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 KASANETETO――――――――――私の勝ち。

 「ちっ、調子のんなババア」

 ネルが走りながら毒づく。インカムで無線につなぎ叫ぶ。

 「総員、対空防御!」

 もちろん、対空戦闘を担当する対空砲中隊は命令など待たず行動する。だが、他の部隊は対空警戒能力を持たないので、司令部付きの将官が指揮しなければならない。人員不足に悩むエルメルト攻響旅団では、もちろん将官さえ不足していて、司令部の司令は全員が攻響兵を兼務するというひどい状況である。どうひどいかと言えば、現状の通りになってしまう。こういう事が起こるから、大隊長を誰か引き抜こうという話をしていた所である。

 「ハク!対空防御を発令した!旅団指揮は私がする!攻響戦闘はお前が仕切れ!」

 同じ無線で続けて送る。流石に戦闘中でネルが通信規則を外れたからといって異常と判断されはしない。ハクはショートエコー――敵味方関係なく攻響兵全てに聞こえる声――で返事してきた。

 YOWANEHAKU――――――――――私が『操作』します。
 AKITANERU――――――――――あっ、私はスタラで頼む。
 YOWANEHAKU――――――――――了解。

 『操作』とは、攻響兵を他の攻響兵が文字通り『操作』するのである。この『操作』を行う攻響兵を『攻響指揮兵』と呼ぶが、『指揮』では普通科の『指揮』と混同する為、『操作』と言い習わすのが制式として定まっている。

 AKITANERU――――――――――STAR of ROUND.
 YOWANEHAKU――――――――――Magician of Light.
 HATSUNEMIKU――――――――――Empress of Gurden.
 KAGAMINERENN――――――――――Strength of Frame.

 攻響指揮兵がショートエコーで発した音を、味方の攻響兵が追従する。これで実質上は、攻響指揮兵が他の「VOCALOID」を『操作』する。1秒の判断で明暗を分ける「VOCALOID」戦闘において作戦行動を行う為に生まれた、独特の指揮系統である。

 AKITANERU――――――――――47秒で全基落す。
 YOWANEHAKU――――――――――喋らないで下さい。頭が痛いです。
 KAGAMINERENN――――――――――えっと、僕は。
 AKITANERU――――――――――何があっても全身全霊で黙ってろ。体が勝手に動いてくれる。
 KAGAMINERENN――――――――――はい、はい?あ、。fsdfsdfdsfdfdfffff……………….

 ――――――――――全てを私に委ねて下さい。ひかれかぜ。よるをおどるおとのともがらよ。

 基地から一つの飛翔体が跳んだ。鏡音レンが動かすLat式ミクだ。

 ――――――――――かがやけほし。めざすわれらのしるべとなれ。

 誰かの声が響いた瞬間、鮮やかな熱量を持った物体が空を走ってるのが分かった。

 『対空可能な奴、思った方向に撃て!流れ弾は街がなんとかする!』

 ――――――――――にわにおちるな。てつはいしとなれ。いしはおちるな。
 ――――――――――すべてのきせきはよきひとのために。あしきかぜはされ。

 いつのまにか、レンは空中に上がっていた。どうしたらいいか分からないでいると、ネルから一方的に通信が入った。

 『お前のセンスなんかいらねえから、感じた方向に適当に撃て!』
 「いいんですか?」
 『許可じゃねえ、命令だ!一発でも街に落ちたらてめえ殺すぞ!』

 気が付けば空を飛んでいて、上司に無茶振りされる。とてもひどいと思った。確かに、今向いてる方向に撃てば当たる気がする。どうせ。

 ――――――――――おい手前頭の中犯されたいか?
 ――――――――――撃ちますよはい撃ちました。

 操られる気がするのだ。命令だろうが操作だろうが、どうせ、撃つんだろう。それなら、一応の自由意志でぶちかましたほうが覚え目出度かろうと、レンは判断した。

 轟音と共に、砲撃のフレアが連続する。曳光弾という上等な代物は入ってないから、フレアだけが虚空に吸い込まれていくように見える。その直後。

 『基地全隊、対空迎撃に最善を尽くせ!』

 ネルの檄が飛ぶ。レンが撃った方向では10個程度、ミサイルの炸裂があった。

 ――――――――――やるじゃねえか!前から度胸だけはあると思ってたぜ!
 ――――――――――ざっす。
 ――――――――――死にたくない奴は頭の上のミサイルを撃ち落せ!以上だ!
 ――――――――――それでは困るのですが……
 ――――――――――大丈夫だ。兵が死んでも代わりは
 ――――――――――いないって、知ってるでしょう!補充も利かないのに!
 ――――――――――はい。

 レンには良く分からないが、ちょっと撃っただけで全てが上手く回ったらしい。一々聞くのもめんどくさいので、元の地点に着陸することにした。

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機動攻響兵「VOCALOID」 3章#7

防衛戦の一瞬の局面です><レンきゅん始点ではこうなりました><

閲覧数:73

投稿日:2013/01/11 01:15:54

文字数:2,114文字

カテゴリ:小説

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