出るはずのない涙も、確かに心に落ちたのです

主の見つからない僕を、優しく手にとってくれたのはあなたでした

薄汚れたタグも埃のつもったケースも気にせずに、嬉しそうに笑ってあなたは僕を手にとって　

埃を払ったケースから僕をとりだしたあなたは

僕を持ち上げ抱きしめて

青のリボンを凸凹な僕に結びつけた

でもある日からあなたは僕に話しかけず触れず目を向けず

少し小さく見えるようになった赤いカバンを背負って毎朝出ていき

ただいま　も　おかえり　も僕に囁かずに

只机の横に置いておくだけになりました

埃をかぶって少し色あせた僕を

見たことのある女の人が暗くて小さな箱に収めたあの日

確かに涙は僕から零れ落ちたのです

揺れる揺れる暗闇の中で

こぼし続けた涙は

透明で　見えなくなりました

箱からでても眩しい世界は現れず

僕は薄暗い部屋の中で

また新しい主を持つ為に

歪な体を乱暴に洗われるのです

あなたが結んだ青のリボンは

埃で汚れた水の中に

深く深く沈んでゆきました

透明な僕の涙も汚れた水の中で

静かに静かに溶けてゆきました