どこへ行こうか。
晴れた空を見上げルカは考えた。乾いた風が吹き流れ、乱れる髪を片手で押さえる。気温は高いが湿っぽくないので心地は良い。気になるのは風に混じる砂の感触くらいだろうか。これでは例え汗をかかなくとも毎日風呂に入らなければあっという間に汚れてしまう。
頭を振るとぱさついた髪が頬を、剥き出しの肩をくすぐった。
今しがたまで立っていた廃墟の上から軽やかに飛び降りる。たん、とヒールの立てる小さな音。
乾いた街に建ち並ぶ建造物は全て白っぽい石でできていた。触れれば当たり前に硬いが、長い時の流れに耐えかねたらしくそのほとんどが大なり小なり崩れてしまっている。人の一人もいなくなったこの街で水場が枯れていなかったことが奇跡だ。水浴びには事欠かなかった。その他には何も無くとも。
「どこへ行こうか」
同じことを、今度は言葉にしてみた。ごく小さな呟きだったが耳ざとい同行者には拾われたらしく、倒れた柱に腰掛けさも退屈そうに両足をぶらぶらと揺らしていたミクが顔を上げた。
「まだ決まらない?」
「うん」
「あ、そ」
呆れたように諦めたように、ミクもまた空を仰ぐ。彼女らの頭上、青の他には何も無い。
「北か南か東か西か――西から来たんだから残り三方向のどれかでしょ。考えたってどうせ何があるかも分からないんだし、さっさと出発しようよ」
「うん」
「……」
中身のない返事にそれ以上の追求はしない。ミクが急かしたところでルカの答えが早まることはないと分かっているから、それ以上無駄なエネルギーを使うことはない。
二人とも手荷物の類は持っていなかった。着ている服の他に何も持たない。身軽な旅をしていた。抱えるもののない、残していくもののない、目的もない旅は何も生まないが何も失わせない。身軽なのは物理的な意味だけではなく。たださすらう二人がいて、朽ちかけた白い街があって、乾いた風が砂を運ぶ。その現実があるだけ。
「どこへ」
三度目のそれをルカは途中で区切った。ひと際強い風が吹く。淡い桃色の髪が重力の制約を振り切り、流れる。
「どこへ行けば」
ミクは彼女へ視線だけを向け続きを待ったが、それきり言葉は完結してしまったらしい。「北にしよう」と唐突にルカは言った。「北」その方向を指さす。
待ち望んだはずの答えを手に入れ、ミクは微笑んだ。風に髪を揺らしながら。
「思い出したのかと思った」
「え?」
「何でもない。北ね」
柱から下りてスカートの後ろを払う。
「行こう。早く次の街を見つけて、柔らかいベッドで眠りたいし」
頷く桃色の髪の女は知らない。目的のないこの旅が、どうして始まりどうして続いていくのか。
緑の髪の少女は知っている。相方が忘れてしまった全てを。自分たちが失ってしまった全てを。
どちらからともなく手を繋ぐ。
誰もいない街で。
誰もいない道を。
誰もいないどこかへ向けて。何も無い旅をする。
終わった世界の片隅で、踵が小さな音を立てる。乾いた音だった。
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