私はミクとイアちゃんの読み聞かせを、子供たちの後ろにまわって、一緒になって聞いていた
今日のお話は「白雪姫」
美しい姫が7人の小人と出会い生活していく中で、嫉妬深い魔女に毒りんごをたべさせられ、王子様のキスで目を覚ますという定番と言えば定番なお話
二人とも緊張はあるものの、はじめてにしては、結構出来ている
ミクは練習の成果が出ているし、イアちゃんもいつもの彼女よりは表情がやわらかい気がする
ただ……
私が話を聞いている子供に目を向けると…あくびをしている子がいた…
おそらくつまらないのだろう…
「つまんなーい」と言わないだけ、まだマシなのだが…時間の問題な気がする
この状態には半分ほど私に責任がある…
というのも、普段の私の読み聞かせは…「適当」なのである
つまりそれは、即興のアドリブを取り入れたものだが…
ここにきている子供たちは、私のその「適当」を楽しみにきてくれている
一応、ミクたちにも「ある程度スパイスをきかせてね」とは言っておいたけれど…
いまのところ、それほど刺激的なものはない
初めてで緊張していて、まして、真面目なあの二人にはそんな余裕はないのは無理もない
「7人の小人と楽しく暮らしていたある日のことでした…」
ミクがその一文を読み上げたとき、一人の子供が立ち上がって児童書のコーナーに向かっていった
それをみた数人の周りの子供たちも、芋づる式に立ち上がり始めた
「ちょ、ちょっと、みんな、どこにいくのかな?お話は続いているよ?」
私は慌ててその子たちの前にまわって、彼らにたずねる
【だって…ふつうすぎて、つまんないんだもん…】
ああ…ついにいっちゃったか…
読み聞かせを中断して、その様子をみていたミクは唇をかみしめ、イアちゃんは目をそらしていた
【ねぇ、お姉ちゃんがよんでよ!あの人たちつまらない】
……この子たちには、決して悪意はない
普通の話なら家や学校でいくらでも見ることが出来る
見るなら面白いものがいい…ただそれだけ…
ゆえに…だからこそ、その言葉は二人の心に突き刺さっているに違いない
私だって…とても心が痛い…あの二人のここ最近の努力を知っているから…
二人が今、どんな顔をしているのだろうか……こわくてそちらを振り向けない
少しの間の沈黙は…ある人物の意外な行動でやぶられる
「ヒッヒッヒ…お嬢さん、この林檎を食べてみたくはないかい?」
その言葉を発したのはミク……
本の前に立ち、自分のハンカチを丸め、手に取りイアに差し出している
辺りがポカンとした空気に包まれ、ミクに視線が集まる……もちろん、私も…
(ほら、イアさん!白雪姫の役!あわせて!)
小声でそう言われたイアちゃんはハッとして…
慌てて本の前にでる
「ま…ま、まぁ!なんておいしそうな林檎でしょう?いただいてもよろしいのですか?」
「ええ…どうぞ、そのままガブリといってくださいませ…ヒッヒ」
ミクが魔女、イアちゃんが白雪姫……
「では、一口……う、あ……ああ……」ばたり
イアちゃんが苦しそうな演技をして、その場に倒れる
そのいつもとは全く違うイアちゃんの名演技に私は興味をひかれた
もちろん、児童書の方にいこうとしていた子供たちも……
その後、私が王子様として参加し、魔女を倒し、白雪姫に口づけをして救った
本のストーリー通りの内容……いつもの「適当」がない、ききなれた、ありきたりな話
けれども、子供たちは興味津々に【見てくれた】
あの時のミクのとっさの判断が【読み聞かせ】を【演劇】に変えた
もし、悔しくて、あのまま読み聞かせをやめたり、私に頼ったりしたら……
もし、あの場でイアちゃんが演技を拒否したら……
あの二人は、いままでの練習を無駄にしたことだろう
「それにしても……あははは、ミクの魔女の笑い方、さいっこーーー、あはははははは、イアちゃんもあんなに演技できるなんて……あははははは」
「も、もう!!!笑わないでよ!必死だったんだから!」
「……もう二度とやりません」
自分の演技を思い出し、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも満足そうな二人
「あはは、ごめんごめん……でも、よかったよ。これが二人の読み聞かせの形だよ。私は適当にやることしか思いつかなかったからね。今日はお疲れ様!」
そういって私は二人に抱き着いた
三人の笑顔がそこにあった
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