4.黒い渦の中で
やがて荒野に大きな爆発音が響きわたる。その音の方角がやたらまぶしく光っている。
シンデレラがそこに着いた時には、事のほとんどが終わっていた。
けむり、におい、村が襲われたときに状況は似ていたが、その規模は比にならない。
惨劇、その中心に弟がいることは明白だった。
「ロミオ……」
しかし、弟の姿を見つけることができない。
「Gaaaaaaaaaaaaa」
恐ろしい怪物の咆哮のような大きな叫びがあたりにが響いた。
シンデレラは自分がいる所から少し離れた丘の上に激しく乱れる黒い雷を見つけた。
「!?」
丘のふもとまで辿り着いたシンデレラは思わず立ち止まる。
「なに コレは?」
台風? 竜巻? 丘の頂上を中心にあらゆるものが渦巻いている。
砂、剣、鎧…どれもが高速で回転する黒い渦の流れにのっかり、まるで近づけそうにない。
しかし、その中心である丘の頂上には確かに黒い光が強く輝いている。
「ロミオ ロミオー」
渦の外からシンデレラは叫び続けた。
しかし、渦の出し続ける轟音により、その声はむなしくかき消されてしまった。
何分経っただろう。シンデレラはなす術もなく、ただ無為に弟の名を叫び続けた。
やがて、渦の周辺の温度の変化をシンデレラは感じ始めた。
渦の回転も速くなったり、遅くなったり不安定になり始めた。
渦がほんの少し緩やかになった一瞬、シンデレラは中心にいる弟の姿を確認できた。
苦しく叫び続けるロミオの体から煙があがっている。放っている光はますます強くなっていた。
シンデレラはこの状況を過去に見たことがあった。
――メルトダウン
「ロミオーーーーー」
次の瞬間、シンデレラは我が身もかえりみず、渦の中に飛び込んだ。
飛び交う剣、高速で飛び交う砂までもが
シンデレラの体をたちまち切り裂こうと立ちふさがった。
「邪魔するなーーー」
シンデレラの体から赤く輝く雷が放たれる。
やがて、少女の体の周りを赤い渦が覆う。
切り裂こうと立ち向かう剣や砂はその渦に触れると、、
途端に溶けて少女の元までたどり着くことはできなかった。
「ロミオ、ロミオ、ロミオーー」
弟の名を叫びながら、やっと弟の近くまでたどり着いたシンデレラは、
自らの命を守ってくれている赤い渦を消してしまった。
このままでは自らの力で弟まで傷つけしまうとシンデレラはわかっていた。
とたん、今まで攻めあぐねていた周囲の凶気が少女に襲いかかる。
みるみる少女のか細い体は傷だらけになっていく。
それでもシンデレラは歩みを止めなかった。
その目は渦の中心で苦しんでいる弟だけを見つめていた。
「ロ ロミオ……」
渦の中心、弟のもとにようやく到着した姉の体はすでにボロボロだった。
ロミオの体は直視できないほど強く輝き、今にも融解してしまそうだ。
シンデレラは力いっぱい叫ぶ。
「ロミオー この力…抑える…だ…じゃないと…あんた…きえちゃう 」
周囲の轟音で自分の出す声すらまともに聞き取れない。
ロミオはもう苦しむ声すらもあげていない。
己の力の暴走に力なく身を任せてしまっている。
「このままじゃ……」
混乱の色に染まっているシンデレラの目。
しかし、やがてその目は決意の色に染まっていく。
シンデレラは今いる位置からロミオから離れるように数歩下がった。
そして、深く、深く、深呼吸をする。
左手のひらをロミオに向け、右手をグッと握りしめる。
腰を少し落とし、軽く足を開いた。
そして、再び深く、深く、深呼吸をする。
再び、シンデレラの体が赤い雷の渦に包まれる。
「おねがい うまくいって……」
シンデレラの体を包む赤い光の渦が次第に強くなっていく。
目の前には今にも消えてしまそうな弟の姿。
はぁーと息を吐き出した。次の瞬間――
シンデレラの右こぶしは、弟の胸の中心へと一気に振り落とされた。
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