「ん……」
「おはようミク」
目を開けて、少し顔を横に向けるとマスターが居る。
ベッドの端に腰を掛けて優しく寝転がっているミクを見てる。
窓から漏れる太陽の光がミクの目をチクチクと刺す。
いつの間にか朝まで寝ちゃったみたい。
上半身をゆっくり起こして、目をこする。
マスターの手には数枚の楽譜が握られていて、目の下にはちょっとクマがある。
「ミクのおかげであんなに時間が掛った曲が一夜で完成しちゃったよ」
マスターはニコニコと嬉しそうに楽譜をミクに手渡した。
「……出来たんですね」
ぺらりぺらりと楽譜をめくって目を通す。
「なかなか自信作なんだけど……どうかな?」
「……良いと思います」
マスターの明るい声とは真逆にミクは淡々と喋る。
「良かった」
微笑むマスターの顔を見たら、胸がチリチリと痛い。
「歌詞も出来たんですか?」
「まだ出来てないよ、これからだね。っと今日はバイトだから、そろそろ行くね」
「はい」
「お留守番よろしくね。じゃあ、いってきます」
「……はい、いってらっしゃいませ」
マスターはポンポンとミクの頭を叩くと、家を出て行った。
ミクは楽譜を握りしめて俯く。
家を出るマスターの背中を見送らずに。
一人になった部屋は静かで寂しい。
まるで世界にミクしかいないみたいな静けさ。
ミクはまた楽譜を見る。
「きれい……」
楽譜の上で美しく踊る音符はすごく生き生きしてる。
とてもきれいでそして悲しくも切なくも感じる旋律。
頭の中で旋律通りに奏でてみる。
「なんだか今のミクみたい……」
この曲には孤独を感じる。
でも、どこかで愛しい人を求める切ない想いがある。
ミクは寂しいんだ……
マスターの事をすごく求めてる。
マスターに甘えたい。マスターのもっと近くに居たい。
でも、それが出来ない。
だって音楽を求め追いかけるマスターは光輝いていて、ミクには眩しい。
ちっぽけなミクには大きなマスターが遠い。
初めてマスターのライブを見に行った時から感じてる。
ミクがマスターのお家に来てまもない時に、
「僕達のライブを一度見に来ないか?」
って言われてライブに連れていってもらった。
ミクはステージの上のマスターを下から見ていた。
ギターを弾きながら楽しそうに歌うマスターは
照明の光に照らされて輝いているんじゃなくて、
マスター自身の自らの光で輝いてた。
ああ、この人は本当に音楽を愛してるんだと思った。
そして羨ましく思った。
マスターの奏でるギターの音。マスターの歌声。マスターのきれいな曲。
ミクには無い素敵な物たち。マスターの愛する素敵な物たち。
ミクはアンドロイド。
マスターは『ミクの声は良い』『ミクは歌が上手い』って褒めてくれるけど、
結局は作られたもの、ミクの物じゃない。
羨ましいそして憧れてる。
ミクはずっとマスターに憧れて恋してる。
変だね、ミクはボーカロイドなのに……。
マスターに『バンドのボーカルをやって欲しい』って言われた時すごく嬉しかった。
マスターの隣に居られる、マスターの一歩に近くに居られる。
マスターに近づけると思った。ミクも輝けると思った。
でも、全然違う。
もっと遠くに感じる様になった。
自分がもっとちっぽけに感じた。
マスターの気が惹きたくてワガママ言ったり、すぐに拗ねたりしちゃう。
そんな自分が嫌い。ちっぽけなミクが嫌い。
マスターのようになれない。マスターに近づけない。
募る焦燥感が苦しい。虚無感が悲しい。
気がついたらミクは歌っていた。
マスターの曲に合わせて歌っていた。
光輝くあなた 無機質な私にはあなたの光が移せない
あなたの目には 何が映りますか
私の目には あなたしか映らない
ちっぽけな私 大きなあなたに恋焦がれてる
あなたは 私を愛してますか
わたしは 私が嫌いです
大きなあなたを 求める私
ちっぽけな私には過ぎた事
わかってる
でも あなたの光が欲しい
あなたになりたい
あなたに 愛されたい
楽譜を抱きしめてミクは何度も歌う。
ミク崩れてしまいそう。
崩れて無くなっても良いや。
マスターに迷惑ばかりかけてるミクなんて……
ちっぽけな私なんて………
「……ミク」
ハッと顔を上げると、マスターが立っていた。
「どうして……」
ここに居るんですか……?
