悟られるような人達じゃ無いはずだ。
 その人は僕の手前まで進み出た。
 「自己紹介しよう。明日から貴様のお目付け役になる、和出明介だ。」
 その名が本名でないことも僕は知っている。
 「へぇ・・・自己紹介は明日ではありませんか?命令では。」
 「そうしたいところだが、俺はそれまでお前の尾行なんぞ続けてはいられん。無駄だと知っているからな。発信機も何もかもだ。」
 「ま、必ずしも命令どおりに動くことが賢いとは限りませんからね。今回は命令よりあなたが正しかったわけですね。」
 「そりゃどうも。」
 「まぁ、折角いらっしゃったことですし、ワインなんかどうですか?僕は最近お酒の味を覚えましてね・・・・・・。」 
 「結構だ。」
 立ち上がるなり、そういわれる。仕方が無いからソファーに腰を戻す。
 でしょうねぇ。
 「そうですか。それは残念・・・・・・。」
 「とにかくだ。俺はお前の監視として、お前とここで生活し、二十四時間体制でお前を見ている。ここなら俺の仲間もすぐに飛んでこれる。ジャマは入らん。」  
 「あなたと同居とは、これは退屈しなくて済みそうですね。」
 「ああ、俺も楽しみだよ。」
 「ところで、僕はいつからピアプロにいけるんですか?いやぁ、僕もう早く行きたくてウズウズしてるんです。ただでさえ外出禁止なので。」 
 「予定が早まった。明日。ファーストシリーズがライブツアーから帰る日だ。」  
 「それは嬉しいですね。」
 「そんときゃ総勢三人でお前を見ててやる。」
 「いやー身に余る待遇ですね。」
 「俺もなんでお前が生きていて、レーダーに引っかからん最新型ナノマシンを持ち、ボーカロイドとして世に出てこられる理由が全く分からん。上も似たような状態だがな。」
 「それは僕にも分かりませんねぇ。」
 その言葉を境に、暫しの沈黙が僕と和出さんを包んだ。
 「まぁ、こうして貴様の監視になるのも何かの縁。なぁに、お前が変なマネしなけりゃ俺も楽ってワケだ。」
 「そうですね。」  
 和出さんは僕の顔を覗き込んで、呟いた。
 「まぁせいぜい仲良くしようや。」
 その声には、ようやく感情が宿っていた。
 とても、楽しげな。
 そしてその手は僕のむき出しの肩に触れ、そっと腕までなぞった。そのラインに沿って冷やりとした感触が伝わった。
 「そうですね。じゃあ仲良くするためにはどうしたらいいでしょう?」
 状況的にも分かりきったことを訊く。僕はこれが好きなのだ。
 「さぁ、どうするかな・・・・・・?」
 どうやら向こうも同じのようだ。
 何時の時代、何所の場所でもこういう人はいるものか。
 「じゃあ、少し楽しませてもらおうかな。」 
 「こちらこそ・・・・・・フフ・・・・・・。」
 これからの生活、退屈しないどころか、ちょっと楽しくなりそうだ。
 
 
 「それで、ハクが大笑いしてな・・・・・・ネル。聞いているのか?」
 「はいはい。要するにハクがあんたをダマしてお酒飲ませたんでしょ。」
 ・・・・・・。 
 なんであたし雑音に背中洗ってもらってんだろ。
 もういいや。ヤケ。
 あーでもなんか雑音の洗いかたって、うまくない?
 「あのさ。」
 「ん?」
 「雑音、洗い方うまいよね。」
 「そうか?」
 そのとき、雑音の手があたしのお腹に周ってきた!
 「ちょ、ちょっと雑音!」
 「どうした?」 
 「そこは・・・そんなとこぐらい自分でやるよ!」
 「そう言うな。」
 と、言いながら雑音のタオルが・・・・・・。
 「いゃッ、ちょ、まって、うぁ!」
 「だめだ。ちゃんと洗わないと。」 
 平然と答える雑音。 
 こ、こういうことするのに、なんとも思わないなんて・・・・・・。
 天然?気にしない?
 とりあえずすごく恥ずかしいのは確かだ。
 つーか胸が、胸が当たってる!くっつきすぎだバカ!!
 あたしの背中と、ヌルヌルしてて・・・・・・すごく・・・・・・エロい。
 まるで変態だよぉ・・・・・・!
 一分後。
 「終わったぞ。」 
 「ふぅ・・・・・・。」
 「次はわたしを頼む。」
 あっさり。
 「なんでだ!」
 「ネルのやってやったじゃないか。」
 またまたあっさり。
 「うー・・・・・・分かったよ。」
 三分後。
 「ちょっと・・・・・・。」 
 「んー?」
 「狭くない?」
 「そうか?」
 そうか、って二人で風呂に入んは狭いでしょ・・・・・・。
 もうアキレ果ててわしゃついていけん。
 これから雑音にツッコむのはやめよう。余計疲れる。
 「ネル。」
 「はい?」
 「このごろ、ずっと家にいるばっかりだろう?」 
 こんどは何だろ?
 突然そんなこといわれても・・・・・・。
 「そうだけど。」
 「一人で、寂しくないか?」
 「ん・・・・・・まぁ・・・・・・。」 
 何よ・・・急に・・・・。
 「それで・・・実は、ネルに・・・・・・。」
 さっきまで明るかった雑音が、言葉をつまらせてる。 
 何?何が言いたいの?
 「言ってよ。」
 「え?」
 「別に、怒ったりしないから。」 
 すると、雑音はゆっくり口を開いた。
 「ピアプロに、戻らないか・・・・・・。」
 
 ・・・・・・。
 
 「ごめん・・・まだ無理。」
 「どうして。」
 「あいつらと、顔合わせたくない。」
 「わたしがいても?」
 「うん・・・・・・。」
 「・・・・・・そうか・・・・・・分かった・・・・・・。」
 そのまま、あたしと雑音は黙ったままお風呂を出た。
 
 ばか・・・・・・。
 なんでそんなこと言い出すのさ・・・・・・。
 せっかくここの生活に慣れてきたのに・・・・・・。
 でも、雑音となら、もしかしたら・・・・・・。
    
 
 その夜も、あたしは雑音に背中を向けて寝た。
 だけど、いわなくちゃならないことがあったから、あたしは、雑音の方を向いて、雑音の目を見て、勇気を出して、言った。
 「・・・・・・雑音・・・・・・。」
 「ん・・・・・・?」
 「あたしさ・・・・・・さっきは、無理って言ったけど、やっぱり、行ってみてもいいかなって思えてきたんだよね。ピアプロにさ・・・・・・。」
 「本当か・・・!」
 「うん。だから・・・・・・雑音。」
 「うん?」
 「あたしと・・・・・・一緒にいて。」
 「・・・・・・・・・・・・ああ。」
 雑音は、あたしの頭を包み込むように抱きかかえた。
 柔らかい感触、シャンプーの香り、そして、雑音の鼓動が聞こえた。
 
 
 ベッドの中で打ち明けた、あたしの素直な気持ち。
 やっと自分に、雑音に素直になれる自分ができた感じがする。
 あたしが存在して、何の意味があるのか、分からなかった。
 でも、雑音とだったら、それを見つけ出せる。
 だから、まずは勇気を出してみないと。
 そうすれば、きっと、分かる。
  
 あたしが本当はなんのためにあるのか。 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

I for sing and you 第九話「触れ合い、和解する」

笑ってください。へへへ・・・・・・。

閲覧数:114

投稿日:2009/03/27 21:49:00

文字数:4,080文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました