「ソード隊、発進準備を開始せよ。」
無線に管制官の声が聞こえてきた。
深夜00:00時、遂に運命の刻はやって来た。
整備員から敬礼と激励の言葉を受け、俺は機体のコックピットに乗り込んだ。
計器類を操作し、アビオニクス灯が灯る。
命を吹き込まれたエンジンから猛獣の咆哮のような作動音が鳴り響く。
兵装コントロールパネルを見ると、空対地ミサイルのハープーン一発のみ。
「お持ち帰りは厳禁。」
そんな落書きがミサイルに施されているに違いない。
無論、持ち帰るつもりは無い。
全てを終わらして全員揃って水面基地に生還する。
それ以外は眼中に無い。
部下の三機、ロンチ隊の機体も轟音を響かせ始める。
まだか・・・許可はまだか・・・・・・。
この作戦は、どうということはない。敵のレーダーにこのミサイルをお見舞いし、Uターンして帰還すれば、全てが終わるんだ。そして、全ての真実が明らかとなる。
だから・・・・・・だから早く行かせてくれ!
「ソード1、第一エレベーターへプッシュバックします。」
急かす俺の期待に応えるかのように、トラクターが機体をエレベーターへと導いていった。
「今ごろ、ミクどうしてるかな・・・・・・。」
「あんた、もう寝たほうがいいよ。」
「やだ。」
「心配なのは分かるよ・・・。でもぼくらには待つことしかできない。」
「・・・・・・。」
「ミクは、必ず還ってくる。タイトさんも。」
「あんたに言われなくても分かってるよ。」
「・・・ミクが還ってきたら、この前の続きでもする?」
「・・・・・・なんで知ってんの。」
「この前の夜、空母の上で見た。」
「あっそ・・・・・・。」
「ワラ・・・・・・ぼくもミクに還ってきてほしい。」
「はぁ?何言ってんの・・・・・・。」
「ワラ・・・・・・昨日は、言い過ぎたよ・・・・・・ごめん。」
「いいよ、もう。」
「・・・・・・。」
ミクとタイトさんが無事で帰ってきてくれればそれでいい。
そして、ミクにちゃんとお別れを言いたい。
この先どんな辛いことがあっても、ミクのことだけは忘れない・・・・・・。
「キク・・・・・・こんなところにいたんだ。探したよ。もう夜遅いから部屋に戻らないと。」
「タイト・・・・・・待ってる・・・。」
「・・・・・・大丈夫だよ。タイトは絶対戻ってくる。それまで、少しだけ我慢しよう。ね?」
「・・・・・・。」
「さあ、部屋に戻ろう。」
「ひろき・・・。」
「ん?」
「寂しい・・・・・・さ・・・びし・・・い。」
「ああ、そうだね。」
「た・・・い・・・と・・・・・・!」
「キク泣かないで。タイトは明日には還ってくるから。」
「でも・・・・・・でも・・・・・・!」
「大丈夫だって。」
「うぅ・・・・・・。」
「・・・・・・拭いて。」
「・・・うん。」
「戻ろう。」
「・・・・・・・うん。」
ミクとタイトが還ってきてくれれば、全ては終わる。自由になれる。
でも、それはあくまで僕とミクの話。タイトとキク達は永遠に兵器なんだ。
自分達だけ自由になる僕は、卑怯者だ。
「フライトクルーからコントロールへ。カタパルト装着中。第一、第二、第三、第四・・・・・・全て完了しました。」
「油圧、電圧、進路、全状況グリーンゾーン。」
「こちらフライトデッキ、発艦準備完了。」
「ソード1、発艦を許可する。」
「ソード1了解。」
スロットルを押し込む。
それと同時に、凄まじい衝撃が体を襲い、スペースシャトル発射時の三倍の
推力で、三十トン以上ある機体が、漆黒の空へと打ち出された。
部下達が続いて上がってくる。
そしてロンチ隊も。
「発艦を確認。今から一直線に、ウェイポイントAへ向かえ。ここからおよそ十キロ先だ。ブリーフィングでも説明したが敵のレーダーに捉まらないよう、高度を五百メートル以下に保て。低被発見性を重視し目標付近に到達するまで無線を切れ。」
AWACS、ゴッドアイの声が途絶えた。エンジン音しか聞こえなくなった。
ここから先はかなり低空を飛行する。
これも、どうということはない。
海が途絶え、陸地が迫ってくる。
森だ。森がある。山岳もある。
五百メートル以下、か・・・山よりも低く飛べということか。
簡単だ。
そして、俺達九機は山々の間に突入した。
速度は、時速七百キロ。
超音速巡航でマッハ3まで上がるが、それだとロンチ隊のホーネットを置いてけ堀にしてしまう。
まあ、これくらいスローな速度なら衝突の心配はまずない。
木々、岩肌が目前に迫ってくる。目前を一瞬で通り過ぎていく。
低空を知らせるアラームが鳴り止まない。
なおも地表が眼前に絶え間なく現れる。
目線数十メートルにある障害物を、驚異的な動体視力と反射神経で識別、回避する。
ロンチ隊はこれができるのだろうか。
いた。大尉の機体だ。
俺の背後に付いて離れない。
やはり大尉も・・・強化人間?