「ちょっと忘れ物があってね……取りに来た」
マスターはゆっくりとミクに近づいてくる。
「良い歌詞だね……でも、すごく悲しいね?」
そっとベッドに腰下ろしたと思ったら
「!?」
「ごめん」
気がついたらミクはマスターの腕に包み込まれてる。
大きくて暖かい腕……やっぱりミクには持ってないもの。
胸がキュッてなって苦しい。
人が『泣く』時になるような感情が胸を締め付ける。
「ごめん……ミクがこんなに苦しんでるなんて気付いてあげられなくて、ごめん」
「マスター……違い、ます」
声が震える。
「マスターが、謝る必要は…ありません。ミクがッ、ミクが。悪い子なんですッ!!」
「ミクは悪い子じゃないよ」
「嘘ですッ!!!!」
思いっきりマスターを突き飛ばす。
目を見開いて驚くマスターに楽譜を投げつけようと手を振りかざす……
でも……出来なかった。出来る訳がない。
何やってんだろう……ミク、何がしたいんだろう……?
楽譜を胸元で抱きしめて、涙なんて出ないのに『泣く』。
ミクは大声で『泣いて』しまった。
「ミクはわ、がままです。マスターに迷惑かけてばかりで。
マスターの音楽応援したいのに……でも、寂しくて、羨ましくて、悲しくて。
もうどうしていいかわからないんです、ミクはマスターの邪魔なだけなんです!!」
もう何を言っているのか自分でもわからない、わからない。
むちゃくちゃでぐちゃぐちゃで。
「……落ち着いて、ミク」
マスターは震えるミクの片手を取って優しく優しく握りしめる。
優しいマスター。
でも、それが余計苦しいよ。
マスターはこんなに優しくて素晴らしい人なのに、
ミクはこんな風に『泣き』じゃくって、ちっぽけ。
ミクは嫌々と手を振り払おうとする。
これ以上惨めな気持ちになりたくなかった。
でも、マスターはより一層強く握りしめて、真っ直ぐミクの目を見つめる。
「ミク、聞いて。君はちっぽけなんかじゃない。
自分をそんなに傷つけないでくれ」
「…………」
「ミクの事をほっといて曲作りに夢中になっていた僕が悪かった」
「違うって言ってるじゃないですか!? ミクは音楽に夢中なマスターが大好きです。
でも、すごく遠くて、眩しくて、作り物のミクじゃお傍に居られないって……」
思うと悲しくて……
「作り物……? その事を気にしてたのか?」
「そうですよ!! どんなにマスターが褒めてくれてもミクのは作り物なんです。
ミクの歌声は偽物なんです!! マスターとは違うんです……」
「違うッ!!!!」
思わずミクはビクッと肩を震わす。
マスターが声を荒げるなんて初めて見たから。
「違う、それこそ間違ってる!!
楽しそうに歌う声、切なげに歌う声、喜んで歌う声。
僕が聞いてきたミクの歌声は紛れもない本物だよ。
ミクにしか出せない歌声……『君だけの歌声』だよ」
「……ッ」
「ミクは僕が輝いてるって思ってるけど、それも違う。
僕は輝いてない、僕もまたちっぽけな人間だよ」
「そんなこと……」
「僕自身は輝いてない、僕の夢が輝いてるんだ。
ちっぽけな僕には大き過ぎる夢。
でも、輝く夢を背負う事で僕は少しでも光が貰える。
ミクと僕の違いは……夢だよ」
マスターは両手をミクの肩に置くと口をミクの耳元に寄せる。
「だから……ちっぽけな者同士同じ夢を背負わないか?
そして、いつの日か一緒に輝こう」
少し顔を離して微笑むとミクを思いっきり抱き寄せる。
より一層震えるミクの体をなだめる様に優しく背中を撫でる。
「マスターのお傍に居られるんですか……? わ、私も輝けるんですか?」
「ああ、今はそうじゃなくても良いんだ。君は輝ける」
「ッ……本当ですか?」
「本当」
「ほんとに本当?」
「ほんとに本当でマジだよ」
マスターの胸に額を擦り付けてミクはまた大声で『泣く』。
悲しい『泣く』じゃない。苦しい『泣く』じゃない。
嬉しい『泣く』なんだ。
長く長くミクはマスターの腕の中で『泣く』。
喜びを強く強く噛みしめるかのように。
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