13.
まずい。
いや、なにがまずいって、半年も更新を途絶えさせてしまったことだ。いや違う。半年どころではない。違う違うそうじゃない。また話をなにも進めないままに一話を費やしてしまったことだ。
確かに、読者の皆さんが考えている通り、実際にはグミが泣き出した直後なので、半年とか一体なにを言っているのかまったく意味のわからない発言でしかないのだが……いやそうじゃなくて。……えーと、原曲の設定を消化できたという意味では、なにもできていないわけではない。だが、この調子では本当にいつまで経っても終わらなくなってしまう。
いくらなんでも、このままダラダラしていてはまずい。
みんなに続きを書くことを諦めたのではないかと思われてしまう。そんなことはない! そんなことはないのだが……っていや違うそうじゃなくて。
そう、少しでも話を進めなければ。言い訳など欄外でいくらでもできるのだから。
「そういえば、早いうちにあの変態がまた来た時の対策をたてておかないとね」
焦りが周りの皆に悟られないよう、私は慎重に、けだるさを装ってつぶやく。
「そうでございますね。奴の去り際の『出直す』という言葉からすると、また現れる可能性は非常に高いと言えるでしょう」
泣き止んだグミは、目を赤く腫らしたままで淡々と意見を述べる。ちなみに、彼女も自分の天ぷら定食をるかにあげていた。初音さんも刺身のほとんどをあげている。なにがすごいって、それはもちろん、忍者るかの胃袋に決まっている。おかげで「後でスタッフがおいしくいただきました」というテロップも必要なくなったし。
「ええ。一日、二日で監視カメラやセンサーをつけられるわけでもないし、警備を厳重にするにも限界があるわ。そして、私たちが持っている一番の戦力であるこの自称忍者よりも、実力は向こうの方が上よ」
「拙者、自称ではござらん。本物の忍者なのでござる」
お馬鹿さんを無視する私たち。
このお馬鹿さんの実力が、あの超変態よりも上だというのなら相手をしてやってもいいのだが。いかんせん、実力が半端だ。正直言って、考えてはみるものの、対策など打ちようがない。
「防ごうにも、先輩のおっしゃるような実力があったりしたら、防ぎようがないですよね……」
「そうなのよね……」
「じゃ、じゃあおびき出すっていうのはどうですか? わざと窓の外から見えるような場所で、あえてせくしーな格好をしてみるとか!」
初音さんが閃いた、という風に手をパチンと打ち鳴らして提案するが、私は首をふる。
「おびき出したところで、あんなものを捕まえられると思う? 私たちに今ある武力は、るかと袴四人衆がせいぜいのところよ。昨日の時点でそれがまったく太刀打ちできなかったのだから、囮役が本当の被害者になるのがオチだわ」
そう言って、初音さんは昨日の変態との絶望的な実力差を目の当たりにしていないことに気付いた。
「で、でもでも。それでも、ちゃんと準備すればもっと巡音先輩の有利な状況を作り出すことが出来ると思います! えっと、その、なにをどうしたらいいのかはわからないですけど!」
力強く宣言する初音さんに、私は力ない笑みを向けた。
「まあでも本当、それくらいしか手は見当たらないわね……。勝てる気はまったくしないけれど」
「拙者が本気になれば、あんな奴はなんてことないでござるぞ!」
ラーメンとすき焼きと天ぷらのつゆが入った器を、とても綺麗に舐めていたるかが、ちょっと憤慨しながらそう言う。冗談もほどほどにして欲しい。
「あら、そうなの?」
私は怒りを押し殺しながら、手を伸ばしてるかの髪の毛を掴む。
「あ、あの、御館様。ちょ、その、痛いでござる……」
「それじゃあ、昨日は本気を出していなかったというのね? 私の当初の依頼が達成できなかったのは、手を抜いたからだったって、そう貴女は言うのね?」
私の怒気溢れる言葉に、るかはようやく自分の失言の意味がわかったらしい。るかの髪の毛の、そのおだんごの部分を鷲掴みにして私がテーブル越しに無理矢理引き寄せているので、かなり無茶な体勢になっていて苦しそうだ。
「え、うあ……。そういう、意味ではないのでござる」
「じゃあどういう意味なのか、説明してもらいましょうか?」
「ええと、その、御館様。それは……」
私の睨み付けるような視線に、るかはその両目が恐怖に引きつって空中をさまよう。
「これだから能なしはこま……ん、つい……またやってしまったわ」
「……!」
「……!」
思わず口に出しかけた……というか、ほとんど漏らしてしまった本音に、るかと初音さんが絶句した。グミは聞こえていたのかいないのか、うつむいてハンカチで目元をぬぐっている。うーん、私も気をつけなければ。
と、ちょっと気まずい空気が流れたところで、タイミングよくグミが顔をがばっと上げた。その勢いでオレンジのメガネが一瞬宙に浮き、また同じ定位置にぽんと乗った。ある意味で職人芸のような技だ。もしかして、あの変態のマフラーのように、彼女のメガネにも世界の意志が働いているのだろうか。
「お嬢様、思いつきました!」
「な、なにを?」
その、彼女のもの凄く真剣なまなざしに、思わず言う必要のない質問をしてしまった。
「あの者の寮内への侵入を防ぐ方法でございます!」
グミは、あろう事かひたいが定位置だったはずのメガネを普通に目元にくるようにかけ、知的な雰囲気を醸し出そうとする。いや、まるで彼女は知的ではないような言い方になってしまったが、実際には彼女の成績はかなりいい。学年で五本の指に入るほどだ。試験の平均では私とコンマ三、四点ほどしか違わないのだから。
「……どうするの?」
メガネをひたいに載せているのが彼女の標準であるだけに、メガネ姿が似合っているはずなのに似合っていないように感じてしまう。青白い顔とオレンジのメガネという配色が問題なのだろうか。
グミは右手でその位置を整える。なんだか「頭のいい人」的な態度をとっているが、私には嫌な予感しかしない。
「女子寮生は、椿寮内では下着姿で生活すればよいのです!」
拳を握りしめ、グミがきっぱりと言い切った。
Japanese Ninja No.1 第13話 ※2次創作
第十三話
いやもうホント申し訳ありません。
もはや皆様に存在を忘れ去られていても文句のしようが無い文吾です。
こんなに期間が空くはずではなかったんですが……。
主な原因は、仕事があまりにも忙しくなってきたことと、この先の展開がどうにも浮かばなかったことの二点でした。
先の展開については、この回にもいろいろと伏線を張っているのですが、なんとか話がまとまる方向に行きそうです。具体的に言えば、二十数話で完結になるかと思います。
仕事の方に関しては、仕事量の減る雰囲気がまったくと言っていいほど無いです。今回載せられたのは、ちょこちょこと書いていたのもありますが、一週間の夏休みがあったことが大きいです。てゆーか仕事量が増えるのに従業員が減るってどういうこと……。ブラック企業では無いと思っていたはずなんですが……。
……。
そんなわけで、今後も三話ずつ掲載していると、また信じられないくらい期間が空きそうなので、次回からは一話ずつの掲載にしていこうと思います。
一話ずつなら、きっと忘れられる前に掲載出来ると思います。
あと、今回も文字数でオーバーしたので、続きは第十四話にいく前に、前のバージョンからお願いします。
「AROUND THUNDER」
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