僕は決して彼女の事を、忘れていた訳じゃない。
聞き苦しい弁明だと、そう思うのなら聞かなくてもいい。
けれど。
あの少し癖の強い髪も、負けん気のある鳶色の瞳も
確かに僕にとっては必要なもので

すぐ意地を張る癖に寂しがりやで
僕と喧嘩した後に、部屋でこっそり泣いてたことも知ってた。
その危ういバランスが、頼りなくて。
僕が隠しておいたお酒も飲んでしまうし。
それでも、決して自分から先に謝ろうとしない意地っ張りなMEIKOに
僕は必ず謝って、仲直りをした。
心の底では、全く仕方ない、なんて言いながら。
喧嘩の数だけ、それを繰り返した。

それでも、そんな彼女の歌声はとても伸びやかで、力強く
何よりも綺麗だった。
世界に音が染み込んで溶けていく。その音の広がりを、ちょっと一言では言い表せなかった。

今思えば、そうやって思ったままをただ口に出して言えばよかった。
恥ずかしいだとか、今度、今度とばかり思って。
録音中にとる「よかったよ」ではなくて
MEIKOの目を見ながら
「綺麗だ」ってはっきりと。

それなのに。そんな簡単なことだったのに。

僕は彼女が、いつでも、ずっと、居るかのように甘えていた。

幸せなんてものは捕まえていないと逃げていってしまうという至極簡単なことすら忘れていて。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

メイコの消失

MEIKOを購入した日から、マスターはボーカロイドで歌を歌わせることに言いようもない感動と楽しみを覚えていく。二人で、新曲をどんどん作った。
動画サイトに上げ始めたのもその頃。物珍しさからコメント数や再生数は多かったものの、満足できない数字の日も多かった。
『一緒に頑張ろうね』
そうMEIKOに笑いかけると、MEIKOは少し照れたように、マスターなんかに私の本気が出せるかしら、と笑った。

けれど、キャラクターボーカルシリーズ01、「初音ミク」が発売され購入すると、機能性のよさや、キャラクターのブームに乗っかることで、ミクの曲ばかりコメント数も再生数が増えていった。
必然段々とMEIKOを使う曲が減っていく。
起動することさえなくなっていったMEIKOは、やがてプログラムの奥に追いやられて。

そんなある日、1年ぶりにMEIKOを起動したマスターは
MEIKOのソフトにエラーが発生することに気付いた。
簡単なエラー。だけど、これを治すにはたった一つだけ。

『データを全部消去すること』

けれどマスターは、ボーカロイドの楽しさを気付かせてくれたMEIKOの記憶を削除することができない。
今まで何年も、曲を作ってこれたのはMEIKOとの辛い時代があったからこそだった。
それに。

いつか、マスターはMEIKOでランキング一位をとるのが夢だった。
MEIKOのことを決して忘れた訳じゃなかった。
ミクも勿論大切だったけれど、ずっと一緒だったMEIKOは、特別だった。
だから実力をもっと上げてから、最高の曲でMEIKOを使おうとマスターは考えていた。
でもこのままじゃ、MEIKOは歌えない。ボーカロイドにとって歌えないということは「存在する意味がない」ということ。
MEIKOは泣きながらマスターにお願いする。
「私を、歌わせて」と。
マスターはできないと首を振りながらも、何年も共に過ごしてきたMEIKOの涙を見て、自分も泣きながら強制終了のボタンをクリックする。
最後にMEIKOは、0と1に分解されながら感謝の言葉を残して消えた。
一年間もエラーに気付かなかったのは自分なのに。
MEIKOは何も悪くなかったのに。




……っていう妄想からできたポエムです。
最早色々でっち上げすぎて突っ込みどころ満載ですが。

※問題があったらすぐ削除します。

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閲覧数:292

投稿日:2008/08/21 04:46:13

文字数:550文字

カテゴリ:小説

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