「いいかい?」
おばあさんの、念を押すような声に顔を上げる。
「12時の鐘と共に、魔法は解けてしまうからね」
彼女はこくりと頷いた。
――きっと、やり遂げてみせるさ。
「流石だな、ばばあ」
彼女は微笑んだ。
魔法をかけられたのは、容姿だけではなかったの。
灰娘症候群。1
彼女は走っていた。否、逃げていた。
血に濡れた右手で、兵士に掴まれ、破けてしまったドレスの肩を押さえる。
――遂にやった。やったぞ!
そう聞こえてきた。
彼女の血走った眼が、ぎょろぎょろと周りを見渡す。
私はガラスを破る勢いで殴った。
――ここから出して――!!
そして彼女は言うのだ。
――馬鹿な奴め。魔女なんかを信じたばかりに。
ぎひひ、と下卑た笑いをこぼす。彼女は牙の生えた口をぐわりと開け、舌をだらりと下げた。
――もう12時だな。
それは、さっきまでの綺麗な冷たい声ではなく、私の身体に取り憑いた悪魔そのものの声。
私は戦慄した。
彼女は私を、私よりも素晴らしく演じ切った。
その唇は私が紡ぐよりも素晴らしい言葉の数々を数え、その声質は人々を酔わせる不思議な音だった。
だけどその喉は、嘘以外の言葉を口にしない。
上辺だけを仕立てた冷たい言の葉を、私は閉じ込められた鏡の中で、ずっと見ていた。
バランスの取れた美しい体躯も、長く伸びたブロンドの髪も、煌くティアラも、素晴らしく淡い色合いのドレスも、そして彼女が王子の腹部を貫くところも。
ずっとずっと、見ていたんだ。
リンゴーン、リンゴーン――……。
12回鳴り終えると同時に、私の体はがくりと膝をついた。
ぼろぼろと涙が零れる。私の身体が返ってきたのは嬉しいはずなのに、王子を刺した時の感触を、感情を、音を、見たものを、私の身体は記憶していた。
がたがたと体が震え、唇からは単語ともつかない音が流れてくる。
罪の意識が脳を蝕む。
違うんです。私じゃないんです。魔法使いのおばあさんが私に取り憑かせた、悪魔の仕業なんです。
誰が信じよう。
「う゛ぅ……」
歯の根が合わず、震える全身を抱き締める。
夜風に吹かれ、魔法で作られたドレスやティアラは脆く崩れ去った。
ただガラスの靴だけは、私が大罪を犯した人間であることを、無機質に証明している。
こんなもの、早く捨てなければ。
私は未だに笑っている膝を無理矢理立たせると、手すりに手をつき、歩き始めた。
お城の入り口の階段。白い大理石で作られたそれは、ひんやりと冷めている。
私の中では、全てが燃やし尽くされていた。
家族との思い出、継母が来る前の楽しい記憶が、写真のように心の隅に焼き捨てられている。私はその灰を、しっかりとかき集めた。
あの悪魔、よくもこんなひどいことを……。
「いたぞ!」
はっとして、後ろを振り返る。赤い兵隊服を着たその男性は、鬼のような形相で私を指差した。
「捕まえろ!!」
逃げなきゃ!
私は走り出した。全身が凍りそうなのに、罪を償うべきは私じゃない……そういう感情が、私の足を動した。
あの悪魔とは違う、熱い血が全身に指令を出して巡る。
ただ、
――逃げられると思うなよ。
あの声が、
ピシ。
足元で、
ビシ。
聞こえて。
バリン、という激しい音ともに、鋭い痛みが何度も何度も足裏に走る。
「いやあぁぁあ―――――――!!!」
バランスを崩した私は、急な階段をそのまま――……。
灰娘症候群。1
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カラスヤサボウさんとっても好きです(*σωσ)
リンでもレンでも調教がストライク///ぐぴゃ←
ということで漏れなく支援(`・ω・´)!
切な可愛い本家様↓
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13673226
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