徐々に山々が開けていく。
そのとき、再びゴッドアイからの無線が入ってきた。
「ウェイポイントA到着。各機、目標を攻撃せよ!」
目標・・・・・・山岳の頂に位置するあのパラボナ・アンテナだ。
山々の下側に何かの施設が見える。
今、あそこに核撤去のための陸上自衛隊の陸戦隊と、それの突入経路を確保するためのタイトがいるはずだ。
タイトは、俺と話をして別れた後にすぐにヘリへ乗り込み、サンドリヨンのヘリポートへと向かっていった。そのあとは知らない。
「生きて還ってきてやるさ。」
とだけ言い残して・・・・・・。
「空対地モード、オン。レーダー、ロック・・・・・・。」
アンテナに照準をあわせる。
アラームが鳴り響く。
これで、全てが終わる。
「ソード1、フォックス2!」
ウェポンベイから解き放たれたハープーンが上空高く舞い上がり、一直線にアンテナへと舞い降りた。
その瞬間、アンテナが炎を上げて吹き飛び、暗闇が赤く照らされた。
「やった!」
「よっしゃ!俺も!」
「ファランクス、フォックス2!」
次々とミサイルが舞い降り、夜の闇を赤く照らした。
そして、全てのレーダーが炎と共に消滅した。
「終わった・・・・・・。」
「よし!あとはズラかるだけだ!!」
「まて、ソード隊、ロンチ隊。こちらゴッドアイ。たった今、地上部隊から緊急連絡を受けた。核の発射機能を完全に無力化するためには、施設内部にある管制装置を破壊しなければならないとの報告を受けた。現在、地上部隊が地価へ通じるトンネルのゲートを開ける。トンネルから内部へ侵入し、管制装置を破壊せよ。脱出経路も確保してある。」
俺は耳を疑った。
トンネルに戦闘機で入れだと?!
いくら強化人間でも、不可能だ。
戦闘機で不可能なら・・・・・・。
「ミク!」
「隊長・・・・・・!」
ミクのサイズなら、十分に可能だ。
ここはミクに頼むしかなかった。
「頼む!」
「分かった!」
山腹にある施設の、灰色のゲートが開かれるのが目に入った。
その中へ、ミクが吸い込まれるように入っていった。
「ゴッドアイから作戦参加各機へ、ここはソード5に任せ、急ぎ帰投せよ!」
ミク・・・・・・必ず還って来い・・・・・・!
トンネルの中は、一応光があった。
ずっと灰色のトンネルが続いている。
「ソード5。あと五百メートル先だ。」
だんだん何かが見えてくる・・・・・・。
すると、何かの大きな機械が目の前に現れた。
一度、そこで空中停止する。
「ソード5、それが管制装置だ。破壊せよ。」
「了解。」
レールガンを起こして、チャージする。
レールガンが青くひかり、発射ができるようになる。
そして、機械にレールガンを撃ち込んだ!
