最終話~そばにいて欲しくて
あの夜から数日が経った。
泣きじゃくる愛花を「よく頑張ったね…」と言い肩を抱き続けながら、僕は1つの決心をした。
まだ彼女には言っていない。
その前に片付けなければならない問題がある。
「おう、花田、久しぶりだな…」
「俺が記者で賞を貰って、そん時の祝賞会以来だな!!」
僕は花田を病院から離れた喫茶店に呼んでいた。
花田は新聞記者でも有名な方で、ほかの新聞社からの引き抜きが絶えないが、全て「面倒臭い」という理由で断っている。
真意は不明だ。
「どうだ松田、ビビったろ、え?ほら、言ってみ?」
花田は写真をピラピラさせながら僕を脅す表情で見ていた。
「おいやめろ、とりあえずその写真を仕舞ってくれ!!」
「ははは、やっぱりビビってたか…見ろよ」
笑顔で花田は写真を渡す。
「はい、これで良ければ」
それは、例の祝賞会で撮った集合写真だった。
「畜生め!!!」
「焼き増ししたヤツ渡すの忘れてたからな」
カウンセラーが新聞記者に踊らされていた。
ジャンルは違うが、メンタリストVSメンタリストである。
「で、どうするんだお前?本当だったら職種的にもアレだし、その前に犯罪物だぞ」
なんだよ、余裕ぶって…。
僕はギュッと拳を握った。
「僕は、もう決めてる」
その時、一息ついて、花田が学生時代の素の表情に戻った。
「良かった、お前は変わってないよ、劇的な環境の変化に最初は戸惑うけど、ちゃんと最後は責任取って行動を起こすんだからな…」
こう言いながら、2枚の写真を僕に渡した。
1枚は問題の写真。
そしてもう1枚は…。
「これは…」
「これは愛花ちゃんの中学で、学生が学生同士で買春してる証拠写真だ」
話が繋がった。
「…花田、まさか」
「愛花ちゃんの中学には元からそんな噂があってな…ちょうど追ってたんだ」
こいつ嘘を吐いている。
その目の下のクマはいつもの倍以上の労力を使ってる感じだ。
…別件を追いながら張ってたな。
「僕…なんてお礼言っていいか分からんよ…」
「おう、今日のこのコーヒー代を奢るのと、少しだけこの話に加わっていいのなら、あとは何も言わんよ…」
確かに、写真だけあっても、裏付けである記者の証言がないとこれから先に話にならない。
「いつもはこういうので100万位稼ぐんだがな…まぁ…写真部の時に掃除当番ずっと代ってくれた恩という事で」
こいつは何という悪友なんだ…。
さらに数日が経った。
よく考えれば、最初は愛花の行動1つ1つに戸惑いを覚えていたのに、そんな事も今では忘れてしまった。
愛花の失声症は完治していた。
ただ、今の状況に僕が息を飲んでいる。
豪華なテーブルな向こうに愛花の母がいる。
歌峰邸に僕と花田、そして愛花で訪れていたのだった。
「花田さん…お名前はよく伺ってますが、今回はどういう事ですか?」
「いつも歌峰議員の事務所の方には取材の協力でお世話になってますが、今回は私情で上がり込みまして、本当にすみません」
愛花の母は愛花と僕の方をチラっと見て言った。
「こんな不貞操な娘にはもう会いたくなかったんだけど、今度はカウンセラーとなんて…」
僕が「そんな事実はない!!」と立ち上がろうとしたのを花田が制した。
「このバカが凄い事をやらかしてしまって、まぁ、とりあえずこれを見て下さい」
買春の写真を見せながら、事の説明を始める花田。
愛花の母の表情が変わる。
驚きを隠せない様だった。
「そんな事…ないわ…いいえ…勘違いよ…だって男と寝て…その後何も話さなくなって…全部あなたのせいよ…西生会病院を訴えましょう…この最低男を…」
僕を指差しながら言った。
その時。
「先生は何も悪くないっ!!!!」
愛花が大きな声を上げた。
「だってお母さん、私を責めること事しかしなかったじゃん…誰かに…誰かにそばにいて欲しくて!!!!」
嗚咽を漏らしながら泣き崩れる愛花。
しばらく愛花の嗚咽が部屋に響いた。
「愛花ちゃん…松田は愛花ちゃんに何もしてないよな?」
「うん…ひっ…うぐ」
花田の質問に即答する愛花。
そして。
「本当に医療の域を超えた事をしてしまってすみませんでした!!」
僕はテーブルの横へ行き、土下座した。
「い…いいんです…松田先生…もう」
戸惑う愛花の母。
そして、僕は、すべての決意を口にした。
「僕が全て責任を取ります!!!愛花ちゃんの事を…」
5年後。
僕は西生会病院を辞め、勉強をし、スクールカウンセラーになった。
たくさんの悩める小中学生を相手にして、教育という矛盾の多い世界の難しさを知った。
「はぁ…今日も深刻な話ばっかりだな…帰ったらメモを取って…」
色々な事を考えながら自転車置き場に向かう。
「せn…裕二さん!!」
「え…」
そこには世界で一番愛する奥さんがいた。
「今日は何でここまで?」
「ちょうど大学の実習が近くであって…何より早く会いたくて…」
頬を染めながら顔を見つめてくる。
「よし、晩御飯はカレーにするか…」
「うん」
誰だって独りぼっちなんかじゃない。
取り残されていては、生きていけない。
私は、最初、心であなたに言ったんだよ。
「そばにいて欲しくて…」と。
トリノコシティから始まるストーリー~最終話~
前話で、近日中って書いてたのに、1ヶ月経ってしまったorz
リアルが忙しくて、小説が書けませんでした…。
そして同人誌の活動に力を注いでいたため、更新がかなり遅れてしまいました。
番外編はまだ分かりませんが、あとがきは必ず投稿しますのでよろしくお願いします!!
トリノコシティから始まるストーリー
リスト→http://piapro.jp/bookmark/?pid=tyuning&view=text&folder_id=198731
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レナイ
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