夕飯を終えると、グミは席を立って、携帯電話を開いた。
電話ではなくメールをしているようで、しばらくたって携帯電話を閉じると、グミは少しそわそわしながらソファに座った。
レンは気にしていない様子で食器を食器洗い機にキレイに並べ、慣れた手つきで操作した。
しばらくして、携帯電話が鳴って、グミはすばやく届いたばかりのメールに目を通した。そして、少し不満げに眉を顰めた。
同じ頃、リンも携帯を弄って、メールをしていた。
「何のメールだ?」
後ろからリントが覗き込もうとすると、リンはそれを察知して、携帯の画面をリントに見えないように隠した。
「覘きで110番するよ!?」
「やめろ!!」
リントはさっと後ろにひいた。両手を胸の辺りまで上げて、自分は無関係であることを示した。
そんなリントの様子を見ながら、リンは、数日前にやっていたテレビの、痴漢の疑いをかけられた人を思い出していた。
「リント君痴漢疑惑…っと」
「今聞き捨てならん言葉が聞こえた」
流石に食器洗いまでさせられない、と、グミヤは渋るレンカにソファとクッションを勧め、キッチンに立っていた。
「グミヤ君、やっぱり私…」
「いいって。これ以上やらせたら、後で俺が怒られるし。テレビ見ててもいいから…」
「そう? なんか落ち着かないなぁ、こういうの…」
そういったレンカの携帯が、突然なった。レンカはいつに無く素早く、普段の彼女からは想像もできないような反応で、携帯をとり、開いた。
その様子を見たグミヤは思わず手を止めていた。
対して、レンカは少し不安そうに携帯の画面に目を走らせ、最後にぐっと怪訝そうな顔をして、操作を始めた。流石にメールの早打ちには慣れていないらしい、もたもたしながら、一生懸命に文を打ち込み終わると、まるで祈りでもこめるように思い切って、送信ボタンを押した。
レンカっていつも、こんな風にメールしてるんだろうか。ふと、グミヤはそんなことを思ったのだった。
そうして、それぞれの夜が更けていった。
次の日の昼休み、屋上に六人が集合するなり、女子達が集まって、男子達と距離を置いた。
「グミヤ、おまえんとこ大変だな。一日預かってよくわかった」
「レンカが家事やりたがって、おさえるの大変だった。リント、お前たまには手伝えよ?」
「俺は別に困らなかったな。料理はリンが出来て驚いたけど」
「うわ、何その境遇の差。結局一番面倒だったの俺じゃん」
「リント君は痴漢なんかしないよぅ」
「覘いたんでしょ?」
「携帯を、だけどね」
女子達は、夜のうちに近況報告として送りあっていたメールの内容から、なにやら談義に入ったようだった。
まずはリントとリンのペアのことかららしい。
「リント君料理できないの? 豚の餌ならってどういうことよ」
「うーん、確かにリント君お料理はあんまり得意じゃないような…」
「それくらいならあたしだって作れるよー」
「豚のえさ?」
そうだよー、とグミが言うと、リンが豪快に笑った。
レンカは静かに、寧ろ作るの難しいと思うの、と言ったが、リンは笑うばかりで、答えなかった。
「ミヤはどうだった?」
「あ、グミヤ君はとっても優しかったよ」
「メールの文面を見る限り、割合まともな反応してたんじゃない」
「あたしのときより優しいような気がするんだけど」
「結局私、晩御飯作るのしかしなかったし…」
「いや、しなくていいと思うよ。お客さんなんだからさ」
リンとグミが突っ込みを入れたが、レンカはどうやら素で、家事をこなさなければならないという、強迫観念に似たものを持っているようだった。尚も困ったように眉を顰めている。
「レンは?」
「レン君はねー、ダメ」
「ダメっ?」
「ビーフストロガノフ作れなかった」
「あー、あの番組。普通作れないと思うなぁ」
「じゃあレンカちんもつくれないの?」
「一応、作れはするけど…」
「作れるんだ…」
どうやら三人の中ではリンが突っ込み役を担っているらしい、先ほどから二人の妙にずれた所を、しっかりと指摘していく。
とりあえず昨日のことを報告、審議し終えると、三人はぐっと顔を近づけて、頷きあった。
ここからが『第二段階』だ。
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