機械が爆発して、炎を上げた。
「よくやった!ソード5、急ぎ帰投せよ!」
「分かった!」
すぐに振り返って、今来た道を戻る。
そのとき、
「こちらゴッドアイ。地上部隊から連絡が途絶えた。」
「何だって?!」
「シック1からもだ。」
タイトも・・・・・・?
いったいどうして・・・・・・?
「わたしが今すぐ探しに行く!」
「だめだ!帰投せよ!」
「でも!!」
そのとき、トンネルの上から壁が降りてきた。
「ソード5早く脱出しろ!!シャッターが下りていく!!!」
「くっ・・・・・・!」
わたしは出口へ急いだ。
そして、トンネルから外に出たとたん、シャッターが閉まった。
「間に合った・・・・・・でも、タイトが!」
「ソード5、帰投せよ。」
そのとき、トンネルがつながっている建物が光った。
「えっ・・・・・・?」
建物が、爆発してる。
どんどん吹き飛んでいく。
目の前が真っ赤になっていく。
「何だと?!何があった?!ソード5、退避しろ!地上部隊、応答せよ!!」
わたしの目の前に、炎が迫った。
「うわぁぁぁぁあああああああ!!!!」
熱い・・・・・・!
体が空に吹き飛ばされた。
空中で何とか姿勢を直した。
「そんな・・・・・・。」
建物が、山ごと燃えていた。
建物も山もみんな吹き飛んで、炎だけがそこにあった。
「そんな・・・・・・。」
あそこには、タイトが・・・・・・。
「そんな・・・・・・。」
タイト・・・・・・タイトが・・・・・・そんな・・・・・・!
「タイトぉーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「!」
「キク、どうしたの?こんな夜中にまた・・・・・・。」
「た・・・・・・い・・・と。」
「え?」
「・・・・・・。」
「何だ。寝言か・・・・・・。」
そのとき、脳裏に不吉な予感が通り過ぎた。
まさか・・・・・・いや、そんなことは・・・・・・。
興国領内から逃げ出す俺達を追跡する戦闘機は皆無だった。
任務を達成したあと、俺達は一直線に雪峰を目指していった。
そのときだった。ゴッドアイからの通信で、「地上部隊とシック1から連絡が途絶えた。」との報告を受けた。
俺の頭の中に、不安が芽生えた。
それの一分後だった。
「核発射施設が大爆発を起こした。」
再びゴッドアイからの通信だった。
俺はよく理解できなかった。
何故施設が大爆発を起こしたのか?
核はどうなったのか?
でも、着艦フックを空母のワイヤーが捕らえた振動でやっと目が覚めた。
タイトは・・・・・・爆発に巻き込まれ・・・・・・恐らく・・・・・。
俺が追加した任務達成目標は、達成されることはなかった。
「・・・・・・これより、デブリーフィングを終了する。」
大尉の悲しみに満ち溢れた声で、帰還報告が終了した。
ブリーフィングルームから出て行こうとした、そのときだった。
「うっ・・・・・・くっ・・・・・!」
少女のすすり泣く声が聞こえた。
振り返ると、ミクが床に泣き崩れていた。
先ほどまで黙って下を向いていたミクが、タガが外れたように。
「み、みくちゃん・・・・・・。」
朝美が、目からぽろぽろと涙を流すミクを慰めようとした。
だが、朝美自身もいまにも泣き出しそうだった。
「タイトが・・・・・・タイトがぁ・・・・・・!」
「まだ、死んじゃったって決まったわけじゃないよ。救出部隊が見つけてくれるかも知れないじゃん!」
救出部隊など、送れるわけがない。それは朝美も知っている。
だが、そう言ってやるしかないということも知っている。
「さ、立とう。これで涙拭いて。」
「あっり、が、とっう・・・・・・ぅうぁ・・・。」
声を嗚咽に遮られながらミクは礼を言った。
そして、朝美のフライトスーツの胸を涙で濡らした。
皆、その様子を黙って見つめ続けていた・・・・・・。
今、分かった。
真実になど何の価値もないと。
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